第5話 新たな情報

 作業に集中していると昼休みの時間となった。アケビは、気分転換も兼ねて広い駐車場に来ているキッチンカーで昼食を取ることに。


 どれくらいの人がいるか分からない、再処理施設の中。点在する施設内飲食店は、行列が絶えない。また、その中でも競争が激しく長く続けられないお店も多い。それは、外でも同じ。キッチンカーも個人が好む味でも、客がまばらならば、翌月には出店しないこともある。アケビは、ステーキ丼のキッチンカーがお気に入りだったが、採算度外視し過ぎだったのか、もう来なくなった。豪快な肉の量にステーキソースの味が良かったのに。キッチンカーを見るたびに、少し探してしまう。


 数店のキッチンカーを回っていると、いくつも行列が出来ていて、並び遅れてしまった。


「あ、失敗した。時間かけすぎなんだよ、あの店は、もう来ないから探してもしょうがないのに。ん~、ちょっといてる、あそこにしてみようか」


 施設入口から少し離れた場所にあるキッチンカーを目指す。徐々に看板がハッキリ見えた。


「そうか~。昼休みの残り時間考えると、ここで手を打つか」


 そこは、ホットドッグのキッチンカー。自慢の粗挽きソーセージと手書きの看板がある。アケビは、いろんなトッピングや他メニューと迷ったが定番のホットドッグとアイスティーを頼み、商品を受け取ると、お店が用意した立食用テーブルに向かった。大きな傘の下に入ると、早速食べ始める。


 なんだ~、太っいな~、このソーセージ。溢れる肉汁に、ケチャップ、炒めキャベツの食感。んはっ、ウマッ!テーブルのマスタードをかけると、これまた味変で刺激になって、ちょっと大きいかな?と思ったホットドッグが、あぁ、もう食べ終えてしまう……。


 声を出したいが、感想も噛み締め、自然と笑みがこぼれる。アケビの食べる姿が目立ち、他の人々にも刺激となり、徐々に行列が出来始めていた。

 アケビは見られていたとは思わず『誰かが食べている姿を見ると、結構つられてしまうよなぁ』そんなことを思いつつ、アケビはキッチンカー横に設置されたゴミ箱に容器を入れ、近くにいた店員に声をかけた。


「また、このお店来ますか?」

「次いつか分からないですけど、抽選に通れば来ます」


「そうなんですね、また伺います」

「よろしくお願いします」


 普段、あまり話しかけないが、アケビは満足した味わいに興奮していたようだ。


 駐車場から施設内に戻る途中、人々が足を止め、何かを見ている。そこには、再処理施設に関する情報が表示される電子掲示板があった。何分割か、情報に応じて掲示物が表示され、施設の締め切られる時間や一斉清掃の日時等、案内が次々に流れる。通常、関係者なら知っているはずなのに、皆が、何かを待っている。順番に表示される案内が一巡し、電子掲示板一面を使った案内が表示された。


「うわ~、久しぶりだよ。何年振りだっけ?」

「友達に声かけるよ。一般入場は、2日目からか」

「相変わらず、初日は施設関係者優先。貯金残高確認しなきゃ」

「とうとう来たよ、ジャンクフェス!」


 ざわつく人々と一緒にアケビも電子掲示板を眺めていた。じっくり見たいが、次の掲示物が表示され、休憩時間が残り少ないので会社に戻ることにした。


 施設内に入り、階段を上っていくと、印刷物を貼り付ける掲示板にも『ジャンクフェス開催!』の見出しと共に、詳細が書いてあった。読もうとした時、声をかけられる。


「アケビちゃ~ん、そろそろ時間だぞ~」


 階段を上がってくるゲーダとヤンヌだった。


「ゲーダ社長、ジャンクフェスっていつ振りなんですか?」

「あ゛~、アケビちゃんがウチに入る前の年はやってたはず。だから、3年振りかな。詳しくは、社内に入って教えるよ。関係者向けチラシがあったはず。だよな?」

「えぇ、社長、頂いてます。自由参加なので、案内書類は欲しい方へ渡すようになってます」


 3人は、社内に戻り、ヤンヌが受付の引き出しから、ジャンクフェスの詳細が書かれた用紙をアケビに差し出した。


「まず、ジャンクフェスというのは、再処理施設に集まる各会社が『中古品や修理すれば、まだまだ使用可能な解体してしまうにはもったいない物を必要な方に販売してはどうか?』という思想の元に開かれる催し物です。ウチのように完全に機能停止した物を扱う会社の参加は少ないですが、車両や家電を回収している会社は、かなりの収益を得られるチャンスのようですよ。先程の掲示板にもあったのが、一般開放される前に、再処理施設関係者向けに優先して丸1日自由に見学出来ます」

「へぇ~、それで、開催は2週間後ですか。参加企業は準備間に合わないでしょ?」


「いえいえ、この案内はお客さん向けで、参加募集は数ヶ月前に代表者へ連絡が来てましたよ」

「なるほど。ここの会社だと、売り出せる物というか、需要がどこにあるか分からないから、出店はないでしょうね」


「金属素材を並べられても、困りますよね。以前は、参加したこともあったのですが、芸術家を名乗る人がアンドロイドの頭部外殻を買っていっただけで、ワタシと社長が木漏れ日の中、お茶を飲んで過ごしました」

「ぉぉ、ピクニック気分」

「アケビちゃん、そこは"デート"と言って欲しいな」


「あら、まぁ」

「お二人の関係性、よく分からないので」

「どうかな、今度は、両手に花を携えてのジャンクフェスデート」


「ワタシは空いてますが」

「それでは、仕事に戻ります」

「お、おい」


 アケビは、ジャンクフェスの案内用紙を受け取り、自分の作業台に戻った。ヤンヌが何故ゲーダの誘いに、あっさり答えたのか分からないが、それ以上、関わるのは避けたかった。

 午前中と同様の作業を集中して行なう。多少緊張感のある酸性溶液を扱う作業内容だが、どうにか金膜層を剥がし終え、資材置き棚の下にある酸で腐食しない蓋付き専用ケースに酸性溶液の入った遮光瓶を収めた。その後、疲労と小さな達成感を味わいつつ、よく手を洗った。


 気付けば、終業の時間が近い。何か飲み物を飲みたいが、この後の予定を考えると我慢するか?会社前の通路には飲み物の自動販売機があるが、ここは我慢を選択。自分の作業台に戻り、アンドロイド頭部を分解している素振りを見せ、残り時間を少しずつ道具の片付け、整頓を行なう。残業するほどのノルマや急ぐ内容の業務ではないため、従業員は時間が来れば、大体、即退社する。だから、終業残り5分前になると、申し合わせたように片付けと掃除が加速する。


 そして、終業の音楽が施設内に鳴った。


 アケビは、今日も仕入れた樹脂脳核をカバンに入れ、忘れ物がないか確認し、目立たぬよう他従業員と一緒に会社を出た。社長たちには声をかけられずに済んだ。


「さて、今日はコインランドリーに寄らなきゃ。待ち合わせなんだし」

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