第2話 それだけ話す時間だけしか

 校門を出て、左へと下り坂を下っていく。

 坂道のあいだは、道の両側から桜の木が上を覆っていて、しばらくは日の光をよけて歩くことができる。

 美聖は、ようやく、暑さ以外のことを考える余裕ができた。

 「図書館を考える会、かぁ」

 図書室を出る前に美聖みさと久江ひさえ先生と話していたのがその話だった。

 先生に呼び止められ、振り切って暑い外に出るか、それとも先生と話をしてもう少し冷房の効いた図書館内にとどまるかの選択になって、とどまるほうの選択をした結果、出た話がそれだった。

 小堀こぼり市にある五つの高校の生徒が二か月に一度くらい集まって、高校図書館のこれからを議論する会だという。

 「ネットとスマホで、情報を手に入れるのはいくらでもできるし、小説だってスマホで読めてしまうでしょ? そんな時代に、学校の図書館はこれからどうしていけばいいか、生徒自身で知恵を出してほしいという企画なんだよね」

 図書の久江先生は子どもがもう二人もいるという。

 美聖より十歳ぐらい上だという。

 美聖も十年以内にこんなになって、子どもがいたりするようになるのだろうか?

 ぜんぜん想像がつかない。

 その想像がつかない久江先生が、机の上に手を組んで、身を乗り出して言った。

 「早い話が、市の偉い人たちは学校の図書館にこれ以上おカネをかけたくないわけ。でも何もしないで予算だけ減らしました、とか言うと、もっと減らすところはほかにあるだろう、って議会から文句が出るからって、高校生に提案させて、おカネのかからないところだけ実現して、そのかわりに何かおカネのかかるところを減らす。そういう知恵なんだよ」

 「はい……」

 美聖は相づちを打っておいた。

 そういうのを知恵というのかどうかは知らないけど。

 「だから、本は期限までにきちんと返すようにしましょう、みたいな提案ではなくて、もっと攻めの提案をどんどん出すようじゃないといけないんだけど」

 そこで、久江先生は、最初から乗りだしていた上半身を、さらに乗り出した。

 「いまの図書館委員のなかで、そういうのがいちばん得意って言ったら、やっぱり宮野みやのでしょ?」

 「はい?」

 「そういうの」とは何だろう?

 図書館についてよく知っていて、ナイスな提案ができる子?

 実現可能かどうかわからないけど、ともかく攻めの提案ができる子?

 ……後者だな。

 それも誤解だと思うけど。

 「いや、でも一年生ですよ?」

 いちおう、抵抗しておいた。

 「一年生だから何のしがらみもなくいろいろ提案できるんじゃない?」

 先生は目を細めて笑った。何のたくらみもないという笑顔だった。

 だった、のだけど。

 「二学期始まるまでに考えときますけど」

 でも、美聖が断ったら、だれもなり手がいないだろうな。

 一学年二クラスしかない小さい学校だから。

 「うん。じゃあ。あ、暑いから気をつけてね」

 けっきょく、それだけ話す時間だけしか、涼しい時間が稼げなかった。

 「あの先生もなぁ」

 そういえば、久江先生の久江って、名まえだっけ? 苗字だっけ?

 考えたこともなかった。

 考えようと思ったところで、桜並木のトンネルから抜けて、また白い日の光が降り注ぎ、美聖は考える気力を失った。

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