第29話 ギャルになった理由
小説で突然語り部が変わるのが嫌いでした。
だって、ほとんど主人公が代わるようなものじゃないですか。
今まで読者が感情移入していたのは主人公なのに、作者の書きやすさで降格させられた感じ。
でも、中学時代にハマっていたゲームのキャラクターが好きすぎて、彼女と私が結ばれる夢小説を書いてみた時に、それはある程度は仕方がないと思うようになりました。
1人の目線だけで物語を形成させるのは至難の業です。
私程度の実力だと、恋人役目線の描写もいれておかないと単調な話になってしまいます。
プロの小説家の皆さんは、主人公の1人称で傑作が書けるのだから尊敬しかありません。
そんな問題にぶち当たった私は、夢小説執筆を挫折して、コスプレイヤーとして推しへの愛を表現するに至ったのです。
まぁ、こちらも負けず劣らず厳しい世界だったわけですが、そこは本題からズレるので割愛しますね。
あ。そういえば、自己紹介がまだでしたね。
失礼致しました。
今、主人公である竹下さんを差し置いてゴチャゴチャと自分語りをしている女は、佐々山ララです。
コスプレイヤーの白ギャル。そして、竹下さんのお友達でもある佐々山ララです。
さて。なんでこのタイミングで私がしゃしゃり出てきたかというと、主人公である竹下さんの知らない、我々ギャル軍団の過去を語るためです。
竹下さんの出番が減って、大変申し訳ありませんが、どうかこのモブの話を聞いて頂けたら幸いです。
鹿島ケイと田渕リン。そして佐々山ララの高校時代の話を。
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ギャルになった理由を、もし聞かれたら「世間に反抗したかったから」と答えると思います。
人との付き合いに疲れていた私は、いや、私達はギャルになることで精神的な鎧を着ていました。
別にギャル全員がそうとは言い切れない。中には「可愛いから」とシンプルに答える子もいるでしょう。
せっかくだから、ギャル好きな男の子に1つ助言をしておきましょう。
彼女にするなら、シンプルなギャルにしなさい。
私みたいな拗らせたギャルは面倒くさいから。後、意外とガードが強いから性的に得をすることもないですし。
そんな、養殖タイプのギャルだけで徒党を組んでいたのが「鹿島グループ」です。
圧倒的に華のあるケイを中心にしたグループ。
そのカリスマの周りを、私とリンがウロチョロする形です。
ギャルという肩書きがあれば、一般生徒は積極的に話しかけてこない。非常に楽な体勢でした。
でも、完全な固執もトラブルを招く。だから、みんなに元気に挨拶だけはすることにしていました。
「ギャルで話しかけづらいけど、たぶん悪い連中じゃない」と思わせるためです。
そんな姑息な思惑が伝わってしまったのか、ほとんどのクラスメイトに私達の挨拶は無視されてましたね。
心が折れそうになったけど、ここで止めたら負けだと私達は挨拶を続けた。
そんなある日、地味すぎて今まで存在すら気づかなかった子がクラスにいることに気づきました。
(どうせ無視されるだろうけど……)
そう思って、席について1時間目の授業の準備をしているその子に、気合いを入れて挨拶をしました。
「おはよう!」
すると、その子はポカンとした後、後ろを確認しました。言われたのが自分だと確信が持てなかったのでしょう。
その子は、可哀想なくらい顔を真っ赤にしながら、一生懸命に言葉を返してくれました。
「お、おはようございます……」
か細いけど、綺麗な声。
次いで、前髪が長くて見えにくかったけど、その子の見た目も可愛らしいことに気づきました。
その素敵な女の子の名前は、竹下アンちゃん。
後の、私の推しになる女の子です。
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