炎と水の絆 ~呪われし少女と祝福の少年~

ましろゆきな

第1話 旅の始まり ~対照的な二人の出会い~

 太陽が燃え盛るかのような、赤土の村。その片隅で、少女リラは生まれた。


 彼女の髪は燃えるような赤色で、瞳は炎のように揺らめく琥珀色をしていた。


 村人たちは彼女を恐れ、遠ざけた。

 この村では、何百年も前に精霊の加護は失われ、もはやおとぎ話となっていたからだ。


 リラの周りだけ、いつも空気が熱を帯び、彼女が感情を揺らすたびに小さな火花が散った。

 それは、幼いリラには制御できない、彼女自身の体から発せられる力だった。


 リラは幼い頃から、常に孤独だった。

 学び舎では、机が一つだけ離され、子供たちは彼女と目を合わせようとしない。

 母親は、リラの髪の色を「病気」だと嘆き、父親は冷たい視線を向けた。

 彼らの間に、温かい親子の会話はなかった。


「呪われた子だ」

「あの子は災いを呼ぶ」


 そんな陰口が、リラの耳に届かない日はなかった。

 村の子供たちは彼女を避けて遊び、大人たちは顔を背けた。


 リラの唯一の安らぎは、村の近くにある「火の山」だった。

 そこは、常に微かに煙を上げ、村人たちが近づかない場所だった。


 リラはこっそりと火の山に登り、山の頂上から立ち上る熱気を肌で感じていた。

 そこだけが、自分を拒絶しない、唯一の場所のように思えたのだ。


 リラは、どうすれば自分の力が消えるのか、どうすれば村人に受け入れてもらえるのか、ずっと考えていた。

 彼女は、自分の体に宿る力を「呪い」だと信じ、感情を押し殺し続けた。

 喜びや悲しみ、怒りを感じるたびに、制御できない火花が散るのが怖かったからだ。


 彼女の心は、凍てついた氷のように、感情を閉ざしていた。





 一方、火の山から少し離れた、水の豊かな町には、セレスという一人の少年が暮らしていた。


 彼の髪と瞳は青く、湖のように澄んだ瞳をしていた。


 セレスは、水の精霊の加護を受けていたが、リラとは対照的に、町の神殿の庇護のもと、人々に受け入れられていた。

 彼は町の水源を守る神聖な存在として、尊敬と崇拝の対象だった。


 セレスの周りでは、空気が常に清らかで、彼が祈りを捧げれば、どんな干ばつも乗り越えられると信じられていた。

 町の子供たちは彼を「セレス様」と呼び、憧れの眼差しを向けた。

 また、セレス自身も、自分の力が人々を助けることに喜びを感じていた。


 彼は自分の加護を「祝福」として受け入れていた。





 ある日、リラの村に大干ばつが襲った。


 作物は枯れ、井戸は干上がり、村人たちの間に絶望が広がった。

 村の長老たちは、この干ばつはリラの「呪い」のせいだと決めつけ、彼女を村から追放しようとした。


 その瞬間、リラの心に溜め込まれた怒り、悲しみ、そして恐怖が爆発した。

 彼女の体から、制御不能な炎が吹き出し、村のあちこちに飛び散った。

 炎は瞬く間に燃え広がり、村はパニックに陥った。

 リラ自身も、自分の力の暴走にどうしていいかわからず、ただ恐怖に震えることしかできなかった。


 その炎の光景は、遠く離れたセレスの町からも見えた。

 夜空に赤く燃える光の柱が立ち上り、町の人々は不安にざわめいた。

 町の長は、セレスに命じた。


「セレスよ、水の加護の力で、あの炎を鎮めてくれ。村が消えてしまう!」


 セレスは、ためらうことなく炎の村へと向かった。

 村に到着すると、炎に包まれて茫然と立ち尽くすリラを見つけた。


 リラの周りの炎は、彼女の感情を反映するかのように荒れ狂っていた。


 セレスは水の精霊に祈りを捧げ、その加護を最大限に発揮した。

 彼の体から、清らかな水が湧き出し、炎を包み込んでいった。


 しかし、炎の勢いは強く、水の精霊の力だけでは完全に鎮めることはできなかった。

 セレスはリラに近づき、彼女の手を強く握りしめた。


「君の力は、呪いなんかじゃない。僕の力と同じ、精霊の加護だ。僕の力は、君の炎を鎮めるためにあるんじゃない。君の力を、正しく導くためにあるんだ」


 セレスの言葉が、リラの心に響いた。


 リラの暴走していた炎は、セレスの水の力によって落ち着きを取り戻し、優しく揺らめく光に変わった。


 その光景は、村人たちに深い畏怖と、かすかな希望を与えた。

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