第8話 私の太陽
「それで、あなたの名前は?答えなさい!」
どうしようか。
ここで出会ってしまった以上ごまかすなどムリだろう。じゃあどうする、脅すか。それとも...
クソ、なんで私はこの子がやってくるのに気づかなかったんだ。
気づくタイミングはいつでもあったはずだ。ゴブリンを狩る前の観察の時だって気づこうと思えばできたはずなのに、私はいつも詰めが甘い!
「どうしたの?そんな突っ立って!さぁ早く!」
ああもう!わかってるよ!今からお前をだませるような嘘を考えてるんだから少し黙れって!
なにか、何かないか...
「私は...」
初めて生物を殺したという罪悪感、そして想定外の邂逅、その二つによって多大な負荷を強いられた私の意識はだんだんと薄れ始め、ソフィーリアの声が遠く聞こえるようになり、視界がぶれて安定しない。
「私は...」
フラっと体が揺れたかと思うと私は、薄れていく意識に抗うこともできずに、倒れた。
「ん?ちょ、ちょっとあなた!大丈夫!?」
ソフィーリアが余裕綽々な態度を崩し、顔を真っ青にしながら倒れる私の身体を受け止める。
あ、やわらかい...少女特有の肌の柔らかさを感じつつ、すぅっと深い眠りにつく。
限界だった、私の身体も、精神も。
「ちょ、ちょっと!ねぇ!返事しなさい!」
何かを話そうとするけど、口が動かない。
「...ああもう!仕方ないわね!」
倒れた私の身体を背負って、ソフィーリアがどこかを目指して歩きはじめる。それが私の最後の記憶だった。
そこから先の記憶はないけど、母に背負われて帰ったいつかの日を思い出した。暖かくて、安心する。私の身体はいつの間にか涙を流していた。
「お母さん...」
「だっれがお母さん、よ!いいから大人しくしときなさい!」
そのようなやり取りがありつつ、私はどこかへと連れていかれた。
「...なさい、起きなさい」
「ん...」
どこからか聞こえる声で目を覚ます。
私は、寝起きだからか記憶が安定しない。記憶にもやがかかっている。何があったんだっけ。確か、ゴブリンを狩って、それで。
数秒遅れてすべてを思い出した私は勢いよく体を立ち上がらせる。
「ふん、ようやく目覚めたようね」
「あなたは、ソフィーリアさん...」
「どうやら私の名前くらいは憶えていたのね、倒れた時は焦ったわ」
周りを見渡すと、私の部屋ではない。
この人の部屋だろうか、私の部屋よりは少し狭いけど、かわいい人形で飾られていて私の部屋よりよっぽど良く見える。
「助けて、くれたんですか」
「目の前で助けれそうな人がいたら助けるに決まってるでしょう?さ、私のことなんてどうでもいいから質問に答えなさい」
「あなたは誰、そしてあそこで何してたの」
「もちろん、散歩していた、なんて嘘はダメよ」
どうやら本当のことを話さないといけないらしい。ごまかしも、効きそうにない。
観念して、私は何をしていたのか、どうしてこういうことをしているのか、スキルのことは伏せて話し始めた。
「ふーん、錬金術のために、ねぇ」
「私を犯罪者として突き出しますか?覚悟はできてます」
「そんなことしないわよ。むしろ、もっと気に入ったわ。あなた、私に協力なさい!」
てっきり犯罪者として逮捕されて、そこで鍛えるルートも覚悟していた私に、想定もしなかった提案がなされた。
「どういうことですか、私は、犯罪者ですよ?それも、かなり重い罪を犯した」
「そんなこと私には関係ないわ、いい?最初に言った通り、私はこの世で一番の錬金術師になる。そのためには今から鍛える必要がある」
「次の成長に魔物の素材が必要なところまで私は鍛えたわ、だからわたしにとっても丁度いいの、あなたの存在は」
「でもばれたら捕まるんですよ、私が言うのもあれだけど、怖くないんですか?」
この国において魔物の違法な狩猟は犯罪だ。
なぜなら魔物産の装備は強力で、協力が故に量が集まると国家ですら御しきることができないかもしれない。それを恐れた貴族たちによって法律で禁じられているというのに、この子は気にしないというのか。狂っている。
「そんなの知ったこっちゃないわ!私がそう望んだのだから、そんなものは関係ないの!」
「さぁどうするの!私に協力するか、黙ってここから去るのか!」
私は、「追い詰められたな」と思う。ここで断っても、きっと通報されて投獄されるのだろう。
だから私に残された選択肢は、ここでうなずくしかない。
「協力しなかったら通報するんでしょう?」
「わか「ちょ、ちょっと待ちなさい!それは聞き捨てならないわね!」
協力する、と言おうとした私のセリフを遮って彼女が話し始める。
「さっきも言ったように、私は将来誰も越えられないような偉大な錬金術師になる女よ!その私が、そんなみみっちいことしないわよ!」
「それで、今私は、あなたに聞いてるの。協力するか、しないか。世間体も法律もどうだっていい、私はあなたが欲しいと思った。だから今こうして誘っている。それを断られたからって腹いせに通報するほど弱い女じゃないの、私は」
私は自分の発言を反省した。
この人はどこまでも強くて、私とは正反対の位置にいる。
私みたいな陰キャと違って、自分の道をただ堂々と進み続ける人。覇道を征く人。
「わかった!?さぁ答えなさい!」
この人は、私にないものを持っている。どこまでもまぶしく明るい、地上に舞い降りた太陽、それが彼女。
なんて情けないんだろう。さっきの私の発言を悔やむ。こんな人を前に、私はあんなことを言ってしまったのだ。彼女にとっては、侮辱にも近い言葉を。
「すいません、あの発言は訂正させてください」
「あなたに、協力させてください。これは、私の言葉です」
彼女が満面の笑みを浮かべる。その笑顔は夏の太陽よりも鮮烈で、私の心は彼女に焦がされた。自分とは真反対の存在で、本当なら避けていくような人だというのに。
私は、彼女になら全てを捧げてもいいと思うほど、焦がれているのだ。
それは恋よりも強烈で、愛よりも深く、大きくて。
「いいわ!これからよろしくね!」
「これで私とあなたは対等になったことだし、そろそろ名前を教えなさい!」
「私は、ノイフォンミュラーです」
「ノイフォンミュラーね、いい名前だわ!」
「私たちは仲間よ、呼び捨てにしてもいいんだからね!さぁ、話し合いましょう!次に何をするか!」
「...はい!ソフィーリア!」
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