封じられし階層と、黒翼の凶歌(くろつばさのきょうか)

 第二階層の試練を終え、俺たちは次の扉へと歩みを進めていた――


 そのとき、空が裂けた。


 「……っ、この魔力……!」


 次の瞬間、塔の壁が外側からねじ曲げられるように変形し、

 裂け目の中から、ゆっくりと一人の影が降り立った。


 「やあ、また会ったね。

 “アキト・カミヤ”――創造神の器」


 黒のマントを翻し、無数の魔眼が浮かぶ異空を従え、

 堕神の使徒イリス・ノワールが、静かに微笑んでいた。


◇ ◇ ◇


「どうやって侵入した?」


 「簡単よ。“神の塔”は神の遺構。

 でも神は完璧じゃない。“不完全”である限り、裏口はある」


 イリスが右手を広げると、空間が反転し、塔の構造がゆがんでいく。


> ■ 異常事態:神の塔内部構造変異を検出

■ 防衛モード・起動

■ 地形変化:アリーナ形式に移行中




 床が割れ、塔内がまるでコロシアムのような形へと変化していく。


 「さあ、ここで確かめましょう――」

 「あなたが、“本当に選ばれた器”なのかどうかを」


◇ ◇ ◇


> ■ BOSS BATTLE: 堕神の第一使徒イリス・ノワール

属性:闇・虚無・精神干渉

スキル:幻惑歪界(ファントム・ディメンジョン)、重音の剣舞(クロス=ノクターン)




 イリスの手から、黒銀の双剣が浮かび上がる。


 「この剣は、かつて神々の心を砕いた武器よ。

 “感情”そのものを切り裂く――」


 「なら、試してみろ」


 俺は《創構式:存在定義強化》を展開。

 右腕に、神核の青い紋様が浮かぶ。


◇ ◇ ◇


 剣と剣が交差する。


 ――衝撃が、塔内の重力を反転させた。


 「やっぱり、あなたは“普通の神”じゃない」

 「人間でも、神でもない――でも、その“不安定さ”が、今のあなたの力」


 「……お前も、全部知ってるわけじゃないだろ」


 「だからこそ、私はあなたに興味があるのよ」

 「もしあなたが――このまま、“神を超えてしまう”のならば――」


 イリスの背中に、黒翼が広がる。


 空間が反転し、幻影が現れる。

 それはアキトの過去の記憶、未来の予兆、そして恐れている選択肢――


 「“お前自身”と向き合える? アキト・カミヤ」


 俺は、静かに剣を構えなおした。


 「――何度だって向き合うさ」

 「それが、俺が“選ぶ”ってことなんだ」


◇ ◇ ◇


 エリシアとリーネが援護に入り、三方向からの連携。

 だがイリスは空間ごと“跳躍”し、攻撃を無効化。


 《空間撚糸術(スペース・ブレイド)》でこちらの足場を崩し、

 《虚無領域》で感覚すら奪ってくる――


 「――でも、そこが隙だ!」


 俺は時間制御スキル《クロノ・サイト》を瞬間使用。

 時間を0.5秒だけ逆流させ、“イリスが攻撃する前”へ跳ぶ。


 「そこだ――!」


 剣が、彼女の黒翼を裂いた。


■ BOSS HP: 73% → 48%

■ 状態異常付与:《重圧》・《加速拒絶》




 イリスが、一瞬だけ苦しげに目を細めた。


 「……ふふ。あなたの中に、“核心”が近づいてるのね」


◇ ◇ ◇


 そして、イリスは後退し、再び空間を割って姿を消す前に――

 意味深な言葉を残した。


 「アキト。

 ……第四階層には、“神すら恐れる者”が眠ってるわ」

 「そして、その者こそが――**あなたの“始まり”**に関わる存在」


 塔の空間が静かに戻る。

 コロシアム構造が崩れ、次なる扉が浮かび上がる。


 「……始まり、か」


 「アキト……まだ、進める?」


 「ああ。むしろ、今こそ進む時だ。

 “本当の俺”を見つけるために」

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