第34話 逃走的撤退
ゲーダ会長のヤンヌへ縁切りとも思われる行動と失礼な態度。アケビは怒りをドラム缶にぶつけた。
琉金物流倉庫の駐車場で、エアバイクの元へ移動するアケビとヤンヌ。そして、車内に乗り込む。
後部座席のヤンヌが言う。
「見てて、スカッとしました。……はぁ~、どこかでお酒飲みますか?」
「いや、まだ午前中ですよ。再処理施設内に飲み屋あるかもしれませんが、その前にやることあります」
「何をやるんです?ゲーダ会長をぶっ飛ばしますか?」
「機会があればそうしたいですが、会社の鍵持ってますよね?」
「はい、持ってますよ。そう言えば、『鍵返せ』っぽいこと言われなかったですね」
「そこなんです。ゲーダ会長たちが入る前に、持ち出せる物を出しましょう」
「何かあるかもしれないから、早く戻りましょう」
「あの人たちよりも先に。悪あがきでしょうけど」
アケビは、キビキビとした運転で再処理施設駐車場に戻った。
「いつ戻るか分からないけど、待機状態でお願い。それと、周囲の警戒もしておいて。おかしな動きをする者がいたら警報音と通報しちゃって」
「問題ありませんわ。いつも通り、360度カメラも録画しておきますの」
エアバイクのシステムに注意を促し、アケビとヤンヌは、お昼休みが終りに近い施設内に急いで向かう。
オフィスJKM前に到着すると、鍵はかかったままで、照明も点いていない。ヤンヌが鍵を開けると、人の気配はなかった。
アケビが小声で話しかける。
「ヤンヌさん、社内に防犯カメラってありましたか?」
「いえ、その予算を組んだ覚えがないのです」
「短時間の滞在にしましょう。盗撮・盗聴の可能性があると思って、個人所有物を取りに来た動きをしてください。ヘタに買取業者に売れそうな大きな物は手を出すと、あの人たちはアタシたちを犯罪者として処分して、より優位に立ちたいはず」
「分かりました。でも、アケビさんは、何をしようとしてるんですか?」
「後のお楽しみ」
「はい……」
アケビは走って、自分の作業台に向かった。ヤンヌも経理席で個人の持ち物をカバンに積めだした。
アケビの作業台に到着すると、引き出しを順番に開け、資料や掃除用タオル等を作業台の上に置いた。資料はゴミ箱に捨てた時、卓上の液体薬品にぶつけて、こぼしてしまう。それを掃除用タオルで作業台の上を拭くが、慌てていたため、掃除用タオルを床に落としてしまう。作業台の下に潜り、アケビは作業台の背面裏に貼り付けていた箱をゆっくりと剥がし、中身を取り出してポケットに入れ、また作業台の上を掃除した。
盗撮対策の小芝居を終えたアケビは、自分のカバンを肩にかけ、ヤンヌの元へ。
「ヤンヌさん、済みましたか?」
「はい……全データ削除はダメですよね?」
「いろんな罪を
「はぁぁ、分かりました」
ヤンヌが席を立った時に、ドアを叩く者がいた。
コンコン!
ヤンヌがドアを開け応対する。
「こんにちは、どちら様でしょう?」
「あ~、どうも、テナント管理の者です~。ゲーダ社長から連絡ありまして、『この場所を退去するから』と言われまして」
「そ、そうなんですよ。社長から会長職になられまして、急にワタシたちも追い出されることになったんです」
「まぁ、急ですね。居抜きとして使えるかの調査なんですがねぇ、入口から見る状況からして、全撤去じゃないとねぇ。全撤去の判断ならば、敷金返さない代わりに、機密情報の処分も専門業者に委託してくれ、ってことなんですよ。いいんですか、情報無くなっちゃって?」
「いいのでしょう。いろんなデータは、コンピュータネットワーク上にあるので、資料は大して重要ではないってことだと思います」
「どこの会社も同じですもんね」
「あ、そうそう。ワタシが預かっている会社の鍵をお渡ししてもよろしいですか?」
「構いませんよ、残りはゲーダ会長が持ってくるでしょうから」
ヤンヌは、どさくさ紛れに会社の鍵を返した。
「それでは、ワタシたちは失礼します」
「お疲れ様です~」
ヤンヌは、率先して前を歩き、アケビは付いて行く。つかつかと通路をしばらく歩き、座席のあるカフェが見えてきた。
「アケビさん、休憩しましょう」
「えぇ、思わぬ人と出くわして、ちょっと緊張しました」
カフェ店内に入ると、昼休憩の時間を過ぎたため、客はまばら。
「ご注文はいかがなさいますか?」
「アイスカフェオレと、ビッグサイズパンケーキにバニラアイスをトッピングで」
「アイスコーヒー2つ、カツカレー」
店員が去って、話し始める。
「アケビさん、なんですか、飲み物2つって」
「ヤンヌさんこそ、甘い物で攻めて、すごいじゃないですか」
空腹を忘れていた二人は、カフェ店内で燃料切れをものすごく感じ、力なくお互いの注文をイジってみた。
注文の品が届き、ドタバタして無事逃げ出したことに乾杯して、ゴクゴクと飲み物で喉を潤した。
「んはぁ。お酒じゃなくても沁みるもんですね」
「朝から水分取れてなかったでしょ。アケビさん、一気飲みですか。おてんばさんですね」
その後、会話もせず、ガツガツと食べ進め、少し落ち着いた。
ヤンヌがナイフとフォークを静かに置き、ひとつ溜息をついた。
「ふぅ。これから、どうしましょう。このまま、渡されたお金を半分に分け、この施設を去るという選択肢もあります。ただ、納得がいかないのです。あの人の思いのままに、多くの人を適当に扱って、職を失い、想いも断ち切られた」
「経営者って、そういうものじゃないんですか?」
「従業員の気持ちが分からない経営者がそれなりにいます。人を育てず、対価も見合わぬ、相手に歯向かわせず、飼い殺しな雇い方」
「確かに、そんな環境でしたね」
話していると、店員が近付いてくる。
「あの~、そろそろ閉店時間でして、お会計をよろしいですか?」
「はい、すみません。急いで出ます」
早朝から営業のため、昼過ぎには閉店時間となる店舗だった。店の外に出ると、ヤンヌがアケビについてくるよう指差しで合図を送る。
通路を歩き、階段を上ると、屋上のドアが開いていた。
「ここ、穴場なんです。案外知られてなくて」
「へ~、屋上って誰でも出られるんだ」
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