第27話 寄り道

 エアバイクで始めての帰り道。久しぶりに[コインランドリー&カフェ ホワイトリリー]に立ち寄った。



 注文の品が出来上がるまで、ホワイトリリーのカフェスペース壁に掲示板を眺めるアケビ。


「この掲示板は、相変わらずだな。バンドメンバー募集、売ります・買います……あ、そうなんだ」


 アケビが見つけた[売ります]という所有物の個人販売に、知った名前を見つけた。最近まで、アンドロイド樹脂脳核の解析を一緒に行なっていたアスター。特に珍しい名前でもないが、販売したい内容が高性能コンピュータを3台(バラ売り可)と書いてあり、おそらく同一人物だろうと推測できる。


「目標が無くなっちゃったら、いらないかもね」


 少し寂しい気持ちになる。


 そこへ、ユリネが出来上がった料理を持ってきた。


「はい、お待たせ、カレードリアとアイスティーね。サラダおまけしておいたから、残さず食べなさい」

「ありがとうございます。最近、ビタミン不足なので助かります」


 ユリネはアケビの左肩をバシッと叩いて、笑顔で戻っていった。


「イタッ!」


 アケビは思う、ユリネは、アタシたちが顔出さなくなったことを心配してくれてたのだろう、と。ユリネは、顔馴染みでなくてもお客さんへの気配りをかかさないし、この地域のまとめ役としても知られている人物。そういう相手に覚えてもらえることも感謝しなければ。職場での扱いにうんざりして、アタシは独りだと思うことがほとんどだが、最近、チームの解散、爺と孫との会話、先程の気遣ってもらえる対応が、少しは人との関わり持ててたんだと身に沁みる。


「食べないのかい?」


 他のテーブルを拭いていたユリネが、話しかけた。


「いえ、熱々なので、ゆっくり食べてるだけっす」

「へ~。てっきり、物思いか、感傷に浸ってるのかと思ったよ」


「それは、ないです。この器の底まで、しっかりとカレールーがひたひたになってて、表面のチーズと中の熱々具合と戦いながら食べております」

「まぁ、饒舌だことっ!口の中、火傷しないでよ~」


 軽くお節介を焼きながら、去るユリネ。アケビは、たゆんたゆんと揺れる洋梨体型の後ろ姿のユリネを見て、本当に心配されてたんだな、と自覚した。


 アケビは、熱さにもがきながら食べ終え、受付カウンターに食器を返却する。奥の厨房から、ユリネに大きな声で言われる。


「また、顔出しなさいよ~」

「は~い、また来ます~」


 アケビは、ユリネに返事して、店を出た。

 夜のひんやりした空気を感じて、また思う。やっぱり、あの職場がおかしいのだろう、と。


 エアバイクのドアロックを解除し、乗り込む。カードキーを差し込むと、システムが起動した。


「お待ちしてましたわ」

「はい、お待たせ。ん?カードキー差し込んでない時って、システムは完全に落ちてないの?」


「待機状態ですわ。無駄な電力を使いたくないので、長い時間になると省電力に切り替わりますの。システム起動には結構電力必要でして、この車両バッテリーは複数完備しておりますわ」

「そうなると、充電って結構頻繁にしなきゃいけないわけ?」


「その辺は、しっかり設計・対応済みでして、本体表面は、光・熱・風・振動から電力を生み出し充電してございます。走行中も発電と充電が並行して行なわれておりますゆえ、安心されてくださいな」

「へ~、ちゃんと考えられてるんだね」


 アケビは、移動手段が違うと、ホワイトリリーからマンションまでは数分で到着した。居住者に割り当てられているマンション駐車場にエアバイクを停めると、システムから話しかけられる。


「オーナー様、携帯電話登録して頂けますか?」

「へ?何で必要なの?」


「防犯上、何かあったら、お知らせする機能がありますし、位置情報をお伝えして、広い場所での捜索にも役立つかと思いますの」

「なるほどね。アタシが所有者に一応なるからさ、登録するよ」


 アケビは、システム画面に携帯電話を近付けると、ポーンという音と共に携帯電話の画面上にエアバイクのイラストマークが表示された。


「エアバイクシステムの情報が確認できますので、時折見て頂きますと、先程申し上げた充電具合等、ご確認頂けますわ」

「まぁ、これで一心同体ねっ」


「嬉しいお言葉ですわっ」

「そうですわねっ。あっはは、システムと普通に会話できちゃってるよ。それじゃ、しっかり休んでね」


 エアバイクのシステムと確認作業を終え、アケビは、自宅に帰った。


 アケビは、シャワーを浴びた後、いつものようにコンピュータの前に座り、様々な情報検索を行なう。


「そういえば、しばらく起動させてないな」


 そう呟いて、通信アプリを起動させる。自動更新等があった後、確認すると、樹脂脳核解析仲間が覗いている形跡があった。しかし、挨拶を書き込む程度で、何かやりとりしているようでもなかった。


[アケビ:お久しぶりです]


 と、入力したものの、続く言葉が思いつかず、通信アプリを終了させた。


「ふぅ」


 ひとつ溜息をした後、コンピュータの電源を落とし、またベッドに転がり込んで、眠った。


 翌朝、エアバイクで通勤するため、早めに出発する。朝の混雑具合で、再処理施設までの移動時間がどのくらいかかるか分からないからだ。

 アケビがカードキーを差し込むと、システムが挨拶をした。


「お待ちしておりましたわっ」

「おはよう。再処理施設まで行くんだけど、無難な道順を地図で表示してくれない?」


「3つの順路をご案内出来ますの。どの道も大きな交差点を通る必要があるので、5分程度の誤差になるかしら」

「そうなんだ。それなら、今日は周回バスが通らない道を行こうかな」


「それでは、その順路を表示させ、ご案内致しますわ」

「はーい、では、安全運転で」


 案内通りに進むアケビ。周回バスに乗っている時と目線が違うので、新たな発見があるかと思われたが、何とも殺風景な通勤路。"空き店舗"と看板の下がった店が増えたな~、と時折眺めながら、無事に再処理施設の駐車場に辿り着いた。


「ねぇ、ずいぶん早くない?もう着いちゃったよ」

「そのような順路を選びましたので」


「あ~、そうだよねぇ。周回バスみたいに乗降停車がないから、余計に早いよね。それじゃ、行ってくるよ」

「行ってらっしゃいませ」


 かなり余裕を持って出勤でき、施設内に入っても、人の流れに圧迫される息苦しさもなく、会社まで辿り着いた。

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