第110話「噂と段取り」
#第110話「噂と段取り」
朝倉さんのオフィスで、いつもの定期報告をした。
話の最後に『暁の牙』に寄ったという話をしたら雰囲気がちょっと張りつめた。そのため、そこでのやり取りも隠さず話することに。
「なるほど。その辺も、可能な範囲で詳しく頼む」
真顔の朝倉さん。隣のエリナさんも、急に空気が変わるのを感じた。……安易に『暁の牙』の話を出したのはちょっとマズったか?と思いつつ、順に説明していった。
「まず、ルナと繋がりがあるのは向こうも把握していました。なのでルナに稽古を付けてもらっていることを正直に話しました」
「どこから漏れたかはともかく、ルナとの繋がりは隠しているわけでもなくずっと秘密にできる話じゃない。それは想定内だな。逆に何らかの形で隠すと怪しまれるだろう。別に正直に話してもらって全く問題ない」朝倉さんが頷く。
「強くなった理由が腑に落ちた、って言ってもらえました。黒澤さんも田嶋さんも、俺を高く評価してくれていて……素直に嬉しかったです」
「『暁の牙』は君がダンジョンに入ったばかりの早い段から君に目をつけていたから特にそう思うだろうな。外から見たらレベリングもせずに強くなる君の成長曲線は異常だ」
「それから――俺とひよりが付き合ってるって話をしたら、田嶋さんが見事にずっこけまして。『裏切り者!』って。ひより、人気なんですね。こちらでひよりを見かけないって心配している人もいるみたいで」
「ああそうか。ひより君は君につきっきりだからこちらでは見かけないと心配している人もいるんだな。君らが付き合っていることはもちろん公にはしていない。なら、そういう反応にもなるだろう。まあ、その辺りも特に隠す必要もない。それは君たちの問題だ、人に話するなり隠すなり好きにすればいいよ」
俺とひよりは頷いた。もちろん積極的に喧伝するつもりはない。聞かれたら素直に答えるようにすればいいだろう。ひよりは人気があるらしいから多少は恨まれるかもしれないがそれは仕方がない話だ。
「あと、新宿ダンジョンに一回入った件も把握されてました」
「で、使役モンスターの“人化”の件は?何かバレたのかい?」
「そこまではさすがにバレてません。最初そっちを疑われたのかと焦りましたけど、全然別件で……」
「別件?」
「噂では自分たちのことを“ハーレムパーティー”だって言われてるらしくて。ほんと勘弁してほしいですよ」
「はは。美女2人に君が1人。女性の少ない業界だ、男どもから見れば羨望の的だろうな。そういう噂が出るのは自然だ。それは仕方がない。君が使役モンスターと一緒に戦う以上、うちとしてもどうしようもないな」
朝倉さんが肩をすくめる。
まあ確かにそうだ。使役モンスターと一緒に戦う以上、女性と一緒にダンジョンに入っている人間としてみられるのはどうしようもない。でもハーレムの噂はさすがに勘弁して欲しいのだが。
「でも、エリナさんのように綺麗な女性も人もいますよね。そちらではそういった話は出ないのですか?」
「ああ、エリナ君は特別だからな。そもそもエリナ君は女性と思われていない……」と朝倉さんが言い始めたところでエリナさんの視線がきつくなった。
「……言い間違えた。エリナ君はレベル7という特別な存在で性別関係なくハンターの“憧れ”だ。普通のハンターから見れば一緒に戦うなんて恐れ多いんだ。一般的な女性ハンターとは全く違う。エリナくんと一緒にいてもハーレムなんて言う人は誰もいないよ」
朝倉さんが珍しく焦って、言い訳のように早口で語るとみんなが笑った。そしてひとしきり笑いが落ち着いたので俺は実務の話も加えた。
「あと黒澤さんと田嶋さんから一緒にダンジョンに潜ろう、とも言われました。レベル4や5の連中と一緒に見てやる、と。承諾しましたがそれは別に大丈夫ですよね?」
「もちろん大丈夫だ。私たちはそんなことを縛ることはできないよ。むしろ良い機会だと思う。一般的なレベル4、レベル5の実力レンジを体感しておくと、君の普通の基準が少しおかしいことに気付けるだろう。君はレベル4の中でも上澄みだからな」
「もう金箱の裏技も気にする必要がない。本来は1人でやらずに積極的に外部と絡んだほうがいいだろう。ただおかしなクランも中にはいる。だから他のクランと合同で討伐する時は前もって相談して欲しい」
「分かりました。他のクランと一緒にダンジョンに行くような話があれば前もって相談させていただきます」
「なら、レン、私のクランとも一度やりましょうよ。私が手取り足取り教えてあげるわ」とエリナさん。
エリナさんの手取り足取りがちょっと怖いのだけど「えっと、助かります。お願いします」と答えておいた。
エリナさんがにっこりしているから返事は間違っていないと思いたい。本当に大丈夫だよね?
――ともかく俺は周りの大人に恵まれているな。クランから放り出され、1人で始めたはずが、今はいろいろと気にかけてもらっている。
その期待に応えるだけだ。焦らず、でも止まらず。積み上げていこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます