第4話 宿敵の娘に飼われるなんて、聞いてへん!!

【深夜、悪夢と気配】


(馬房で眠るプリン。夢の中で、あの戦場──草がなびき、馬が倒れ、叫び声が響く)


美加丸みかまるぅぅぅ!! 下がれ!! まだ早いぞ! 突撃は──》


《うぬっ、織田の将、かほど卑怯な手を使うとは、恥を知らぬ輩よ!!──》


(視界が赤く染まり、ザシュッという音。プリンが呻き声と共に目を覚ます)


(夜の厩舎。静けさの中、ふと人の気配)


(がちゃ……と控えめな金具の音。プリンは小さく息を呑む)


(扉の外、誰かの気配。うっすらと月明かりの中、後ろ姿のシルエットが一瞬見える)


《……誰や、今の……?》


(後ろ姿の人物は何も言わず、すっと闇に紛れて去る)


《……まるで……見張られとったような気がする……》


(プリン、ふたたび目を閉じながら)


《あの目……どこかで……見たこと、あるような……》




⸻⸻⸻⸻⸻⸻⸻⸻⸻⸻⸻⸻


【ここはぬかるむ、通る道は一つ──!】



《──その朝の外乗は、いつも通りのはずやった》


《空は晴れ、風もぬるくて、子どもらの笑い声が列にのぼって──》


《……けど、あの雲……なんや、変や》


先導スタッフ:「前方、いったんストップ!みんな、慌てないで!大丈夫だから!」


成田:「無線つながりません! 電波弱すぎます!」


《ぬかるみの匂いや……雨、来るで》


先導スタッフ:「うわっ!道、崩れてる!?」


ユウト:「え、引き返せる?あっちの道ももう……」


《戻るのも危ない。このままやと、子どもらも馬も危険や》


《──でも、この地形……なんか見覚えある》


《あの丘の向こう──そうや、水場の手前に、抜け道があったはずや》


(プリン、鼻を鳴らしてスッと列の前へ)


成田:「……えっ、プリンさん?」


《あかん、誰かが道を示さな。ワシが行くしかないやろ》


(ざっ、ざっ……)


子どもA:「あれ? プリンちゃんが前に出てる!」


成田:「いやいや、勝手に動いたら──」


先導スタッフ:「……ちょっと待って、今“坂東武士”みたいな口調聞こえんかった?」


ユウト:「えっ、中に人間入ってる説、再燃っすか……!?」


成田(無表情):「それはないです。骨格的に」


《“骨格的に”て……どこで判断しとんねん》


《けど、もう迷ってる時間はない》


《風が教えとる。この先に、道はある》


《──ここはぬかるむ。通る道は、一つや》




⸻⸻⸻⸻⸻⸻⸻⸻⸻⸻⸻⸻


【なんでそのタイミングで“戦国武士口調”やねん!】



(プリン、足を止める。先頭から見下ろす小さな谷──)


《一歩間違えば、滑って馬も人も転げ落ちる。けど──》


《この先に、通れる道がある。かつて、夜襲をかけたあの夜と同じ》


《……ワシの勘じゃない。記憶や。確かな、前世の戦場の記憶や》


《──ここや。ここを抜ければ、必ず戻れる》


(プリン、グッと首を下げ、ぐるると低く鼻を鳴らす)


(そして──踏み出す)


(先を行く馬に、子どもたちを乗せた馬も自然とあとを追う)


先導スタッフ:「……な、なんかすごい、統率感……」


ユウト「プリンに全員ついていってる……!」


(成田、手元のセンサーパッドを見ながらぽつり)


成田:「心拍、呼吸、すべて安定。脳波も……ぶれない。まるで──“目的”を持ってるかのようですんね」


ユウト:「え、でもプリンって、そんな“リーダーシップ”タイプじゃなくね?」


成田:「いや、プリンちゃん……今、完全に“先導馬”してますよ」


先導スタッフ(小声で):「……いや、さっき“通るべき道はただ一つ”って聞こえたんだけど……?あの馬、喋った?」


ユウト:「マジ? 口動いてた?」


成田:「発声器官的には不可能……のはずですけど」


ユウト:「いやいや、もうこれは“中に人間入ってる説”再燃っしょ!」


(ブチッ)


(プリン、鼻で思いっきり草を鳴らして睨む)


《うるさいわ!!!》


(プリンのしっぽがビシィと風を斬る。何故か皆、ぴたっと黙る)


(そのまま列はプリンを先頭に、斜面の細道を一歩ずつ進んでいく)


(滑らないように足を選びながら──)


(風が、湿り気を運んでくる)


《あかん、もうすぐ本降りや》


《けど──あと少しで、抜けられる》


《──見えてきた。あの林の向こうや》




────────────────────────


【英雄、帰還す──でもなんか様子おかしない?】


(プリンを先頭にした隊列が、無事に木曽馬トレッキング牧場へ戻ってくる)


スタッフA:「戻ってきた!全員無事だ!」


スタッフB:「先頭、プリン!? え、プリンが……導いたの!?」


(子どもたちがプリンを撫でながら歓声)


子ども:「プリンちゃんありがとう〜!」「ヒーローだぁ!」


ユウト:「え、撮れてた?今のすごくない!?英雄ポニー爆誕って感じ!」


成田:「……GPSログ、完全に最短ルートでした。偶然とは思えない精度……」


先導スタッフ:「中に人、入ってる説……本格的に検証した方がいいかも……」


(プリン、しっぽでバシィ!)


《またそれかい!!》



────────────────────────



(その日の夜、厩舎にて)


(何頭かの馬たちが、顔を出して──プリンの方を見ている)


(その中に列の先頭を歩いていた馬がいる)


《……よくやったな》


(──え?)


(確かに、聞こえた)


(馬の声が──言葉として、はっきりと)


(つづいて、もう一頭)


《あんたが先に立ってくれたから、みんなついて行けた》


《鼻、鳴らしてくれたよね。合図な》


(口を動かさず、ただ目を合わせ、鼻を鳴らし、しっぽを振る)


(──けど確かに、聞こえる)


(まるで、風が通訳でもしてるかのように──馬たちの想いが、言葉になって届いてくる)


《……あれは戦だったな。おまえさん、前に立ってくれたな》


(プリン、小さく目を細め)


(ふ、と鼻で笑う)


《……ようやく、通じたんやな。ワシら──馬同士やもんな》


(次の瞬間──風がふわりと吹いて、ざわめきが消える)


(まるで、魔法が解けたように)


(さっきまでの“言葉”が、ふつうの嘶きに戻る)


(──プリンは黙って、草を一口食む)



──────────────────────────────────────



【え、ワシ、譲渡されるってマジなん……?】



(朝。馬房に陽が差し込む。プリンが眠そうに目を開ける)


《……ふぁ〜あ……今日は放牧か。よう寝たわ。昨日の出来事が夢のようやわ……》


(スタッフの足音が近づいてくる)


ユウト「プリンさんおはよー。もうすぐお別れなんてさみしーよ!」


成田「そうそう、でもいいとこに移籍できて良かったよね」


《……え? い、いま……なんて? お別れ?移籍……?》


《え、なに?なんでそんな顔するんや?》


ユウト:「……なんか、プリンさん、ほんとに行っちゃうんだね……」


成田:「ああ……ほんと、最後に立派な姿、見せてくれたね……」


《最後に立派な姿ってどういう意味?ワシどうなんのや?》


(ユウトと成田、二人がかりでいつもより丁寧に手入れしてくれる)


《え、え、ちょっと待ってや。移籍て……譲渡……されるんか!?》


《ワシ、なんも聞いてへんねんけど!? 昨日の英雄ムーブどうなったん!?》


(そこに少女がひとり現れる)


少女「おはようございまーす」


ユウト「あ、おはよー。プリンの様子見にきたの?」


少女「はい。プリンを連れて一緒に帰るの、楽しみです」


(少女の目がギラリと光る)


《……なんや、この視線……なんか……圧がすごい……!》


(プリン、じっとその少女を見つめ返す)


《ま、まさか……この子がワシを引き取る主やというんか……?》


(ユウトと成田は少女と話している)


《ま、まじか……ワシ、ほんまに譲渡されるんか……!?》


《……っていうかこの子、なんや、どっかで……》


(視線がぶつかる──少女、表情変えずプリンを見据える)


《……いやいやいや、ちょっと待て。なんでこんなに“目”が強いねん!?》


《普通の子どもの目やないぞ、これ!?》


《夢に出てきた“あの目”に似とる……まさか、まさか……!》


(プリン、鼻をぶぅぶぅ鳴らしながら不安に駆られる)


《ほんまに、ほんまに譲渡されるんか……?》


《なあユウト、成田、これどういうことか説明してくれや!?》


《なあ、ユウト、成田……って、?》


(振り返るプリン)


《って、おらへんのかい!》


(鼻、ブーブー)




────────────────────────


【いざ、参らん、敵陣へ!】


(翌朝。スタッフたちのにぎやかな声)


「おはようございまーす! プリンちゃん、今日はいよいよ出発だよー!」


「そうそう、移籍先が決まったんだって! よかったねえ、プリンちゃん」


(子どもたちが2〜3人、騒ぎながら寄ってくる。その中に──じっとこちらを見る少女。目力が強い)


子どもA:「この子、オダッチの家のクラブに行くんでしょ?」


少女:「うん、そうだよ。うちの親がやってるクラブの馬になるんだよ」


(プリン、ビクッ)


《……オダッチ……!? うちの……!?》


スタッフ:「オダちゃんちは大きな乗馬クラブだからねえ。プリンもいい余生が送れるよ〜」


《……オダッチ……!? ……オダちゃん!?》


《──オダ……! 織田……!! 織田信長の“オダ”かぁぁぁあああ!!!》


《まさか……この童……武田家の宿敵、織田の者であったか!!!!》


《くっ……図られた……。全ては仕組まれておったというのか……!!》


《ワシが──このワシが、よりによって織田に囚われるとは……!!》


《おそらくは、信長公の血を引く者……いや、信孫(しんそん)か!? あるいは転生した信長そのもの……!?》


《あかん……あかんでこれは……!》


《土砂災害ですら、もしかして“陽動”やったんちゃうか……?》


《あの混乱の中で評価を上げさせて、全部うまく“誘導”されとったんか……!?》


《ワシは──織田の馬として──この草を喰うことになるのか……! 無念……無念なり……!》


(鼻、ブーブー)




⸻⸻⸻⸻⸻⸻⸻⸻⸻⸻⸻⸻


【いざ往かん。さらばじゃ!】



(場面:木曽馬トレッキング牧場の駐車スペース。馬運車がスタンバイしている)


(プリン、出発準備中。スタッフがいつもより丁寧に誘導している)


《……なんや……今日はやけに優しいな……別れの前の静けさってやつか……》


(ふと、馬運車の車体に視線を向ける)


(ロゴ:OD STABLES)


《……OD……!?》


(文字を凝視するプリン)


《オ……D……!? “OD STABLES”……織田の厩舎やないか……!?》


(鼻、ブーブー。額から冷や汗)


《まさか、ここまで堂々と……隠す気ないんか!?》


(すれ違うスタッフたちは普通に談笑)


(プリン、少女の方を見る)


(少女も鋭い目でプリンをじっと見ている)


(視線が重なる)


(──一瞬、時間が止まる)


《この目……》


《なんや、どこかで……》


《──そうや……あいつに似とる》


(記憶がぶわっとよみがえる)


(戦場の記憶──夜明け。斃れたプリンを見下ろす、馬上の人影)


(その将の目──光を帯びた、冷たい目)


《あの夜……最期にわしを見下ろしとった、織田の将の目に……!》


《あの目ぇや……》


(少女の目がフッと細められる)


《まさか──転生して、また巡り会ったんか!?》


《わしを殺したあの敵将が、今度は……少女として転生して、わしを飼うんか!?》


《なんちゅう因縁や!!》


(バタン、と馬運車の扉が開く)


スタッフ:「じゃあ、プリンちゃん乗せまーす。気をつけて行ってらっしゃーい!」


(引かれて馬運車へ)


(乗り込む直前、少女が一言つぶやく)


少女(小声で):「……楽しみにしてるから」


(プリン、凍りつく)


《──ひいいいいいぃぃ!!》


《完全に刺客の言い方やんそれえぇぇええええ!!!!》


(プリン、馬運車に乗せられる。バタンと閉まる)


(車体に大きく「OD STABLES」の文字)


(馬運車のエンジン始動。)


《……これが、戦(いくさ)か……》


《馬運車とは……すなわち、戦地へ向かう駕籠(かご)よ……》


《この身が再び、織田の地で命を使う日が来ようとは……》


《だが……やる。やるぞ、ワシは。今度こそ……見誤らん。負けん。絶対に。──たとえ相手が、宿敵・織田の娘でも!!!!》


(鼻、ブーブー)


(馬運車が走り出す。見送る人々の列の中──)


(ユウトが、帽子を脱いで頭を垂れている)


ユウト(小声で):「……プリンさん、今までマジでありがとうっす……」


(その横で、成田が静かにゴーグルを拭っている)


成田:「……あの反応。なんか、好きでしたね」


(二人の姿をプリンは車内から静かに振り返る)


《……おぬしら……》


《まったく騒がしいやつらやったけど──》


《……ワシ、ちょっとだけ、名残惜しいわ》


(首をすこしだけめぐらせ、鼻をふん、と鳴らす)


《さらばや。生きよ、無事でな》




(つづく)

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