『覚醒スキルでダンジョン無双』~最弱スキル『保存庫(ストレージ)』からの逆転劇~

空花凪紗~永劫涅槃=虚空の先へ~

第1話 無能と呼ばれた日

 この世界では、中学を卒業するタイミングで、義務教育を終えると、誰もが「迷宮適性診断」を受ける。

 スキル、魔力、身体能力、そして精神力――。すべてが数値化され、「ダンジョンつまり、迷宮で生き残れる人間」かどうかが、国によって評価される。


 言い換えれば、ダンジョンで役に立たない者は『社会の落ちこぼれ』として切り捨てられる。


「次、アキト・カグラ君」


 呼ばれた名に、教室の空気がぴしりと凍った。


「おい、あの無詠唱魔法どころか、自己強化すらできなかった奴だろ」

「適性ゼロらしいぜ。どこに出荷されるんだろうなぁ〜?」


 嘲笑の中、アキトは足を引きずるようにして診断台に立った。


 目の前に浮かぶ、透明な魔術式。魔術師の教師が、簡易スキャン用の魔具を起動する。


「アキト・カグラ、スキャン開始」


 光が全身をなぞる。次の瞬間、淡い光が一枚のカードに転写された。


【スキル:保存庫(ストレージ)】


 その瞬間、教室中が爆笑に包まれた。


「は? アイテムをしまうだけの、アレかよ?」

「スキル無しよりマシなだけじゃんww」

「いやむしろ、荷物運びに便利だから、そっちで生きていけってことだな〜!」


 スキル「保存庫」は、確かに荷物をしまうだけの地味なスキル。戦闘能力ゼロ。支援効果ゼロ。派手な演出も皆無。

 だが、何より問題なのは、そのスキルが――アキトの父さんと同じだったということだ。


 アキトの父は、初級ダンジョンでモンスターに襲われて命を落とした。スキルの使い道がなさすぎて、避けきれなかった、と言われている。


「……これで全員終了か」


 教師が名簿を閉じると、全員が番号でクラス分けされていく。ここ中高一貫ダンジョン学園にはS組、A組、B組から落ちこぼれのE組まである。迷宮攻略に優れた才能を持つ者から順に、エリート教育を受けられる。アキトはE組に割り振られた。


「落第組のE組に割り振られたアキトはグラウンド裏の教室へ向かえ」


 落第組。

 そう、アキトの運命は、スキルが表示された瞬間に決まっていた。


 教室を出て、人気のない裏手にあるプレハブの小屋に向かう途中、アキトは空を見上げた。


 空は青く、世界は広く、ダンジョンは今日も口を開けていた。


(ああ、俺はきっと……父さんと同じ死に方をするんだろうな)


 だがそのとき――ふと、アキトのストレージの中で、小さな光が一瞬だけきらめいた。


 それは、まだ誰にも知られていない。

 この「無能」と呼ばれた少年が、やがて最強のダンジョンハンターとして君臨することを。


 ◆


 プレハブ小屋の扉を開けると、古びた床がぎしりと鳴いた。


 狭い室内に、無造作に置かれた机と椅子。窓のひとつは割れて、風が吹き抜けている。壁には「E組」の文字が黒いマジックで雑に書かれていた。


(本当にここが……学校の教室か?)


 アキトがため息をついた瞬間、


「おー、お前もハズレ組か?」


 アキトは後ろから声をかけられた。振り向くと、金髪を逆立てた痩せ型の少年がいた。右手には細身の剣。制服の袖はボロボロで、どこか不良じみている。


「俺はカイン。スキルは《狂化(バーサーク)》……だけど、制御不能で、教師を病院送りにしたらここよ。お前噂になってるぜ。アキト。最弱ってな。スキルは《保存庫》。物をしまえるだけの、地味なやつ」

「そうだけど……」


 アキトは言い返せなかった。ストレージは最弱のスキル。アイテムを運ぶだけで戦闘向きでも支援向きでもない。よって不遇職である。


「へぇ、逆にいいじゃん! お前、アイテム係な! 食糧とか武器とか、ガンガン詰め込んでくれよ!」


(軽い……けど、悪い奴ではなさそうだ)


 その後も、ぽつぽつと生徒たちが集まってきた。


 毒を無効化するが、それしかできない少女、イリステラ。支援スキルが高いが、人見知りのエルフ、ティア。筋力だけ異様に高いが、頭脳はからっきしの巨漢、ゴンザレス。


 どいつもこいつも、何かが尖っていて、何かが決定的に足りない。


「このクラス……バランス取れてるようで、地味に詰んでないか?」


 とカインが笑うが、アキトは内心、少しだけ安心していた。自分一人が異常じゃないというだけで、妙な仲間意識が芽生えていく。


 そこへ、教官らしき中年男がやってきた。


「よう、貴様らが今日からE組か。俺が担当のダリルだ。早速だが――初回実習だ。準備しろ」

「え? いきなりダンジョンですか!?」


 アキトは思わず聞き返す。


「そうだ。まずは生き残る訓練だ。E組は教室なんぞで座ってる価値もねえ。装備と水だけ持って、迷宮転送門の前に集合しろ。遅れたら放置する」


(……この人も、俺たちを見下してる)


 アキトは拳を握りしめた。


 だが、迷宮で起こる「事件」は、そんな焦燥感すら吹き飛ばすほどの、非常識なものだった。


 ◆


 ダンジョンへの転送は、訓練用の浅層……のはずだった。全員、装備も不十分なまま、初期階層(1〜3層)の草原エリアに降り立つ予定だった。


 ところが――


 カインが叫ぶ。


「っ!? おい、ここ、どこだ……!? 草原じゃねえぞ!」


 足元は冷たい岩。天井のない空間。空気が重く、呼吸するだけで肺がきしむ。


 目の前には、ねっとりと粘液を滴らせた巨大な異形のモンスター。


「……第13階層、『深層域』? なんで、こんな場所に……っ!」


 イリステラが悶絶しながら声を張る。迷宮のバグ。もしくは、故意の誤転送。どちらにせよ、これは訓練の範囲を逸脱していた。何故なら第13階層の『深層域』は未攻略なのだから。全てのダンジョンは繋がっている。今のところ攻略出来ているのは第12階層の『天上域』までなのだから。


「逃げろ! こいつはAランクモンスターの『キングスライム』だ。戦えるレベルじゃ――!」


 バサァン!!


 カインが叫ぶと同時に、巨大な尻尾のようにうねるスライムの手が彼を吹き飛ばした。


「カイン!!」


 だが、アキトは震えながらも、前に出た。背負っていた布袋から、小さなポーションを取り出す。


「……《保存庫》、開放」


 視界に浮かぶ魔方陣。その中に、今まで拾っていた小物、薬草、ポーション、魔法石、鉄片――全てを並べた。


(使える物、ないか……?)


 アキトは、スキルの真価をまだ知らない。だが、アキトの覚悟が、その瞬間、彼のスキルを進化させた。


【スキル:《保存庫》→《創造庫(クラフト・ストレージ)》に進化しました】



※作者より

 『覚醒スキルでダンジョン無双』第1話をお読みくださりありがとうございます。


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