第8話 お泊まり会
[ようこそ! 竹下家へ!」
お泊まり会当日。
我が家のリビングには、パパ渾身の臨書作品があった。
筆と墨汁、そして和紙を買ってきて1日かけて書き上げた力作である。
凛々しい字なのだが、書道の作品で「!」があるのが、なんだか可愛らしい。
そのパパは、さっきから廊下を行ったり来たりと忙しい。
「パパ。まだ50分あるから大丈夫だよ」
自分よりも緊張している人がいると、冷静になれるというのは本当だったらしい。
ママはさすがに落ち着いている。
だって静かに読書しているから……って。
「ママ。その本、反対だよ?」
「え? あ! 本当だ! ハハッ」
彼女の名誉のために言っておくが、決してボケたわけではない。
まだ50代。娘の私にさえ前半なのか後半なのか教えてくれないが、いつもは冷静な人だ。
そして、姉さんはというと朝から自室から出てこない。部屋の中から物音が聞こえるから、起きているとは思うんだけど。
これも、いつもとは違う。
生活リズムがしっかりしている姉さんは、休みの日のルーティンは決まっている。
朝は早く、6時半には起きて、スムージーを飲んでから朝のウォーキングに出かける。
帰ったら私やママと雑談をしたり動画を観たりして過ごす。お昼頃になると友達とランチに出かけて夕方くらいに帰ってくる。
お風呂の時間は美容に良いらしく、結構長いこと入る。よくのぼせないものだと感心するくらい。
お風呂から出て、ご飯を食べた後はサブスクで好きなドラマを観てから10時半には眠りにつく。
そんな、お手本のような休日を過ごしている姉さんが起きてこない。
具合が悪いのかとも思ったが、昨日の不機嫌な様子を思い出すと中々部屋を訪れる気になれない。
本日の鹿島さんお泊まりイベントで、私の家族は三者三様で変なことになっている。
そんなこんなしているうちに、約束の時間の3分前になった。
ピーンポーン。
待ち人来たり。
まず間違いなく鹿島さんだ。
小走りで玄関に向かう。
「おっはよー! 今日はよろしくね!」
そこには、お手本のような素敵な笑顔を浮かべる黒ギャルこと鹿島さんがいた。
家族と会うからなのか、この前より服装は地味めだ。
白のシャツに、薄い青のパンツ。
シンプルだけど、スタイル抜群の天使が着ると華やかに見える。
私も似たような格好だけど、月とスッポンくらいの差がある。
「よ、ようこそ!」
割と頑張ってテンションを上げてお迎えをした。一応、私が主催者なのだからしっかりしなくては。
「お。アグレッシブな竹下さん。良いね」
褒められた!
よ、よし。この調子で乗り切れそうな気がしてきた。
立ち話もなんだと、両親の待つリビングにお通しする。
扉を開けた瞬間。
パンッパパンッパンッッッ。
と破裂音が響き渡った。
心臓が止まるかと思ったが、すぐに聞き慣れた両親の声で「ようこそ! 竹下家へ!」と聞こえてきた。
我に戻り、辺りを見渡すとクラッカーの花吹雪などが散らばっていた。
これは聞いていなかった。
さては、私が反対すると思って黙っていたな。
「わー! 凄い歓迎! ありがとうございます!」
しかし、そんないきなりのサプライズを喜んでくれる黒の天使がいた。
根が明るいパパとママは、鹿島さんと滞りなく挨拶をしている。笑いの絶えない、良い雰囲気だ。
しかし、そこに戦闘モードの姉さんが現れた。
「あぁ。今日はアンちゃんのお友達がくる日だっけ? いらっしゃい」
変に芝居かかった喋り方だなと思って姉さんに視線を向ける。
お、おぉ。
そこには、休日の実家で着るにはオシャレ過ぎる、黒を基調にしたドレスを身に纏ってる姉さんの姿があった。
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