聖女に生まれた私は元魔王の娘でした 〜勇者との結婚は避けたいところです〜

ちより

第1話 私は魔王の娘

 


 お父様!! 人間ごときに封じられるだなんて何たる失態ですのっ。私のこの魔力があれば勇者どもなんて簡単にっ、ってあれ? 私の身体が消えて、る!? これは一体…………まさかお父様、私の魔力を持っていこうと!? そんなことをすれば私の存在は無くなって……




 まっ、まぶしいわ……一体何が??


「おめでとうございます」


「おめでとうございます」


 私が消えかかっているっていうのに、誰よ?? おめでとうだなんて、私のこの消滅の力を使って全員闇に帰してしまうわよ!? って、あれ……何、この短い手は……



「おめでとうございます、王妃様。可愛らしい王女様でございます」


 王妃っ!? それに、なぜ皆んな私を見下ろしているの……私は気高き魔王の一人娘、ゼビル姫よっ


「王様、王女様の誕生でございます」


 王ですって、ちょうどいいわ。今こそ一族の無念、ここで果たさせてもらっ!!??


「なんと可愛らしい娘だ」



 っ!!?? こいつ、今……私にキスを……


「ぎゃああああああっ」


「おおっ!! 一段と元気に泣いたな」


「ふふっ……陛下のことがお好きなようですわ」



 なんてことなの、私……敵である人間の、それもその君臨する王の……娘として生まれてきてしまったの!!??








 人間の、それも宿敵である王の娘として生まれて、どれくらい時間が経ったのか。屈辱ともとれるお世話を受け続け、耐えがたい日々が過ぎた。



「王女様はあまり泣かないのですね」


 世話係たちがまた私の話をしているようね、誰があなた達の世話になるもんですか……でも、この身体では何も出来ないし……


「どうだ?? 我が娘はいい子にしているだろうか」


「陛下、はい。先ほどミルクをお飲みになり、30分ほど寝たところでございます……」


「そうか、妻の産後の具合があまり良くないようでな。こうして顔を見にこられるのも我だけで心配していたが……おぉ!! 目を開けてこちらを見ているぞ!! どれ、父が抱っこしてやろう」


 


 なんですって!? 気高い私の身体を気安く触るもんじゃないわよ!!


「ぎゃあ!! ふ……ぎゃぁ」


「まぁ!! 王女様が泣かれましたわ」


「いい子だな、父に元気な声を聞かせてくれるのか。ハハハ」



 そんなんじゃないんだってば……あ〜もう、この身体いつになったら動けるようになるのよ。仕方ないわね、魔力がまだ使えないし、もう少し動けるようになるまで、大人しくしておくしかないわね…………それにしても、人間の王ってば随分と暇なのかしら?? 魔族の王ともなれば、顔を出したことなんてほとんどないっていうのに、この男、ほぼ毎日来てるんじゃないかしら……



「どうやら、またお休みになられたようです」


「あぁ、そのようだ。赤子とは成長が早い。早く妻にも抱かせてやりたいものだ」





 それから、父だけが飽きることなく何度も訪れる日々が過ぎ、人間の世界でいう誕生日が近づいているらしい。周りがいつもよりも忙しそうに動き、今なら脱出できるかもしれない。


 むむむむむむむむっ!! もう少しよ、私ってば、頑張るのよ!!


「まぁ、王女様が!!」


「大変だわ、早く陛下にご報告を!!」



 王女が初めて立とうとしているこの瞬間を、王に見せないわけにはいかないと、護衛とともに、侍女が慌てて知らせに走っていく。


「もう少しですわ!! 王女様っ、もう少し待っていただけないでしょうか」


 何言っているのよ、あなた達私の世話係でしょ?主人の頑張りを止めるとか、どういう神経してるわけ?? でも、本当にもう少しだわ。寝転ぶだけの生活ともようやくおさらば出来るわ。


 あっ!! 立てたわ……


「王女様!!」


 世話係の悲鳴とともに、自分が立てたのではなく、咥えられていることに気づく。


「魔獣が、なぜ……」


「そんな、あんな大きな牙で噛まれたら……王女様!!」


 護衛達が駆けつけるより先に、あろうことか魔王の娘であるこの私を食べようと思っているわけ?? へぇ……身の程知らずね。まぁ、この身体、日に日に魔力が大きくなっているし?? あなたからすればご馳走に見えるわよね。でも、この魔力が誰のものか、よく考えなさい?? 下級の獣なら分かるはずないわね。


「リア様っ!!」


 無謀にも、1番近くにいた侍女が魔獣の口を開こうと体当たりをしてきた。一瞬で叩きのめされた侍女は、その体の重みで踏みつけられそうになる。


「うっ……」


 いい加減にしなさいっ、あなたごとき、私の記念すべき立ち上がりの瞬間を邪魔した時点で終わりなのよ。


 この身体に転生してから初めてではあるが、ゼビル姫として毎日のように使っていた消滅の能力を発動させる。



 消えなさいっ!!



「リアっ!!」


「王女様!!!!」

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