第12話 真夜中のトイレ
多少のヒリヒリ感はあったけど、お泊まり会は順調に進んだ。
食事会は、すっかり仲良くなった鹿島さんと両親を中心に笑顔が絶えないものになった。
鹿島さんは私にも姉さんにも話を振ってくれた。
こういう、複数の食事会での発言って面白いことを言わなくてはいけない雰囲気が苦手だったのだが、今回はそういったストレスは皆無だった。
気軽に喋れる優しい空気を鹿島さんが作ってくれていたから。
姉さんも会話には参加していたが、見えない壁を感じる。
その壁は硬く、さすがの鹿島さんも壊すのに苦戦しているようだ。
どちらも大好きな2人だから、仲良くしてもらいたいけど、これは諦めるしかなさそうだ。
そう割り切ってからは時間の流れが早く、いつの間にか寝る時間になっていた。
「まだ10時だよ?」
「え。もう10時ですよ?」
もう寝ようかと言ったら、鹿島さんは珍獣を見るような目線を頂いた。
うん。
優しくされるのも良いけど、こういうのも捨てがたい。
そんな妙な満足感から、いつもより早く眠りにつく。
今日は良い夢が見れそうだ。
\
深い眠りについていたが、奴が邪魔をしてくる。
そう。尿意である。
気持ちよく寝ていたのにトイレへと誘う、厄介な生理現象。
少しの間、尿意と眠気が対立していたが、尿意が勝った。
時計を見れば、深夜2時。
起き上がるのも怠いけど、これ以上尿意を我慢したらとんでもないことになりそうなので仕方がなく起きる。
ちなみに、鹿島さんは客室で寝てもらっている。
一緒の部屋で寝たいとありがたい言葉を頂いたが、その領域に突っ込んだら私は何をしでかすか分からなかったので、大変心苦しかったが、丁重にお断りした。
我ながら惜しいことをしたと思うが、せっかくできた鹿島さんとの関係が変わってしまうよりはマシだ。
閑話休題。
重い身体を起こして、トイレへ向かう。
みんな寝ているだろうから、起こさないように静かに歩く。
トイレに辿り着き、溜め込んだものを一気に放出する。
我慢していただけあって、身震いするほどの快感がする。これだからトイレは嫌いになりきれない。
さて。もう出すものは出した。
後は音を最小限にして流すだけだ。
そう、流しレバーに手を伸ばしたところで、小さな話し声が聞こえてきた。
「……ら、……ねじゃな……つうに……」
「そ……たけ……とをりか……うかんけ……にあん……なんで……」
誰かが話しているのは分かるが、内容までは把握できない。
辛うじて分かるのは、女性同士だということ。
目を閉じて、意識を全て聴覚に集中させる。
すると、1つ1つの単語がしっかりと聞こえるようになった。
私って耳良かったんだな。初めて知った。
「いや。それは思い上がりよ。私の方がアンちゃんのことを私が1番分かってる。あの子は鹿島さんとお金を介さない、正しい友達になりたいって思ってる」
「私はそうは思いません。竹下さんは今まで友達が1人もいなかった。20年間、1人も。そういう人は無償の愛を警戒します。お金という分かりやすい対価を経ることで、竹下さんはやっと私と遊んでくれる」
あ。これ、私の話だ。
しかも、姉さんと鹿島さんが決して良くない雰囲気になっていると声音だけでも伝わってくるレベルの口論だ。
「言い訳だ。結局はお金が欲しいだけでしょ?」
「お金を大事に思っていることは否定しません。でも、竹下さんを軽んじているわけではないことは、お姉さんには分かっていて欲しいんです」
私のせいで大好きな2人が喧嘩をしている。
その事実に耐えきれなくなり、音を抑えるようにと思っていたが、レバーを思いっきり捻った。
ジョバー!
その音ともに、私はトイレを飛び出す。
そして、声がした方向へ走って向かう。
まだ目が暗闇に慣れていたから、壁などにぶつかるかもしれないが、知ったことか。
私のせいで起きたいざこざだ。
私が解決しないと!
目的の部屋は、姉さんの部屋だった。
親しき中にも礼儀あり。いつもはノックしてから開けているが、今回はいきなり、ガバッと豪快に開ける。
驚いている2人に、私は世界一洒落臭いことを叫んだ。
「私のために争わないで!」
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