第54話 戦い



「私は聖女のセカンドキャリアを充実したものにしたい……と考えていた。でも彼女らのように、第二の人生すら奪われた子たちがいると知って、私も協力することにしたのよ」

 ルーシーはそう言って、オレをにらんでくる。

「あなたはそれでも、聖女システムを維持したいのかしら?」

「聖女システムは……少女たちの夢なんだろ? その実情を知らせれば……」

「情報は封鎖されているし、みんなは煌びやか表の面しかみていない。ブレシド・セインツ学園が攻撃されても、国民はまったくそのことを知らされない。聖女が公言することもできない。そうして情報を操作し、いい面ばかりを見せ、聖女システムは継続していく」

「聖女となった者は酷使され、自分すら失って苦しむが、その犠牲の上で周りの者は潤う……と?」

「話が早いわね。さ、これでも聖女システムをあなたは容認するの?」

「最初から、そんなつもりはない。オレは教師だ。オレが気にしているのは、生徒たちだけ。生徒たちが大人になったとき、幸せを感じるような選択に導く。それが義務の務めだ」

「なら……」

「レイラを誘拐することは、キミたちが目的を達成しようとする以外の、何ものでもない」

「やっぱり、敵対するのね」

「キミたちの行動が生徒たちの意に反し、彼女らを怯えさせているる限り、オレは戦う!」

 ルーシーたちも身構える。戦いの火ぶたが切って落とされようとしていた。


 そのころ、レギーナ姫とプロムは学園を歩く。

「お忙しそうですわね、マット調査官」

「おや? 姫こそ逃げたのではないのですか? 危ないですよ」

「危ない? それを止めに来たのですわ」

「…………」

「反聖女派のマット議員」

 一瞬、虚をつかれたようだが、すぐに笑いながら「これは異なこと。何を仰っているのですか?」

「私を王都へ告げ口したでしょう? あのときから、あなたをお調べしていたのですよ。私がいたら、都合の悪い立場の人ではないか……と。調査報告書を提出しても尚とどまっている。それも不自然でした」

 レギーナ姫は口元を抑え、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

「レギーナ姫も、聖女候補生に攻撃をしておりましたな?」

「私は、自分がなれないのならつぶしてしまえ……と思っていましたわ」

「なら、我々とも……」

「ふふふ……。あのころの私は荒んでおりました。どうせ聖女になれないのなら……と。でも、今は異なりますわ」

 レギーナ姫の目は怒りに燃える。

「私の夢であった、聖女になる道を邪魔しようと、学園に攻撃をしかけるような者を許しませんわ!」


「ゼドさん。私たちも何かできませんの?」

 安全な場所に隠れていたフェリシアがそう、エクセラに訊ねる。

「今は危険だ。こういうときは講師に任せておいた方がいい」

「でも……」

 セフィーも親友のレイラが行方不明で、心配そうに呟く。

「聖女って、みんなを守ることが使命ですよね? 私たちが守られていて、みんなを守れますか?」

 そのとき、一番幼いリーリャが、そんなことをいいだした。

「私たちだって、先生に魔法を教えてもらいました」

「でも、キミたち対人魔法は……」

「人と戦うんじゃなく、人を守る魔法です!」

 二コラもそういって、仲の良いリーリャに同意する。

 多くの聖女候補生たちも同じ気持ちのようだ。

「聖女候補生たちを、危険から遠ざけること。それが学園の方針だ。だからヨーダ先生も、キミたちを私に委ねた」

 ゼド……エクセラは、そう断じる。しかし「でも私は、学園の講師じゃない。キミたちがそうしたい、というのなら、応援しないでもない」

 そういって、にやりと笑った。


 そのころ、オレは苦戦していた。ただ倒すだけなら簡単だ。しかしレイラは向こうに捉えられており、意識を失ったままの彼女を傷つけず、攻撃をかけることはほぼ不可能だ。

 人の意識を操作する魔法は、一斉に相手を従わすことなどできないし、周りの誰かが気付けば、すぐ解除されてしまう。

 一人ずつ倒す必要があるが、連携のとれた攻撃を仕掛けてきて、一人が攻撃されると、それをカバーして他の人間が攻撃してくる間に、ダメージを与えたはずの相手が回復してしまう。

 この世界では白魔法、黒魔法と別れているわけではなく、魔法をつかえる多くの者は両方がつかえる。特に、聖女はその候補生のときから回復魔法を学んでおり、オレも前任のジン・カリベ魔法学講師の手腕に、舌を巻くばかりだ。

 そのとき「先生!」と、声がしたかと思ったら、巨大な雷撃が鳴り響いて、そこに聖女候補生たちが現れた。

 不意の攻撃をうけたことで、ルーシーたちも怯む。恐らく挟み撃ちにされる……と思ったのだろう。

 そのすきに、オレがフェイに火炎弾を命中させ、ユリアとミシェラが走って、レイラを彼女たちの手から救いだすことに成功した。

「聖女候補生たちが、どうして……?」

 ルーシーの呟きに、ライカが「私たちも戦うの。だって、それが聖女になる者の、誰かを守るって務めだから!」と叫ぶ。それに、ルーシーも衝撃をうけていた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る