第22話 目標

「待てよ」


 控室に帰ろうとする私の前に、サングラスを掛けた金髪スペースガール……PPPが立ち塞がる。


「なに?」

「お前のせいで客は冷え冷えだ」


 強い敵意を感じる。


「戻れ。戻って戦え。ここは私の国だ。私に従えメスブタ」

「別に私はここの国民じゃないし、従う義理は無い。出場者として大会のルールには従った。なにも問題ないはず」

「このまま帰ったら賞品は渡さないぞ」

「どうぞお好きに。懐の浅いクイーンだと思われてもいいならね」


 PPPは突然、笑いだす。


「くっははははは! 面白いなお前」


 PPPは私の顎を指で押し上げ、顔を近づけてくる。


「生意気なメスは嫌いじゃない」

「……あなたもメスだろ」

「私は女でもメスでもない。――性別クイーンだ。覚えておけ。今日は見逃してやる。だがいずれ、お前も屈服させてやる」


 PPPは手を振って去っていく。このゲーム、変人しかいないのかな?



 --- 



 優勝賞品:二丁拳銃『S&W-M500  Black-Gemini』&2000万チップ

 準優勝賞品:特殊外套『インビジブル・オーラ』&500万チップ


 私と火針でこれらを独占。

 Black-Geminiと500万チップを私が貰い、火針にはインビジブル・オーラと2000万チップを渡した。


「けっ」

「どうしたのヒバリ。なにか不満?」 


 帰りの宇宙船。

 火針は頬杖をついて顔をしかめている。


「べっつに~。決勝戦でお前がリタイアしたことに一切の不満はありませんとも。えぇ、ホントにホント~。省エネで素晴らしいこと」


 ああ、なるほど。それで怒っているのか。

 火針も二叶と一緒で私との勝負を熱望しているもんね。スカされたら怒るか。


「ヒバリ。私は、あんなとこでヒバリと決着をつけたくない」

「……」

「ヒバリとはもっと相応しい場で戦いたい。大切な仲間との決着を、あんな品の無い所でつけたくはなかった」


 クサいセリフだけど、火針にはこれぐらいの方が効く。


「――けっ。上手いこと言いやがってさ。そんな言葉に乗せられる私じゃないっつーの」

「と言いつつ、頬がピンクになってるでありますよ? ヒバリ先輩」


 火針は前の席、美咲の席をガン! と蹴った。


「何はともあれ良かったですね。目的の品が手に入って」


 私は双銃を実体化させる。

 分厚く長い、黒い銃身のリボルバー。見た目よりは軽く、手元で簡単に回せる。


「それ、盾として使うんだよな?」

「うん。絶対に壊れない銃らしいから、弾丸も刃もこれで受ける」

「でもさぁ、もったいなくね? せっかくの銃なのに防御にしか使わないってのはさ」

「確か、この世界では実弾があまり有効では無いんでしたっけ? ユイ殿」

「そうなんだよね。でも……私ももったいなく思う。せっかくの銃なんだし、活用法を練ってみるよ」


 私としてもどうせなら弾丸を撃ちたい。

 トリガーガードに指を引っかけ、くるくると回す。初めて持ったとは思えないほど指に馴染む。


「ヒバリ先輩がもらったマントはどうでありますか?」

「これか」 


 火針は黄色のマントを羽織る。


「見てろ。――ほれ!!」


 火針の体が――透明になった。


「マントを装備している間、なんと自分の体が透明になる! 効果時間1分! リロードタイム1分30秒!」


 強い。けど、


「マントは視えてるけど」


 体は消えているのに、マントは視えている。マントだけが浮いて見える。むしろ目立つなコレ。


「そうなんだよな……消せるのは体だけで、マントは別に消えないらしい。レーダーにも普通に映るみたいだ」


 それでも体と所持している他の武装や服が見えないなら、色々と悪用はできそうだ。

 アドバイスはいらない。火針なら自分で使い方に気づく。


「それではムフフなことはできませんな」

「なんだよムフフなことって」

「それはもちろん、ごにょごにょ……」


 美咲が何かを火針に耳打ちする。次の瞬間、顔を真っ赤にした火針が美咲の頭を殴った。


「皆さん、今日のところはスペース・ステーションに帰り次第解散とします。明後日、土曜日は1日確保してくれると助かります。レベル上げとスケジュール調整をやっちゃいたいので」

「了解。それまでに武装を揃えたいな……残り4つ何にするかな~。銃持つか悩むなぁ」

「自分はもっとロマンを詰め込みたいでありますね~」


 Black-Geminiで2枠。シールドピースで2枠。

 残り4枠……何を入れるかな。サーベルもありだけど、中距離で戦える武装も欲しい。


 今のままでは、アイツには勝てない。


(ハジメ……)


 父さんの弟子を名乗っていた軍帽女。

 狙いはお姉ちゃん。私は前座扱い。


 屈辱――色々な意味で屈辱だ。


(父さん……)


 あの出来事からすぐに、父は家を去った。

 それからどこで何をしているのか、私は知らない。知りたくもない。そう思っていたのに……。


――勝ちたい。


 私はアイツに、ハジメに勝ちたい。勝って、父さんの居場所を聞き出したい。

 結のためだけじゃない。私は私のためにも、U20を制す。

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