『遅すぎる魔法で世界を制す 〜ディレイ魔法しか持たない俺が最強になるまで〜』

烈風丸

【第1話】スキル鑑定で人生終了!?――最弱スキル《ディレイアクト》

「――スキル鑑定、完了しました。ノヴァ=カイさんのスキルは……《ディレイアクト》、一件のみです」


ギルドの受付嬢が、無表情で淡々と告げた。


ざわ……と空気が揺れる。


後ろに並んでいた冒険者志望の連中が、こっちを見てクスクスと笑い声を上げる。


「ディレイ……アクト? はは、なんだそれ。初めて聞いたぞ」

「まーたハズレスキル持ちか。ご愁傷さま」


ギルドのロビーに響く嘲笑。それは、ここではよくある光景だ。


異世界に転生してきた俺――カイは、いわゆる“スキル鑑定”を受けていた。

それによって、生まれながらに持っているスキルが明らかになる。


チートスキルを持てば英雄。

ハズレスキルなら、ただのゴミ。

――たったそれだけで、人生が決まる。


「ディレイアクト……攻撃魔法を使用した場合、その発動が五秒遅れて発生する性質を持つようです」


受付嬢の説明が、さらに追い打ちをかける。


「つまり、撃ってもすぐには出ないってことか? ……戦闘で使えるわけがない」


ああ、分かってる。

たしかに最悪の相性だ。命をかける戦場で、“遅れて発動する魔法”など使いものにならない。

パーティーの連携を乱すし、単体で戦っても当たらない。

それどころか、味方に被害が出る危険すらある。


(……くそ、これが俺のスタートか)


心の奥底で、かすかな期待が崩れ落ちた。


その日、俺は即席パーティーに混ぜられ、“新米の実地試験”と称した任務に参加することになった。


内容は簡単――森の見回りだ。


「野盗なんか出ねぇよ、ただの形だけの任務さ」

「せいぜいスライムが関の山。まあ、お前は後ろで見てろや《ディレイマン》」


先輩冒険者たちの嘲りを背に受けつつ、俺は黙って頷く。

何も言い返す気はなかった。言葉で信用を得られるとは思っていない。


(……使いようは、きっとある。発動が遅いなら、そこを活かせばいい)


頭の中でシミュレーションを繰り返す。5秒というラグ、それを武器に変えるにはどうすれば――。


だが、そんな思考も束の間だった。


「っ……敵だ、野盗だァッ!!」


森の奥から、叫び声。

数人の男たち――装備もボロだが、明らかに人殺し慣れした連中が、木々の間から飛び出してくる。


即席パーティのメンバーは、あっという間に崩れた。

一人は斬られ、もう一人は悲鳴を上げて逃げる。


俺は、ひとり森に取り残された。


目の前には、ナイフを手にした野盗が一人。ニヤリと笑って俺に向かって歩み寄ってくる。


「……なんだ、坊主。震えてるのか? 大人しく剥いでやるよ」


逃げようと思えば逃げられたかもしれない。でも――俺は、逃げなかった。


(動き……読める)


相手の視線、足の動き、重心。


直感じゃない。これは、現代で培った「観察力」だ。


俺は魔力を練り、足元の地面――“野盗が次に踏み込むだろう位置”に向けて魔法を放つ。


《ファイア・ブラスト――発動》


その瞬間、何も起こらない。


野盗が首をかしげる。だが、俺は動かない。


「何だ今の、魔法か? 外したのか?」


……三秒。

……四秒。


そして、五秒目。


「――ッ!?」


地面が爆ぜた。

野盗の足元で炎が弾け、爆風が男を吹き飛ばす。


「ぐ……がッ……! な、何が……」


「……遅れてくるんだよ、俺の魔法は」


相手が何も知らない状態で仕掛ければ、こうなる。

読んで、仕込んで、待つ。それが俺の戦い方だ。


任務は成功。俺はギルドに帰還した。

他の連中は途中で逃げ出したらしい。

報酬は低かったが、それでもいい。


ロビーでは、また小さな笑い声が聞こえる。


「生きて帰ったのは運が良かったな」

「雑魚相手にビビって帰ってきたんだろ」


言いたい奴には言わせておけ。

どうせ、見えていないんだ――“未来の俺”が。


俺はローブの袖に隠した手を握りしめる。


(次はどう動く?)


誰にも気づかれないように、俺だけが準備している。

「五秒後の勝利」を掴む、その時を。

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