転生したら関西弁のポニーだったが、元戦国武士です〜リセマラ失敗から始まる馬生〜

赤栗ハイツ@文体実験

第1話 “プリンちゃん♡”と呼ばれた元戦国武士

──戦国武士だったワシが、ポニーとして第二の馬生を始めるなんて聞いてへん!



【転生の瞬間】


我が名は──加賀美左馬之助(かがみ・さまのすけ)。


甲斐国かいのくにに生を受け、名高き武田信玄公たけだしんげんこうに仕えて二十余年。


武芸に励み、忠節を尽くし、幾たびの戦場を駆けたこの身に……悔いなど、あるものか。


いざ、参らん──!!



(ザシュッ!!!)




(……暗転)




《……》


《……なんやこれ》


《体が重い……》


《ていうか、なんか変やないか? 足》


《しかもなんで四本あんねん。手ぇどこ行ったん?》


《……視界が低い。床が近い》


……なんやこれ。完全におかしいやろ。


(ワサッ……ワサッ……と藁の上を歩く音)


《……なんか爪先に重いもんついてるし》


《……て、鉄?》


《これ、もしかして、馬の……?》


《……いや、まさか。ワシが、馬て。そんなバカな》


(すぐそばに水桶があることに気づく)


《……ちょ、なんか水あるやん。とりあえず飲むか──》


(水面にゆらりと何かが映る)


《……は?》


《……ちょ、待って》


(ぴょこんと立った耳。長すぎる顔。くりくりの目)


《……誰やこの馬ヅラ!?》



(沈黙)




《……いや、ワシやんかあああああああああ!!!!!!》



《なに!? なんで!? どこで!?》


《ていうか、なんで馬?、話し方、変やん!?》


《ここ、地獄か!? それともギャグ漫画の中か!?》




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【ニンジンの屈辱】



馬房ばぼう=馬の部屋の扉の外から、女性スタッフの明るい声)


「あっ、プリンちゃーん! おはよう〜♡」


《……え、今なんて?》


《……プリン?》


《……誰がプリンやねん。お菓子か。ワシは》


(スタッフが馬房ばぼうに顔を出す)


「プリンちゃん、今日から外乗がいじょうデビューだよ〜、よろしくね〜!お客さん乗せて、トレッキングツアーに行くよ〜!大丈夫〜?」


《……いや、ワシに聞いとらんやろそれぇぇぇ!!!!!!》


《ってか、ここどこ? 外乗がいじょうデビューって何?》


(スタッフがニンジンを差し出す)


「プリンちゃん、とりあえずニンジン食べる〜?」


(ゴトッと桶に落ちるニンジン)


《……なんや、ワシに向かって差し出しとるの、これ……ニンジンやんけ》


《馬扱いも大概にせぇよ……いや、馬やけども!》


《こんなもん、食えるか……! 武士に対する侮辱や!》


(じー……と見つめる)


《……けどまぁ、一口くらい……な……な? 武士も腹は減るし……》


(ポリッ)


《……う、うまっ!》


《……って、うま!? ウマだけに!?》


(バンッと自分でツッコむ)


《やかましわァッ!!!!!》




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【ツアーデビューと“関西弁の謎”】


(馬のつなぎ馬でトレッキングツアーに参加する親子連れに説明する牧場スタッフ)


スタッフ:「はーい。皆さん『木曽馬きそうまトレッキング牧場』へようこそ!今からお馬さんを紹介します!はい、この子プリンねー」


子供:「あっ、プリンちゃん、鼻鳴らしてる~♡かわいい~♡」


《いや、ちゃう。これは抗議や。抗議のブーブーや。かわいいとかちゃうねん……いやまぁ、かわいく見えるのか……? ……いやでも!》


(ブーブー再び)


子供:「ふふ、なんかお話してるみたい~」


《……あかん、通じてへん。いやもう、ええわ……好きに思といて……》


(スタッフに連れられ列に加わる)


スタッフ:「じゃ、プリンちゃんは最後尾でね~。よろしく~!」


《……ああ、よろしくて……おお、ワシ今、馬として正式に“社会人デビュー”したわけか……はぁ……》


(歩き出しながら)


《……でもやな。ひとつ、どうにも気になっとることがあるんや》


《ワシ……なんで心の声、関西弁なん?》


《出身は甲斐国かいのくにやぞ!?関東やぞ!? “であろう”とか“いざ参らん”とか言うとったワシが──


なんで今、“せやな〜”とか“ちゃうやん”とか言うとんねん!?!?》


(動揺して足を滑らせる)


子供:「きゃー! プリンちゃん、びっくりしたよ!」


《ちゃうねん! ワシがびっくりしとるんやあああああ!!!》




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【草の匂い、あの戦場】


スタッフ:「はーい、みなさん!ここで休憩タイムでーす。この原っぱね、戦国時代に武田信玄っていう武将も通った場所なんだよ〜」


参加者、子供:「えー、すごーい」


(足元の草の感触にふと、過去の風景が重なる)


(回想:戦場の草原。風が走る。馬のいななき)


《あの匂い……》


《あの戦……従兄弟の美加丸みかまると走った……この道やったな……》


(現在に戻る)


《……あいつ、どうなったんやろな。あの戦のあと、生きとったんか……死んだんか……》


《いや、もうええ。今さら知ったところで、どうにもならんやろ。でも……》


(風が草を揺らす)


《なんやろ、この風……どっかで、また会えるような気がしてな……》


(列がゆっくり動き出す)





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【おじいちゃん、て!? 年齢据え置きの絶望……】



(ツアー終了後。親子連れとスタッフの会話)


子ども:「ねぇ、このお馬さん、なんさいなの?」


スタッフ:「んー、プリンは……30歳くらいだね」


子ども:「30って、おとな?」


スタッフ:「うん、すごいおとな。人間だったら……80歳くらいかなあ(笑)」


(プリン、静かに振り返る)


《……なんで?なんでや?!……なんで転生してんのに年齢据え置きなん?しかも馬年齢的には爺さんて、何やねん!!!》


(鼻をブーブー鳴らす)


子ども:「プリンちゃん、鼻鳴らしてる〜♡かわいい〜♡」


《いや、ちゃう。これは抗議や。抗議のブーブーや……いやまぁ、かわいく見えるのか……? ……いやでも!》





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【夜が明けて、また一歩】


(翌朝、厩舎前のつなぎ場。スタッフたちが手綱を準備中)


スタッフ:「プリンちゃん、今日はトレッキング引率お願いしまーす! ……あ、ごめん、最後尾だった(笑)」


《ちょい待ち! 今日は引率ちゃうんかい! ワシ、またいちばん後ろかい!》


(列がゆるやかに動き出す)


(足元の草を踏みしめる)


《でもまぁ……草の匂いも風の感触も、わるうないな……》


(前を歩く子どもが振り返る)


子ども:「ママ、プリンちゃん、ちゃんとついてきてる〜!」


母親:「うん、安心ね〜」



(プリン、ゆっくり首を上下に振る)



《……よっしゃ。しゃーない。今日はワシが最後尾、務めさせてもらいますわ》



(風がそよぎ、草が揺れる)



《いざ参らん……いや、行ってくるで……新たな馬生、第一歩や》




(つづく)

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