第50話「暁の牙の拠点にて」

#第50話「暁の牙の拠点にて」


 俺はクラン『暁の牙』の拠点に呼ばれた。

 場所はとある高級マンションの一室。いくつか部屋があり、普段は事務所代わりに使われているらしいが、ここは黒澤さんが実際に住んでいる場所でもあるそうだ。


 黒澤さんと田嶋さんによれば、この部屋はクランでも上層部の人間が集まる場だという。そんな場所に、俺みたいなクランのメンバーでもない新参者が来てもいいのだろうか。


 それに、ダンジョンの外に出ても黒澤さんの風貌は迫力がある。正直、まだ少し緊張する。顔が怖いんです。ダンジョンの中では多少慣れたけど外に出るとやっぱり落ち着かない。



 対応してくれた女性スタッフがお茶を置き、「失礼します」とだけ告げて出ていった。俺は緊張をほぐすように湯呑みに手を伸ばす。ああ落ち着く。かなり良いお茶っぽい。


「まずは謝らせてくれ」


 黒澤さんの開口一番の言葉に、俺は固まった。え? 謝られるようなことなんてあっただろうか。むしろ世話になりっぱなしなのに。あたふたした。


「ちょっと待ってください。俺は黒澤さんや田嶋さんにお世話になりっぱなしです。謝罪されるようなことは何もないと思いますが」


 そう言うと雰囲気がちょっと和らいだ気がする。黒澤さんは少し笑顔になり続けた。笑顔は更に怖いんですけどね。


「謝罪する理由はいくつかある。まず、最近のお前の救護活動だ。本来はハンター協会やクランがやるべきことを、お前個人にやらせてしまった。しかも完全に報酬なしの状態でだ。これは完全にこちらの落ち度だ」


「そうだね。本当は俺たち大人がやるべきことっすね。まだ大人になりたてのレンくんにやらせるとかありえない話っす」と田嶋さんは同意する。



 黒澤さんは低い声で続ける。後悔のような懺悔のような雰囲気で言葉を続けた。


「だがお前ももうすぐいなくなるだろう。救護活動をどう継続するか、ハンター協会やクランなど上でも話している。だが救護は儲からん。損しかしない。結局は放置して、無茶な討伐をする連中が自然と減るのを待つ。今まで通りで変わりそうにない――本来は駄目なんだがな」


 ほんの数か月、少しの間でも救護活動をしてくれたことに感謝してくれたわけだ。でも俺は慌てて首を振った。


「積極的にやっていたわけじゃありません。助けを呼ばれた時など緊急で必要な時だけです。俺は討伐することで経験値をもらっていますし」


「それでもだ。俺たち大人でも普通は救護活動なんてしないというかできない。それを担ってくれたお前には感謝しかない」


「そうっすよ。本来ならば救護活動したら報奨金がもらえないとおかしいっす。報奨金もなしに動いたレン君はすごいよほんと。本当にありがとう」と田嶋さん。いつもはおちゃらけているのに真剣だ。



 やはり救護活動はしなければいけないとは思っているらしい。でも現状では難しいようだ。ハンター協会でも言っていたがクランから見てもそうらしい。


「積極的に救護活動するのは難しいみたいですね」


「ああ、お前は特別だ。レンはレベル2ながらレベル3相当の実力がある。そんなレベル3相当の人間が2階層で動くこと自体が珍しいんだ。普通はレベル3の実力がある人間は3階層以上に行くからな。2階層で救護できるのはレベル3相当の実力がないと無理だろう。結果的に2階層で救護できる人間はいないんだ。それができるのはお前ぐらいだった」


 なるほど、現状では多くが少しでも下層を目指すため、2階層は手薄になるのか。1階層は稼げないから気持ちは分かるが……危険すぎる。


 俺が2階層を卒業すれば、救護する人間はまたいなくなる。黒澤さんは「何か良い案があれば教えて欲しい」と言ったが、簡単に答えられる問題じゃない。というか今のレベリングが普通である限りは無理な気がする。かなり難しい。


 俺は救護活動をすることは正直面倒だった。時には恨まれることもあり腹立つこともあった。でも報われた気がする。

 

 前回はハンター協会の朝倉さんから感謝され、こうして黒澤さんや田嶋さんからも感謝されている。やってよかったかもと、少し誇らしい気持ちになった。


 こういったきちんと見て評価してくれる人たちが俺の周りにはいる。これまでになかった感覚だ。今の俺は本当に恵まれているのかもしれないな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る