第20話 こっちのほうが大きい
「やっぱ、胸、ないなあ……わたしって」
おいっ!
だいたい、その制服、胸が目立つようにはできてないでしょう、って。
「安心して」
ちょっと強気に出て、言う。
「わたしもないから」
「うん?」
「うんー?」
声をひっくり返している。
わりと軽く言ったことに、圭がわりと険しく反応してきて、
圭は同じ場所に立ったまま、顔だけ突き出してきた。
美聖の胸に向かって。
手を後ろに組んだまま、背を大きく屈めて。
美聖の胸のリボンのすぐ前まで、圭は顔を突き出している。
右へ顔を回して見ている。
左へ顔を回して、飽きずに観察している。
ここに頭を出してくれただけで、こちらも頭の後ろのくるくるくるっと巻いている髪が上から見えて、それはいいのだけど。
ほんとうに、お菓子のようにふわふわで、ほどよくきれいに巻いている。
おいしそう……。
それはそうと。
これって、胸の前十センチを切るところまで顔を突き出して人の胸を眺め回すなんて、セクハラじゃないのか?
いくら同じ学年の女子どうしといっても。
すばやく制汗剤を出して顔のまん中にスプレーしてやりたい衝動に駆られたとき、圭は顔を放した。
放して、ぽかんとした顔をして、美聖の胸の左っ側を、人差し指で差す。
「やっぱり、こっちのほうが大きい」
で、判断を仰ぐように、でも挑戦するように、美聖の顔を見上げる。
「こっちとか言うなぁ」
いら立ったように言ってやる。
圭は、指は引っ込めたものの、目はまだ美聖の胸のリボンの向こう側に向けて、顔を右に傾け、左に傾けしていた。
言ってもこたえないかなぁ。
だいたい、こういうものは、ブラつけてシャツ着た状態で比較しても意味ないのであって、やるなら
いやいや。何を考えてるんだ。
圭は、いきなり表情を変えた。
スマホをぽんっとやって、画面を確認したあと画面を消して、すばやく自分の鞄にしまう。
「さ、そろそろわたしのほうのバス来るね」
「ああ」
もうちょっと、時間はあるけど。
ロープウェイ行きのバスは、ここの一つ手前、
だから、ここのバス停では、駅方向に行くバスが必ず先に来て、そのあとしばらくして、飛丁場停留所で行き違いをやったロープウェイ方向のバスが来る、ということになっている。
圭は自分の鞄を肩に掛けたので、美聖も同じように鞄を持ち上げて肩に掛けた。
たぶん、美聖の鞄のほうが重い。図書室の夏休み枠で借りた本のぶんだけ。
「出ようか」
声をかけたのは美聖だった。
「うん」
圭が答える。
なんだか、いっしょにしばらく暮らした家を出るときのように、名残り惜しく、いとおしかった。
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