第21話 テキトー
漫画の他にも、ソフトクリーム食べ放題やネットを使い倒したりして、漫画喫茶タイムを充実した私達。
流れ的に、もう帰るだけかなと思っていたら、鹿島さんがこう言い出した。
「帰りに本屋さん寄っていい?」
「もちろん良いですよ」
「何買うの? 講義で使う本?」
「さっきの漫画」
3時間で全18巻を読み切ったのに、手元に置いておきたいくらいに気に入ったのか。
「大ハマりじゃーん」
「まぁね。みんな可愛いし。それだけじゃなくてキャラクターそれぞれの個性が光っていて自然と好きになった。主人公の意思に反してエッチな展開になるのは最初は違和感があったけど、色んなバリエーションで繰り返しやられたら途中から面白く感じたよ。あと、シンプルに話の作りが巧いね。改めて作者の名前を確認したら、話を作る人と絵を書く人の共同作品だったんだね。通りで読みやすいわけだって納得した。私のお気に入りのキャラクターは風紀委員長の……」
おぉ……。
鹿島さんが、長文分析を始めた。
我々オタクみたいなことをしている鹿島さん。
このギャップ、たまりません。
ハマった作品は意外だったけど、共通点ができたみたいで、何だか嬉しい。
私も、家に帰ったら読み返してみよう。
\
「アンちゃん。もしかして今日、鹿島さんに会ってきた?」
「え? あ。うん」
今日の竹下家の晩ごはんはカレーだ。
家ごはん史上、長年トップに君臨するカレーだ。
しかし、その幸せな時間が曇るのでは無いかと姉さんの質問で勘繰ってしまう。
姉さんが鹿島さんを良く思っていないというのは、ちょっと前の騒動で理解していたから。
しかし、姉さんの次の一言は意外なものだった。
「そっか……。もう1回会って謝りたかったんだけど……」
「え?」
「あれだけ迷惑かけたからさ。キチンと謝罪をしておきたい」
そうか。
姉さんは面倒くさいと同時に、立派な社会人なのだと思い出した。
化粧品メーカーの若きエースであるバリキャリなのだ。
「……分かった。今度伝えておくよ」
「悪いね」
自分で言うのも何だけど、エモい会話だな。
「あ。鹿島さんに会うの? だったら私も行って良い? あの子良い子だから、また話したいわ」
「何だったら、お泊まり会のリベンジをすれば良い。俺は17日の日曜日が空いてる」
そのエモい気分を、気の良い両親が壊す。
けど、悪い気はしない。
「え。私17日は無理。ミカと映画観る約束してるから」
姉さんが、ズバズバと言う。
こういうところが、社会で強く生けていける要因なんだろうなぁ。
「えー。じゃあ何日なら都合良いんだよ」
「えっと……待ってね」
スマホをマホマホする姉さん。
おそらく、スケジュールを確認しているんだろう。
「……来月の19日」
「忙しいんだなぁ。お前」
「うっさい」
聞きながら、雑な会話だなぁと思う。
ん? 雑?
それは、今私が欲しているコミュニケーション能力ではないのか?
「ね、姉さん!」
「ん?」
姉さんが人参を咀嚼しながら聞き返す。
「どうやったら、そういうテキトーな会話ができるのか教えて!」
「……」
レモン風味の水をグイッと飲んでから、姉さんは答える。
「その感じで良いんだよ」
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