第121話「実権は俺だ・その2(司視点)」
#第121話「実権は俺だ・その2(司視点)」
石動の一方的なやり方に、腹の底がぐつぐつ煮え立つ。クランを乗っ取るだけでなく、何をするにも書面提出という細かい罠まで入れてやがる。これでは俺が裏で動こうにも動きようがないじゃねーか。
「みんな、こんなやり方を飲んでいいのか? 何をするにも書面提出って完全に手綱を取られているんだぞ。あり得ない話だ。こんなの俺たちに自由は全くないぞ?俺たちはクーデターを起こすべきだ!」
会議室で声を張る。これで俺に賛同するやつが何人も出るはずだ。結局は人望がものを言う。人望がな!
だが、現実は冷たかった。
「御影くん、それは仕方ないよ。実質クランを仕切ってる石動さんが言うんだ。その通りにするしかないよ。それに社会人になったら書面提出は常識、今までのような学生時代のノリは無理だよ」
最初に口を開いたのは、いつも空気を読むタイプのメンバーだ。優等生タイプで計算高く動く。こういう、有利な側にうまく立ち入って点数稼ぎする奴はどこにでもいるんだよな。むかつくやつだ。しかし続いて、紗月まで。
「私は司くんの言うことも一理あると思うよ。でも、今は石動さんが事実上の実権を握ってる限りはしかたないよ。言う通りにやらないとクランから追放されるかもしれない。それは司くんも困るよね……だから言う通りにやろうよ、ねっ?またチャンスは廻ってくるよ」
胸の奥がざらついた。お前までそっち側かよ。
進行を引き取った佐藤が、落ち着いた声で言う。
「みんな、石動さんの方針に従うことで一致、でいいかな。反対の人は手を挙げて」
……周りを見るが誰も挙げない。むかつく、これでは俺ひとりが浮いているみたいじゃねーか。
「では計画に沿って、討伐はレベル5の御影君が中心になります。明日から週5で6時間、レベル3の人たちをレベル4に引き上げる補助を御影君にはお願いしますね――」
「ふざけんな! 実権は石動や佐藤が握って、きついことだけを俺がやる?そんな馬鹿なことができるか! おかしいだろう!」
思わず机を叩いた。乾いた音が会議室に跳ねる。
俺の言うことはもっともなはずだ。しかし誰も賛同する声がない。
佐藤は俺から視線を逸らさない。気が弱いくせに今日は妙に芯がある。それもむかつく。
「困るよ、御影くん。討伐の中心がいなくなるのは本当に困る。でも、石動さんの計画に従えないならクランからの追放が選択肢になるよ。……御影君はそれでいいの? 一緒に頑張ろうよ」
「何を言っているんだ、俺のクランだぞ! なんで俺が追放なんだ! どう考えても道理に合わないだろう!」
「そうは言っても、今は実質的に石動さんが運営を見てるクランになってるんだ。そして、こうやって他のメンバーも全員、石動さんの言う通りに動くことで納得してる。紗月さんも、今日は“従った方がいい”って言ってるよね。それが現実なんだよ」
紗月は目を伏せ、小さく頷いた。
「……ごめんね、司くん。私はもちろん司くんの味方だけど、こればっかりどうしようもないと思うの。実権を握っている石動さんに反発するだけ損だよ。石動さんは社長の命で動いているのでしょ。だったら社長の命令と同じだもん。私達にはどうしたって逆らえないよ」
くそ。石動のせいだ。あいつのせいで俺の味方がいない。反論しようにも何も言い返せない。親父の命令だったら俺でさえもどうしようもない。こいつらごときにどうしようもないのは当然だ。
そこで俺は新しい提案をした。
「なら、俺たち会社から独立するのはどうだ!縛られずに好きにできるぞ!」
しかし佐藤は冷静に反論する。
「そんなの無理だよ。今までも会社から経費を出してもらってやっていたんだよね。それが無くなったら運営が一気に厳しくなるよ」
他のメンバーも同調し始めた。
「そうだよね。せっかく優遇のある企業系クランなのにそこから独立なんて無謀だよ。後ろ盾が無かったら厳しいよ。それはちょっとあり得ないかな」
くそっ、俺に賛同するやつは1人もいねーのかよ。みんなして石動の犬になりやがって悔しくないのか?それで男と言えるのか?
会議はそのまま解散になり、椅子の軋む音と足音が順に遠ざかっていく。取り残された俺は、スマホを握り直して天井を睨んだ。何かいい方法はないか?
――クランの表は取られた。これはどうしようもない現実だ。石動の策にひっかかってしまった。だが、終わりじゃないはず。
まずは佐藤は気が弱い。少なくともリーダーの器ではない。だからあいつはいずれどこかで絶対に躓く。その瞬間、俺が引き取ればいい。
石動? あいつだって人間だ。全部を見張れるわけがない。既成事実を積み上げてしまえば、最後は「仕方がない」で飲み込ませられるはずだ。
くそっ、それにしたって俺が実権を握るまでに時間がかかりすぎる。しかも、それまで俺が中心となってレベル4に引き上げるだと?そんな面倒なことを何で俺がやらなければいけないんだ!
何かいい方法はないものか?ちんたらやっているのは俺には合わない。
それにまずは金だ。止められたクレジットカード、銀行カードの代わりを探す。抜け道は、きっとある。
俺は俺のやり方でやる。
実権は――俺のものだ。
司はそう思いながらも不安は尽きなかった。選択肢があまりにも少ない。世界が急速に狭くなっていくのを感じていた。
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