第17話 そうなんだ

 しばらく連絡を取っていなかったので、アケビはエアバイクの様子を伺いに、ヤヅキ解体に顔を出し、ブンタンたちと確認をした。



 エアバイクの修理は時間がかかるというより、手探り作業なので期限が決められないものだろう。アケビは、ハッサクとブンタンには特に催促するつもりもなく、気長に待つ状況。その間に、アケビは育てていたカスタムAIをエアバイクに導入する案に対して調べ始めていた。


 自宅でネットワークでの検索作業中、通信アプリにメッセージが届いた。


[グラナジャ:お久しぶりです。ようやく入手したものがあるので、ホワイトリリーに集まれますか?]

[アケビ:久しぶり。アタシも樹脂脳核集まったから、配給したいところだったよ]

[アスター:みんないる!]

[レンブ:出張先からチラ見]

[マーコット:OK]


[グラナジャ:明後日なら都合いいけど、どう?]

[アケビ:大丈夫だよ]

[アスター:問題なし]

[レンブ:明日戻るから、丁度いいね]

[マーコット:現場待機]


[グラナジャ:以上、ご連絡でした。家事に戻ります]

[アケビ:お疲れさま]

[アスター:了解]

[レンブ:楽しみにしておくよ]

[マーコット:今から出発]



 短いやり取りだったが、久しぶりの仲間との交流。アケビは持ち帰っていた樹脂脳核を見て、少し微笑んだ。楽しみが出来たことに素直に嬉しかったから。


 2日後、アケビは仕事帰りに、[コインランドリー&カフェ ホワイトリリー]に向かった。今回は、樹脂脳核の量が多いので、別のカバンを用意して運ぶ。

 店内に入ると、他の客がいない時間帯なのか、すでに皆が集まっているのが見えた。テーブル席につくと、一旦荷物を置き、いつものようにカフェ受け付けに行き、とりあえず飲み物を受け取って、また席に戻る。


[アケビ:みんな、ご無沙汰だね]

[アスター:多忙なんでな]

[レンブ:移動ばかりで大変だよ]

[グラナジャ:家の仕事も細々あるからねぇ]

[マーコット:逃避行]


[アケビ:先に樹脂脳核を渡すよ。今回多め]

[アスター:助かるよ]

[レンブ:大漁だ]

[グラナジャ:当分楽しめますね]

[マーコット:輝いている]


[アケビ:それで、グラナジャが言ってたものって?]

[アスター:そうそう、何よ?]

[レンブ:まさか?]

[グラナジャ:そう、海外からアンドロイド資料が届いたの。オークションで落札しました]

[マーコット:分厚い]


 グラナジャが取り出した未開封の箱。テーブルに置いて、固定されたテープを切り、開封した。中身は、古びた資料の閉じられたファイル。


[グラナジャ:これですね、各部位の資料らしくて、頭部資料を落札したの。ただ、海外のものだから翻訳する必要があって、皆で手分けしましょうって話]

[アケビ:そうね、携帯電話のアプリで、撮影すると翻訳して文章で出力するやつがあったね]

[アスター:資料を分割しよう]

[レンブ:あっという間に終わるでしょう]

[マーコット:優秀な翻訳アプリ知ってる]


 マーコットがいう翻訳アプリを皆がインストールし、グラナジャが資料を分けて配り、それぞれ翻訳作業に入った。


[アケビ:ん~、開発者の苦悩と製造元の量産化が難しかったことが書いてある]

[アスター:こっちは、脳核の話が出ている。当たりかも]

[レンブ:アスターの続きになる資料のようだ。これも脳核について詳しく書いてある]

[グラナジャ:こちらは、視覚のようです]

[マーコット:顎の開閉。潤滑油大事なり]


 それぞれが集中して、無言で資料を撮影しては、翻訳アプリの表示を待ち、内容をじっくり読む。

 30分くらい経った頃、アスターとレンブが同調したかのように声を上げた。


[アスター:なんだと!]

[レンブ:なんだって!]

[アケビ:どうしたのさ、二人揃って]

[グラナジャ:何か見つかったの?]

[マーコット:??]


 アスターとレンブは顔を見合わせる。戸惑いの表情にも見える。


[アスター:んんん]

[レンブ:もう少し先まで翻訳させてほしい]

[アケビ:そっちの資料が探してた内容っぽいから待つよ]

[グラナジャ:慎重にね]

[マーコット:どうなの~]


[アスター:マジか。そうなのか。そうだったのか]

[レンブ:翻訳間違ってないなら、事実なのだろう]

[アケビ:もったいつけちゃって]

[グラナジャ:他の翻訳アプリは、携帯電話の標準装備のものもあるからね]

[マーコット:みんなで見たら?]


 皆が異なる翻訳アプリを用意し、アスターとレンブが戸惑う翻訳部分をそれぞれ指し示した。その資料の一部に携帯電話をかざし、撮影した。


[アスター:同じか]

[レンブ:一緒だな]

[アケビ:え、そうなの]

[グラナジャ:こうなっちゃうんですか]

[マーコット:消失]


 翻訳アプリの表示は、以下の通り。


 アンドロイドの記録・学習した内容は、アンドロイドの頭部にある樹脂脳核に書き込まれる。同じ行動でも最適な行動と思われる内容が上書き保存され、更新され続ける。アンドロイドは、失敗の記憶より、無駄のない行動を優先し、人間とは異なり、感情的な行動を求めぬよう書き込まれている。また、アンドロイドが行動不能・機能停止となった時点で、他アンドロイドへ不確かな情報共有を避けるため、記録・学習した内容全てを消去される。復元や読み取り不可能とするため、アンドロイドの動力源から高電圧の負荷が樹脂脳核に伝わるよう設計されている。


 それぞれの体の表現で、力が抜けた。前に突っ伏し、うなだれ、背もたれに身を任せ、目の焦点が合わず、両手で顔を塞ぐ。


[アスター:なんてこった]

[レンブ:そうなのか]

[アケビ:信じたくないけど、そうなんだ]

[グラナジャ:この資料を作成した企業や開発元は実際にあって、信用できる情報です]

[マーコット:時間がすごくかかった~の]


[アスター:はぁ~]

[レンブ:何年もかけたのにさ]

[アケビ:会社の人が同じ事言ってきて、ただの嫌がらせと思ってたのに、事実だったなんて]

[グラナジャ:そんな事言ってくる人がいたのね。でも、海外の資料で同じ内容なら、揺るぎない事になる]

[マーコット:オイラたちは、それを知らずに楽しんでた]


[アスター:悔しいな。無駄な時間を過ごしてしまった]

[レンブ:それは違う。無知を知っただろ?]

[アケビ:樹脂脳核を解析できないことが証明できた、と]

[グラナジャ:そうね。前向きに言うなら、出来ないことを確かめたのよ]

[マーコット:なんだか、店内騒がしくなってきた]


 マーコットが周囲を見渡すと、コインランドリーの方に学生の集団がやってきて、ユニフォームやタオルを大量に洗濯している姿が見える。その後、カフェの方を指差し、こちらに来そうな気配。


[レンブ:場所を変えよう。某が車で来たから、皆、乗れる]

[アスター:分かった。このままでは中途半端だから、移動だ]

[アケビ:……うん]

[グラナジャ:付いて行きます]

[マーコット:よし]


 テーブルの上を片付け、資料はグラナジャが回収して、一同は外の駐車場に向かった。レンブが乗ってきた高級車に乗り込み、ホワイトリリーから、とりあえず離れた。

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