第12話
神様はぼんやりと考え事をしていた
「私は明日、横浜に行く 久しぶりに清水さんに会えるだろうか」
信者の一人が神様の前に進んだ
色の黒い、眼鏡をかけた小男である
「神様、清水さんのことをお考えですか」
「そうだよくわかったな」と神様
「だがお前はあまり見ない顔だ、何者だ」
男は冷たく笑った
「私は悪魔でございます、神様」
「何だと、ウソをつけ」と神様
「ウソです、悪魔のような男でございます」と男は言った
「私の名前は田中でございます」
と言っていきなりナイフを取り出した
「あっ」っと神様は驚いた
「何もしません、神様」と田中は言い
ナイフを素早くズボンのポケットの中に戻した
「相正悟を殺して差し上げましょう」と田中は言った
「人殺しなど許さん」と神様
男性の信者四人が田中を取り囲んだ
「神様が人質です」
と田中は周囲を睨みつけながら言った
信者たちは動揺した
「神様動くな」と田中は言った
「貴様」と神様
「上の階へ行け」
と田中は右手のらせん階段のある方をあごで示した
神様はゆっくりと上の階へ上がっていった
田中がそれについていく
二階に着くと、神様専用の部屋のドアがあった
「開けろ」と田中が言う
神様はおとなしくドアを開けた
「入れ」と田中
田中は神様に続いて部屋に入った
「私をどうする気だ」と神様
「オレの言うことを聞いていれば悪いようにはしない」
「それどころか清水さんを与えてやろう」
と田中は言った
ここは神様の部屋である
部屋にはベッド、机、椅子があった
机の上にはたくさんの辞書や本が乗っていた
田中はベッドの上に寝転がった
田中の体重でベッドがきしんだ
田中はその間も、鋭い目で神様を見ている
「神様、椅子に座ってもいいですよ、ベッドは私が使っていますので」
と田中
神様はおとなしく椅子に座った
「なんのつもりだ」と神様
「とりあえずこの教団は私のものにしたい」
「従ってくれるか神様」と田中は言った
「命には代えられぬ」と神様
「それでいい」と田中は言った
神様は思った
「この男はなぜ今になって突然裏切ったのか」
神様は勇気を振り絞って訪ねた
「田中、なぜわしを裏切った」
田中はせせら笑った
「初めから信じちゃいなかったのさ」
神様は怒りで顔を赤くした
「手下と金を得るために利用させてもらった」と田中は言った
「あんた、教団をこれ以上大きくするつもりがないようだ」
「これは別れの挨拶だ」
突然、田中は立ち上がりナイフで神様に切りつけた
「ギャアッ」と神様
田中は素早く部屋から出て行った
田中はらせん階段を駆け下りた
声を聞きつけた信者たちが田中を取り囲んだ
田中は信者たちに向かってナイフを振り回した
信者たちは逃げ回った
田中はそのまま建物から出て行った
信者たちは慌てて神様の部屋に駆け付けた
神様はベッドの上に横たわっていた
ほっぺたに「v」字の傷があり、そこから血を流している
「神様、大丈夫ですか」
信者たちが駆け寄った
「あの男は行ったのか」
と神様は震える声で言った
「はい」と信者の一人が言った
「私は大丈夫だ、怖かった」
と神様は言った
岡山県のとある喫茶店である
そこのテ-ブルの一つに
田中と色白の痩せた四十代くらいの女が座っていた
女は吸いかけのタバコを灰皿で消して言った
「田中さん、今日は何の用」
「相正悟を知っているか」と田中
「知っているけど、ていうかこないだ見たよ。奈々ちゃんの結婚式で」
と女は言った
「私は相正悟と手を組みたい」
と田中は言った
女は笑った
「無理よ、あの人は善人だもの」
「相正悟は以前、ササキという男にお金をだまし取られた」と田中は言った
「由美子、お前の味方という事でも構わない」
由美子は少し動揺した
「どうやってやれっていうの」
「だますんだ」と田中
「出来るか」と田中
「え-、難しいと思うんだけどあの人の場合」
と由美子が言った
「報酬はあるの」と由美子
「もちろんだ」と田中
「金は出す、ただし相正悟が決して裏切らないとわかったらだ」
「だったらあたしの男にするしかないじゃん」
と由美子は言った
「それでいい」
と田中は言った
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