気づいたら、学校一の美少女が俺の隣にいた件

Aqras

青い瞳の美少女との出会い

「きゃっっ」


 時期は4月中旬、学校にも慣れ始めた頃、いつも通り学校が終わり、帰宅しようとしていると、たくさんのプリントを抱えた少女にぶつかってしまった。




 天宮蒼太がぶつかった少女──橘奏は学校で1番人気があると言ってもいいほど、人気のある美少女だった。


 腰まで伸びた白銀色の髪はとても綺麗で美しく、顔立ちも整っていて、肌は透き通るように綺麗で、


 誰もが目に吸い込まれそうな青い瞳をしている。




 この見た目なら人気あるのも当然か、そう思いつつ蒼太は奏に「悪い、大丈夫か?」といい、ぶつかった時にばら撒いてしまったプリントを拾う。拾っていると、「こちらこそすいません、大丈夫です」と奏もいい、プリントを拾い始める。




 プリントを拾い終わると蒼太はプリントの量があまりに多いことに気づいた。


「俺が持つよ」


「ありがたいですが、申し訳ないので…………」


「こっちこそ、ぶつかってしまって申し訳ないから」


「そういうことなら半分お願いします」


「分かった」


 蒼太はプリントを半分受け取り、職員室まで運んだ。




「ありがとうございました」奏は笑顔でそう言った。


 その笑顔に蒼太は一瞬見惚れたが、すぐに正気を取り戻し「あぁ」と言って帰ろうとすると、


 「あの…………この後時間空いてますか?」と恥ずかしそうに奏が聞く


 「空いてるけど?」蒼太は素っ気なくそう答えると


 「最近引っ越して来たばかりでここら辺のこと知らなくて………案内して貰えませんか?」と言われ、断りにくい蒼太は「まぁいいけど、なんで俺? 他の奴なら喜んで引き受けると思うんだけど」と奏に尋ねる。


 「そういう人たちは大抵、下心を持っているので………ですがあなたは私に興味無いでしょう?」奏の言葉に納得し


 「確かにそうかもな」と蒼太は答えた。




 蒼太は何処を案内するか考えつつ、奏と一緒に学校を出た。


 学校を出ると、奏が「そういえばまだ名前言ってませんでしたね……私は橘奏といいます」と可愛らしい声で名乗った。


 いきなりの名乗りに蒼太は驚きつつも「俺は天宮蒼太………短い付き合いだと思うけどよろしく」といい目を逸らした。




 蒼太は歩きながら、どこを案内するか考えていた。 「とりあえず、この辺で必要そうなのは……スーパーとかか?」


「スーパー……はい。場所がわからなくて、少し困ってました」


「この先にそこそこ大きいのがあるよ。何買うんだ?」


「……日用品とか、食材とか……です」


「そっか、家の人に頼まれて?」奏は少しだけ戸惑った様子で答えた。


「……いえ、自分で使うものです。一人暮らしなので」


「へえ、俺と同じだな」


「……え? 天宮くんも?」


「ああ。うちは親の方針ってやつ。高校入ったら一人暮らしさせるって、昔から決まってた」


「教育の一環……ですか?」


「そんなとこ。まぁ、面倒だけど、慣れれば楽だよ」 奏は蒼太を見つめながら、小さく微笑んだ。


「……ちょっと羨ましいかもです。私は、仕方なく、なので……」


「そうなんだ」 蒼太はそれ以上深くは聞かず、そっと話題を切り替えるように歩き出した。




「スーパー、こっちで合ってますか?」 奏が小さく問いかける。蒼太は頷きながら、歩調を少しだけ緩めた。


「うん、もう少し先」


「良かった……すごく静かな道だから、少し不安で」


「住宅街だからな。昼間は人通りあるけど、夕方はわりと静かだよ」


「なるほど……覚えておきます」ふと、蒼太が横目で奏を見た。彼女は道の端を静かに歩きながら、時折建物や看板を目で追っていた。 その仕草は物珍しさと、どこか少し寂しさが混じっているようにも見えた。




「一人暮らしって……自炊とかも全部やってるのか?」 蒼太がそう尋ねると、奏は「はい」と軽く微笑んだ。


「13の頃からなので、もう慣れました。家事は一通りできますよ」


「すげぇな……俺なんてまだ洗濯すら怪しいときあるのに」


「ふふ、最初は私もそうでした。でも慣れればなんとかなりますよ?」


「そういうの、ちゃんとできるのって……偉いと思う」


 その一言に、奏は少し驚いたように蒼太を見つめた。 けれどすぐに、ほんの少し照れたように頬を染めた。


「ありがとうございます。……そう言われたの、久しぶりです」




 そのとき、蒼太がふと前を指差す。


「あれがそのスーパー」


「あ、ほんとだ……ありがとうございます、天宮くん」


「中、入ってみるか? 」


「いいんですか?」


「あぁ、別に予定もないし」


 そう言って二人は並んでスーパーへと入っていく。 自動ドアが開いた瞬間にふわりと広がった、惣菜と焼きたてパンの香りに、奏が小さく「いい匂い……」とつぶやいた。


 蒼太はその言葉に、ふっと笑った。




「パン好きか?」


「はい、朝はパン派なので……この匂い、ちょっと落ち着くんです」


「そっか。ここのパン、意外と評判いいらしいよ。焼きたての時間だと、ちょっとした行列ができることもある」


「そうなんですね……なんだか、急にお腹すいてきちゃいました」 そう言って、奏はパンの棚に視線を向けた。


 クロワッサン、メロンパン、フランスパン……香ばしい香りが一面に広がっている。


「好きなの、買えばいいじゃん」


「えっ……でも、案内してもらってるのに、買い物まで付き合わせるのは……」


「別に構わないし。てか、俺もちょっと腹減ってきたし。俺も何か買う」


「……それなら、少しだけ」 奏は遠慮がちにトングを手に取ると、慎重に焼きたてのクロワッサンをトレイに載せた。


「それ、美味いやつ」


「……天宮くんも、好きなんですか?」


「ああ、何もつけなくても十分いける」


「じゃあ……おそろい、ですね」 ふと漏れたその言葉に、蒼太は少しだけ面食らう。そしてなぜか、ちょっとだけ照れ臭くなった。


「……別に、そういうつもりで言ったわけじゃないけどな」


「ふふ、わかってますよ」 奏は少し笑って、続けてメロンパンを一つ追加する。 ほんの短いやり取りなのに、なぜか空気がほんの少し柔らかくなったように感じられた。




「このあと、他に行きたいとこある?」 蒼太の問いに、奏は少し考えてから、言った。


「……本屋さんって、ありますか?」


「あるよ。ちょっと歩くけど」


「良かった。……もしよかったら、そこも案内してくれますか?」


「仕方ねぇな、ついでだ」ふたりは会計を済ませて、パンの袋を手にスーパーを出る。 あたりは夕焼けに染まり始めていて、二人の影が長く伸びていた。


 その影が、ほんの少し重なっているのに、蒼太はまだ気づいていなかった。


 


 風がやわらかく吹き抜け、袋の中のパンの香りがまたふわりと立ち上る。 夕焼けが校舎の壁を茜色に染め、遠くでカラスの鳴き声が聞こえた。


「さっきのパン、帰ってから食べるんですか?」 奏が袋を覗き込みながら、ふと尋ねる。


「ああ、晩飯まで我慢できなさそうなら、先に食うかも」 蒼太が少し笑って答えると、奏も小さく笑った。


「私はさっきのクロワッサン……帰って紅茶と一緒に食べようかなって思ってます」


「お前、そういうの似合いそうだな。紅茶とか静かな部屋とか」


「そうですか?」


「うん、なんか絵になるっていうか」 蒼太の言葉に、奏は一瞬だけ驚いた顔をしたあと、ふっと目を伏せて微笑んだ。


「……ありがとうございます」 その声は、少しだけ小さく、でもあたたかかった。




「本屋、そっちの通りを抜けた先にある。駅前のほう」


「駅前……まだ行ったことないです」


「じゃあちょうどいいな。少し賑やかだけど、慣れておいた方がいいかもな」


 二人は並んで歩き出す。駅前に近づくにつれて、夕暮れに溶け込むように街灯が灯り始め、人の気配も少しずつ増えていった。




「……本、よく読むのか?」


「はい。小説とか、参考書とか……あと、レシピ本とかも」


「レシピ?」 「一人暮らしなので、参考にできると助かるんです」


「真面目だな」


「そうしないと……ちゃんと生きていけないので」そう言った奏の声はどこか冗談めいていたが、ほんの少しだけ、切実さを帯びていた。




 蒼太は言葉を返さず、それでも一歩だけ歩幅を小さくして、奏と並ぶ距離を保った。やがて本屋の看板が見えてくる。


「ここ」


「……ありがとうございます」


「時間気にしなくていいのか?」


「大丈夫です。……一緒に、入ってくれますか?」


「いいけど、本見るのって結構長くなるぞ」


「平気です。……一人じゃないので」その言葉に、蒼太は一瞬だけ立ち止まり、そしてゆっくりと頷いた。




「じゃあ、付き合ってやるよ。今日だけな」


「ふふ……はい、今日だけ」


 二人は並んで、本屋の扉をくぐった。 外の夕焼けが、ゆっくりと夜の色に変わろうとしていた。




本屋に入ったふたりは、並んで棚を眺めながら、それぞれに気になる本を手に取った。 奏は料理本を、蒼太は参考書をぱらぱらとめくる。 ときどき言葉を交わしながら、穏やかな時間が流れる。 やがて奏が数冊の本を手に取り、満足げに小さく笑った。 「買いたいの、決まりました」 「じゃあ、行くか」 そうしてふたりはレジへ向かい、並んで店を出た。




 本屋を出る頃には、あたりはすっかり夕暮れに染まっていた。並んで歩くふたりの影が、静かに路面に伸びている。


「……そういえば」 奏がふと、思い出したように口を開く。


「天宮くんって、入試……首席だったんですよね?」蒼太はちょっとだけ驚いたような顔をして、首をかしげた。


「なんで知ってる?」


「クラスで噂になってましたよ。入試の成績、掲示されてたらしいですし」


「へぇ、俺は見てないけど」


「……私は、次席だったんです。だから、なんとなく気になってて」


 奏の声はいつもよりほんの少しだけ小さくて、けれど悔しさを滲ませていた。 蒼太はそれを聞いて、ちょっとだけ口角を上げる。


「じゃあ、次は俺に勝つつもり?」


「……もちろんです」 そう言って、奏は真っ直ぐに蒼太を見上げた。 目が合った一瞬、何か火花のようなものがはぜた気がして、蒼太はすぐに視線を逸らす。


「じゃあ……次の中間テスト、楽しみにしてる」


「私も、です」 奏はにっこりと笑った。


 静かな夕暮れの中、少しだけ空気が熱を帯びたような気がした。




「じゃ、そろそろ帰るか」


「はい。……案内、ありがとうございました」


「どういたしまして」


 別れ際、ふたりは軽く手を振った。


 ──次にふたりが並ぶとき、どんな関係になってるだろうか。 そんな予感を、夕焼けが包み込んでいった。

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