第41話 出陣前
トニーチが指定した時間より、かなり早く集合した一同。
再処理施設管理事務所から提供された監視カメラ映像に、トニーチたち黒いパワードスーツ一味の多重事故に見せかけた工作活動が映っていた。ヤンヌは、ハッサク指示の元、証拠映像の画像を大量に印刷し、証拠映像もいくつかの小型記憶装置にコピーしていた。
ハッサクが言う。
「その場の状況次第で、この画像と映像をばら撒く。この施設で働く者としても、こういう乗っ取り行為は潰していく」
「爺ちゃん、そうだ、やっちまえ!」
アケビが、そろりとその場を離れ、エアバイクに近付き、ドアを開けた。
「もしもーし、起きてる?」
「えぇ、起動中でございますわ。なんでしょうか?」
「有線じゃなくて、無線経由のハッキングも可能?」
「アタクシ、オーナー様のためなら、やってのけますわっ!」
「予定として、建物内にある大型モニターに映像と画像を表示させてほしいの。どうかな?」
「喜んでお受けいたしますわ。今ですの?今からやってもよろしいんですの?対象はどちら?どちらですの?」
「落ち着け。午前中の間に移動するから、その後だよ。場所は、琉金物流倉庫」
「あぁ、あちらですね。すでに、無線発信元の掌握すべき情報は持っておりますの」
「おわぁ、早いね。暇つぶしで、通信覗いてるの?」
「だって、出来ちゃいますの」
「待ってて、みんなに計画話してくる」
「かしこまりましたわ」
アケビは、画像と映像の流出をエアバイクシステムに頼む案を皆に話した。
「なんと、すでに通信掌握済みとな。アケビさん、すごいカスタムAI組み上げたな」
「育て主に似たんじゃない?」
「よく分からないですけど、いくつも手段があって良いかと思います。なので、ワタシも出来る事で動きます」
「それでは、多くの手段で悪巧みの証拠は公開していく。みんなで、挑むってことで」
先日の事故以前の証拠画像をヤヅキ解体の事務所で印刷していくが、なかなか時間がかかった。印刷速度を上げれば画質が潰れてしまい、高画質にすると丁寧な印刷になる。これは当然の話だが、誰もが見て分かる画質で印刷を行なった。
その待ち時間、白いパワードスーツの充電残量を気にしたり、軽く運動して、どの動きが性能的に問題なのか確認した。
ある程度の枚数が印刷出来た頃、出発するには丁度良い時間となった。早朝より集まっていたおかげで、急な作業に対しても焦らず
皆に気持ちの余裕があった。
出発前にハッサクがアケビに聞く。
「あのさ、アケビさん。何か作戦は考えておるのかね?」
「おそらく、トニーチはパワードスーツの性能差を見せつけたいので、いつも行なわれているドラム缶競技に持ってくるでしょう。ドラム缶か、黒スーツに仕掛けをして、『何やってんの?』と言ってくるはずです。なので、相手の出方に合わせて跳ね返します」
「……アケビさんよ、その引きつった表情は、自分を抑えるのが限界に来ておるようにしか見えんぞ」
「さて、なんのことでしょう?アタシ的には、"ドラム缶大開放日"なので、弾き飛ばしてやりたいと思ってます」
アケビ以外は、皆『何を言っているのだろう?』と思ったが、どう声をかけたものか分からなかった。
そして、出発の時間。ハッサクとヤンヌは、ヤヅキ解体のロゴ入りトラックで先に出発した。その後を、エアバイクでアケビとブンタンが追いかける。
エアバイクの車内、ブンタンが出発前のアケビの言動が気になり、話しかけた。
「アケビさん、ちょっといい?」
「何よ、改まって」
「本当に、相手に合わせたことするの?穏便な感じというか、そんなわけないよね?」
「ブンタン、どっちがいい?これまで通り、相手に決められたやり方と、そうではない手段」
「考え決まってるじゃん。そんな二択ないよ~」
「そうだよ。ようやく直接対決の場が用意されてるんだ。どれだけのことをアタシにしてきたか……」
ピー ピー ピー
「オーナー様、アクセルペダル抑制機能を作動させましたわ」
「あ、ごめん」
アケビは、ブンタンとの会話で、アクセルペダルを踏み込みすぎた。
ブンタンは、その状況を後部座席で眺め、今から起きる事は、穏やかには決して済まないと改めて思った。
その後、到着までエアバイクの車内は、沈黙のままだった。
琉金物流倉庫に着くと、ハッサクが駐車した隣にエアバイクを停めた。
「ブンタン、一曲だけ聴いても構わない?」
「いいんじゃないの、何聴くの?」
アケビは、システム画面を指先でトントンと叩いた。
「あのさ、音楽の検索って頼める?」
「お安い御用でございますわ。いかがなさいましょう?」
「ドラムやベースが激しくて、地の底から沸き立つような魂が震えるほどの唸る重低音で」
「はい、ご依頼にあった音楽は多くございますの。アタクシの選曲をかけてもよろしいですか?」
「任せる」
「では、お聴きください」
激しいドラムソロから始まる楽曲は、エアバイクの外装をビリビリと振動させる。聴き慣れないブンタンは、びっくりして後部座席からアケビの顔を覗き込んだ。アケビは、目を閉じ、興奮ではなく、むしろ気を落ち着かせようと、その音を聴き入った。
ブンタンは、そのアケビの横顔が、これまでの憑き物が取れたようで、その輪郭に見惚れていた。
コンコン!
アケビが、その音の方を見ると、ヤンヌが窓を叩いて呼んでいた。
「システム、音楽止めて」
「分かりましたわ」
アケビがドアを開けると、ヤンヌが心配した表情をしている。
「大丈夫ですか?緊張しておられるのでは?」
「いえいえ、色々あったな~って、物思いに耽っていただけですよ。では、行きましょうか」
エアバイクから二人が降りる。ドアを閉める前に、アケビがエアバイクシステムに話しかけた。
「頃合いをみて、変化ないならやっちゃってね」
「分かっておりますわ。頂いたデータ、よそにも送りたいほどですの」
「今は、そこの倉庫内モニターだけで構わないから」
「承知致しましたわ。オーナー様も、ほどほどに」
アケビは、ニヤッと笑って、ドアを施錠した。
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