第38話 お見舞いが過剰すぎる
地下鉄ダンジョンでの戦いから一週間が経った。
俺はホクトさんと戦った後、見事に倒れたらしい。
次に気がついた時は病院のベッドの上だった。
「トウヤ様、お、お怪我のほうはどうですか……? あ、これ、お見舞いのリンゴとバナナとキウイと桃と」
「あ、ありがとう」
ビッグサイズの籠にとんでもない量の果物が入っている。
他にも花や飲み物まで俺のベッドの周りに置かれていた。
なんか事故現場のお供え物みたいになっているけど、せっかくの善意に野暮なことを言うのはやめよう。
「リコ、これって彼岸花じゃないの?」
「……はっ!?」
「葬式じゃないんだからさ。よく看護師さんに怒られなかったね」
「か、かかか、片付ける片付けるっ!」
カイリさんに指摘されてリコさんは慌てて彼岸花を回収した。
ぜーはーぜーはーと息を切らしてるところ悪いけど、果物も食べられないんだよね。
実は病院内への刃物の持ち込みは禁止されている。
だから俺の刀はリコさんに預かってもらっているはずなんだけど。
「ナイフがないんじゃ果物も食べられないよ、リコ」
「わひゃあぁぁ! ど、どうしよ! わ、私、なにしてるんだろぉ……」
「トウヤ君の刀を預かっているんだから、刃物持ち込み禁止だってわかるでしょー」
「じゃ、じゃあリンゴを握りつぶしてジュースにするかな……」
「たぶんそれも怒られるからやめな?」
リコさんが真っ赤になって縮こまってしまった。
戦いの時はあんなに凛々しいのに、すごい変わりようだ。
見た目もメガネにボサッとした髪型と、本当にあの時と同じ人とは思えない。
「しっかし病院に担ぎ込まれた時は重体だったのに、すごい回復力だよねぇ」
「鍛えてますからね。心気一天流の強さの源は体です」
「普通なら死んでてもおかしくない怪我なのに、あと数日で退院できるとかさ。まぁ、それはよかったんだけど……。それよりあの帝鳥隊と勝手に戦った件だけど……」
「それはすみません! お説教をちゃんと聞きます!」
俺はベッドの上に正座して覚悟を示した。
「ぷっ……。いや、やっぱりいいや。あんな戦いをした人にお説教とか、ちょっと無粋かな」
「いいんですか?」
「それにリコの名誉のために戦ってくれたことに免じて今回は特別に許す」
「よ、よかった……」
お説教と言うとじいちゃんのイメージが強いから身構えていたところだ。
じいちゃん、話し出すと本当に長くて二時間は終わらない。
しかも同じことを何回も言うし、寝たり突っ込んだりすると更に時間が追加されるから本当に参った。
「よう! 元気か!」
「あ! 惑星ヤサイの皆さん!」
お見舞いに来てくれたのは野菜兄貴さんとキャベシロウさん、ピーマさん、オイモさんだ。
ところが入って来るなりすでに置かれているお見舞いの品の数々にぎょっとしている。
「こ、こりゃすでに盛大だな。この地獄激辛パヤングはどこに置けばいいんだ」
「私が持ってきたメイクセットも置き場がないな」
「おいどんのちゃんこセットも置けないでごわす」
なんか聞いたことのないお見舞いの品が多いような。
カイリさんがそれぞれチェックしている。
「……お気持ちはありがたいんですけど、患者に刺激物はどうかと思いますよ」
「怪我をした時こそ辛いもん食って汗で老廃物を流して元気になるもんだろ?」
「ピーマさんのメイクセットは……」
「入院生活の中でも美を忘れてはいけない。美とはペチャクチャペチャクチャ」
「オイモさんもありがたいんですけど、病院にちゃんこセットはちょっと重すぎますね……」
惑星ヤサイの三人のお見舞い品がカイリさんによってダメ出しされた。
地獄激辛パヤングは刺激物らしいけど、気になる。
もしかしたら修行に使えるかもしれない。
「トウヤ、間に合わなくて悪かったな。お前に辛い戦いをさせちまった。俺がいれば帝鳥隊の奴らなんかまとめてぶっ飛ばしたのによ……」
「野菜兄貴さん。いえ、全員がそれぞれの戦いをしただけだと思います」
「……あの体で帝鳥隊にたった一人で勝ってしまったなんてな。最初に聞いた時は耳を疑ったよ」
「でもあの人達も怪我を負っていたので……」
野菜兄貴さんが椅子に座って、俺とちょうど視線が一致した。
この燃えるような瞳に見つめられて初めて理解できることがある。
(ホクトさんより遥かに強いな、この人……)
もしこの人が間に合っていたら、簡単に解決したかもしれない。
カイリさんから聞いた限りでは日本の探索者の中でもトップクラスの実力者らしい。
そう聞くと、俺の中で何かがうずきそうになる。
「今は怪我の治療に専念しような」
「えっ?」
「いや、なんでもない」
俺の何かを見透かされた気がした。
やっぱりこの人、強い。
「トウヤ殿、もうそこまで回復されているとは……」
「ヨシタケオ団長、白鳳騎士団の皆さん……おかげ様でなんとか生きてます」
白鳳騎士団の人達までお見舞いに来てくれた。
鎧を脱いだ姿はなかなか新鮮で、特にヨシタケオ団長が思ったより年長者で驚く。
皺が目立つ顔立ちに整った顎髭、じいちゃんよりは年下だろうけど完全に衰え知らずだ。
「今思えば君のような若手を矢面に立たせるべきではなかった。ベッドに横たわる君の姿を見て思った」
「気にしないでください。帝鳥隊とは俺の意志で立ち会ったんです」
「それだけではない。ダンジョンマスターの撃破、乗客の救出……君一人でS級探索者にも引けを取らない活躍だ。ベテランの我々としては情けない限りだよ」
「S級?」
「君は等級がついていないのだな。しかしすぐに探索庁から等級決定の知らせが届くだろう」
ヨシタケオさんの話によれば探索者は、活躍によってS級からE級までの等級が探索庁から認定される。
等級が高いほど探索庁からの信頼が高くなり、何かあれば直々に仕事の依頼がくることがあるらしい。
その他、ホテルやレジャー施設等によっては割引もあってかなりお得なんだとか。
「ここにいる惑星ヤサイや我々は全員がA級だ。君の活躍ならA級は申し分ないだろう」
「へぇ、そうなんですか」
「あまり興味がなさそうだな」
「ちょっと前の俺なら気にしていたかもしれませんけど、今はリスナー含めてたくさんの人が認めてくれました。それだけで身に余る名誉ですよ」
「フ……そうか。君だからこそ、あれだけの偉業を成し遂げられたのかもしれんな」
この病室に皆が来てくれているだけでも俺は嬉しい。
チャンネル登録者も今は80万人、これだけの人達が俺の生き様を見届けてくれている。
それに比べたら探索庁からの評価は俺にとって些細なものだ。
「あら、ずいぶんと大所帯ですのね」
「あ! トーヤが起きてるデス!」
また一段と賑やかになったなと思ったら、あれはランカさんとファリーか。
ん? それとランカさんやファリーと同じ金髪の男女、まさか両親?
「ゲッ、まさかアースレイン社の社長が直々に!?」
「カイリさん、アースレイン社って世界的に名を轟かせている会社だよね? ということはランカさん達って……」
そう、そこにいるのは超有名企業の社長だ。
そしてランカさんやファリーが一緒にいるということは?
「君がトウヤボーイか。娘のファリーを助けてくれて感謝する」
「は、はぁ、ありがとう……」
陽気な社長に対して気のない返事をしてしまった。
社長、そう。そうだよ。
もしかして俺はとんでもないことをしてしまったんじゃ?
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