第46話 侍の弟子、将来有望だった
ファリーちゃんを弟子にしてからというもの、俺は他人にものを教えることの大切さを理解した。
当たり前だけど俺とファリーちゃんは違う人間だ。
ファリーちゃんができる動きや戦い方を俺なりに模索して教えていかなきゃいけない。
そのため、俺は毎晩のようにノートを広げてファリーちゃんの修行メニューを書き綴った。
更にファリーちゃんの長所、短所、体格、すべてを詳細に書き込む。
今できること、できないこと、優先すべきこと、これからの課題。
(すごく大変だけど楽しい)
他人に何かを教えることがこんなにも楽しいなんて思わなかった。
誰にも言ってないけど俺には密かに夢がある。
それは配信活動を始めた時からぼんやりと輪郭を形作っていたものだ。
将来は心気一天流を教える道場を開きたい。
両親がいない俺は人見知りでじいちゃんにも懐かなかったと聞いている。
深く思い出して見れば俺は暗闇の中にいたと思う。
誰の言葉にも耳を傾けないし、他人なんて必要ないと思っていた。
そんなある日、庭で刀を振るっていたじいちゃんの姿を見た時に俺の中で何かが弾けたんだ。
まるで目の前の暗闇が引き裂かれて光が差し込んできたような感覚だった。
(それからはずっと明るかった)
剣を振るう俺、じいちゃんとの模擬戦で負ける俺、裸で修行する俺。
自分を好きになれた俺がいた。
朝日が昇って一日が始まり、そして夜になる。
なんで一日はこんなにも早く終わっちゃうんだろう。
布団に入って早く寝たいのに興奮して眠れない。
寝れなくてこっそり起きて夜中に刀を振るっていたら、じいちゃんに怒られた。
早く明日になれ。
そう思えるようになったのはじいちゃんと剣術のおかげだ。
じいちゃんと心気一天流は俺の人生を照らしてくれた。
だったら俺も誰かの人生も照らすことはできないだろうか?
俺と同じような境遇の子に光を差すことはできないだろうか?
それができて初めて俺が生きた証を残したと言えるんじゃないか?
ちょっと前まではここまで深く考えたことなんてなかった。
ここまで思うようになったのはファリーちゃんという弟子ができたおかげだ。
「んむー! ヒットしないデス!」
「よし! いい角度からの斬り込みだった!」
場所は戦ヶ原。
ファリーちゃんとの模擬戦ではお互い模擬刀を使っている。
俺はその場から一歩も動かず、ファリーちゃんの拙い攻撃を受け続けていた。
「ハァ……ハァ……も、もー、動けまセン……。ベリーベリーハードなのデス……。トーヤさんはなんで疲れないデスカ……」
「無駄な動きを省いて最小限に動いているからだね」
「リコさんもクールな顔で全然疲れてまセン……」
「リコさんも達人だからね」
ファリーちゃんが大の字になって倒れている。
まだ10歳だから体力なんてあまりないだろうし、これは仕方ない。
でも修行を続けてファリーちゃんとにんにんするうちに、この子の特性に気づいた。
このファリーちゃん、とんでもなく身軽で身体能力が高い。
高い跳躍力を駆使して木の枝に乗ったり、まるでバネみたいに跳ね回る。
当然大半が無駄な動きなんだけど、俺はこれに目をつけた。
「ファリーちゃんは忍者になれるかもね」
「ニンジャ? ファリーはサムライでゴザル! にんにん!」
「うん……」
俺としては完全に忍者なんだけど、まぁどっちでもいいか。
この身軽さと縦横無尽な動き、臨機応変さは必ず武器になる。
そこで俺はカイリさんに一つ提案をした。
「ファリーちゃんの武器を増やすようにお父さんにお願いできるかな?」
「武器を? 刀一本じゃダメ? というかファリーちゃんの弟子入りとか、私としては単なるお遊び企画だったんだけどすごいガチになってない?」
「え? お遊びだったの?」
「だってあんな子がまともに戦えるとは思えなかったし……。それにあの子、スキルないでしょ」
「そこなんだよ」
俺がビシッと指すとカイリさんが少しだけたじろいだ。
いつも堂々としているカイリさんにそんな仕草をさせられて、ちょっとだけ嬉しい。
「探索者はスキルがすべてだとかいう人達が多いけど、俺はそんなことないと思う。例えばこのファリーちゃんは磨けば必ず戦えるようになるよ」
「……ファリーちゃんはどう思うの?」
カイリさんに聞かれたファリーちゃんは少しだけ困った顔をした。
「ファリーはずっと探索者さんがかっこいいと思ってまシタ。でもホクト達に見捨てられて……ちょっとだけナーバスになってたデス」
あの人達は探索者の悪い見本だ。
いや、そもそも俺は探索者がどうとか以前に人として恥じない生き方をするべきだと考えている。
あの人達は探索者としても人としても間違った。
そんな人達に対して俺達が間違わずに生きていれば、きっとあの白夜帝国は瓦解する。
ちょっと前の俺じゃ考えられない確信だけど、今は自信を持ってそう言える。
だから俺はファリーちゃんには探索者の実力以前に、剣術を通して正しい精神を養ってほしいと思う。
「日本はパパやママ、おねーちゃんも大好きな国デス。ダンジョン探索も世界で一番盛り上がると言ってるのデス。大好きな家族が好きな日本や探索者を嫌いになりたくないデス。だからもっと好きになるために、たくさん日本のダンジョンのことも知りたくてファリーは探索者になるデス」
ファリーちゃんが刀を天に掲げた。
実力はまだまだだけど、この時のファリーちゃんは確かに強い。
そんなファリーちゃんの頭をカイリさんが撫でた。
「あんな人間を見ても日本に幻滅しないファリーちゃんはいい子だよ。大人でもその境地に至れる人ってなかなかいないからね」
「羨ましい」
「リコ?」
「私はそんなに強くなかった」
俺からすればリコさんも強いと思うけどな。
カイリさんがリコさんの手をぎゅっと握る。
「リコ、あんたも強いよ。だってなんだかんだで今は探索者としてここにいるでしょ」
「そうかな」
「私に話しかけてくれた時から……リコはずっと強かったよ」
「カイリ……ちゃん」
リコさんが目元をうるっとさせている。
二人の過去は気になるけど、俺から聞けることじゃない。
「ファリー、もっとベリーベリーに強くなるデス! 目指せ! ダンジョンマスターデス!」
「ダンジョンマスターを目指しちゃダメだよね!? 例えばネクタイ伸ばしたり歯車飛ばすような化け物だからね!」
「えへへ、ファリーうっかりデス。でもトーヤさんもA級目指すデス」
「俺がA級かぁ……」
「偉い奴らの鼻っ柱をダイナマイトするデス!」
すごい過激なことを言う。
でもこの気概こそが強くなるには必要なものかもしれない。
俺にはあまりないものだ。
「うんうん、トウヤ君もファリーちゃんもやる気たっぷりだね。ファリーちゃんが強くなったら、さっそくダンジョン探索にいこうか」
「リアリィ!? ファリーが探索者デビュー!」
「と言っても難しいところはダメだけどね」
「善はトップスピードデス! もっと鍛えまくってストロングファリーになるデス!」
ファリーちゃんが小さな力こぶを作った。
そうだな。探索者をやる以上は魔物との戦いの経験も重要だ。
戦いの数だけ人は強くなる。じいちゃんも言っていたことだ。
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