第2話 とりあえず次にすることを決めよう!

 さて、方針も決まったところで一つだけ無視できない問題がある。

 今が帝国歴何年かわからないということだ。


 庶民の家でもそれなりに豪華な装飾、それに反して機能的な家具のデザイン、よくある中世のイメージとビーダーマイヤー様式が混ざった内装。おそらく私が今いるのはドルート=セルク二重帝国だと思う。

 ドイツモチーフではあるが植民地からの影響を多分に受けているせいかそのままではないという特徴もしっかり当てはまっている。

 しかもこの感じだと戦争に負けてから数年経っているはずだ。国境を囲む防壁がすぐ外に見えるってことは国境の端あたりってことで、ノイフォンミュラーの出身地は十三区だから戦争後だと整合性もつく。


「てことは今が帝国歴4040年後半だとして戦争まであと数年、それしかないのか...」


 現状を理解すれば適切な目標が定まる。

 帝国が全面戦争を仕掛けるのはルートによって若干の違いはあれどだいたい4056年だ。

 長いようで短い数年の猶予。戦争という大きな流れの中で私が死んで変わるという目標を達成できなくなるのは嫌だ。

 絶対に無駄にできない時間の中で私は何をすべきか。それは、世界の理解と、生き残る術を得ることだ。

 まずは世界の理解。いくらゲームをやっていたからってどうしても認識と違うことは起こりえるし、この古い倫理観の世界では遺物其れすなわち死を意味する。

 前世みたいに自分だけの空間に閉じこもるんじゃなくて外とつながりを作らなきゃいけない。

 次に生き残る術を得ること。ノイフォンミュラーは錬金術師だけど私はそうじゃない。

 だから錬金術を一から学んで、体も鍛える。どれだけ備えても国同士の戦いでは些細なものかもしれないけどやらないよりはましだ。

 

「じゃあまずは外に出てみようかな」


 第一の目標、世界の理解のためにとりあえず各区画の中心地、広場へ行くことにした。ここにはいろんな店が集まっていて、ちょうどお腹もすいていたし食事補給次いでにこの世界について調べられるだけ調べてみよう。

 下着姿なので、とりあえず周りにあった箪笥から服を取り出す。


「この服やタンスもスキルで作ったのかなぁ」


 服を着ながらそんなことを考えていた。

 部屋の様子を見るたび乗っ取った罪悪感はあるが私が望んでこうなったわけじゃない。哀悼の意を示すのでどうか許してほしい。いやムリか...ごめんね。

 外に出てお金がないと困るので部屋の中を探して数分、ようやく見つけた財布の中には硬貨がたんまりとあった。


「もしかしてこれって...」


 いくらなんでもまだ一介の女性であるノイフォンミュラーがこれほどの大金を持っているのはおかしい。ってことはつまり...

 頭の中に良くない二文字が浮かび上がってくる。


「い、いやあそんなことないよね、うん。きっと宝くじとか当たっただけだって!」


 誰に聞かれてるわけでもなしに心の中で言い訳をして財布のようなものに硬貨をしまう。


「よし、お金よし、服よし、全部よし」


「早速出かけよう」


 外の世界では前世のように太陽が眩く光り輝いている。

 あの時は焼き尽くそうとしてきているように見えていた太陽も、心を入れ替えた後では私を後押ししてくれているように感じる。きっとこれが”成長”なのだろう。

 私は新たな人生への第一歩を踏み出した。

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