第52話 音(ロアー)
「ケイトは水をつかいたいのか……。でも、光と合わせるとなると、それだけの魔力もいる。どちらかを時限発動型の、紋章軌道にして……」
コンサートを開始する時の演出、それを魔法も駆使して考える――。
みんな自分で考えた演出を、どう達成するか? それを相談にくるので、オレがアドバイスする。
魔力量も様々だし、紋章軌道で発動するなら詠唱する必要がないので、歌いながらでもつかえるが、詠唱列叙になると言葉にしないといけないので、歌とは同時にできない。
聖女候補生は基本の紋章軌道のみ、学んでいるのだが、優秀、見どころのある子は詠唱列叙まで進んだ生徒もいる。そして極めて稀なケースとして、詠唱軌道しかできない子もいる。
レイラである。
「私はオープニングでは歌わず、演出に専念しようと思っています」
「それがいい。キミの場合、紋章軌道をつかうのが苦手だから、常に詠唱列叙にしないといけない。口元を隠してもよいかもしれない」
オープニングに歌いながら登場する……という演出が封じられている分、レイラも考えているようだ。
演出には口をだせない。あくまでオレができるのは、彼女らが考えるそれを、どうやったら実現できるか? もしくはそれが難しいと教えて、改めて演出を考えさせるといったことだけだ。
「お忙しいようですな」
聖女候補生たちの相談も終わり、ぐったりしているオレに、マット調査官が話しかけてきた。
「教育者としては、嬉しい悲鳴ですよ」
「ほう? 変わったお方だ」
聖女選定委員会にも言われたが、この世界では教育という考え自体が、かなりネガティブにとらえられている。それは聖女候補生ぐらいしかまともに教育すら与えられない、という世界だ。
「マット調査官こそ、事件の調査はどれぐらい進捗しました?」
「ほほほ……。私はこの学園の監視でのこっているだけですよ。調査した事実をまとめ、報告書を上げていますが、まだ議会の方から何も言ってこないのでここにいるだけです」
「そうなんですか? じゃあ、時間がある……と?」
「老人にとって、時間とは意味のないことです。価値のある行動をとりたい。老い先短い者にとっては、そちらが重要なのです。若い彼女たちとは、ちょっと異なる価値観でしょうな」
どうやら暇をもて余し、うろうろしているだけらしい。ルーシー事件は何も解決していないが、調査すべきことは終わったのか? かなり余計な動きをしてきたこともあり、その暇は要警戒でもあった。
今回、課題はグラウンドで行われることとなっていた。それは野外コンサートを意識したもので、派手な演出ができることも重要だ。
今回は、聖女候補生たちも一緒に見学することができ、講師陣もそうだ。さらに聖女選定委員会が七人そろっており、それを評価する立場だ。
最初は、二コラである。順番はくじで決めたらしい。彼女は水の紋章を記した紙をおいておき、噴水のように吹きでる中を、彼女が歌いながら登場する、というオープニングだ。なので、オープニングの曲は明るく、元気がでるものを選択し、軽やかな曲が流れてきた。
時限発動型の紋章で、タイミングが難しく、それは紋章の書き方に工夫を凝らさないといけない。
オレとしては、指導の結果がうまくいくか? の方が気になるので、愉しむというより、心配の方が大きい。
次々とふきだす水に、光があたる。この光は二コラの直接の魔法であるけれど、そこにズレを感じた。
多分、練習が足りなかったようだ。そして登場した二コラも、魔法の行使でかなり疲れが見える形だった。
これでは点数も低そうだけれど、本人としては精一杯やったはずだ。
聖女候補生たちは、次々にオープニングを披露する。リーリャは魔法に長けているので、大きな花火を打ち上げてみせた。アイネスは火花を飛ばして、その中をくぐり抜けて登場する。
それぞれが工夫を凝らすものの、みんなまだまだ……という感じだ。そして、愈々レイラ、ケイト、セフィーをのこすだけとなった。
レイラのことはみんなも注目する。それは詠唱列叙しかつかえない。その制約の中で、聖女確実とされる彼女が一体どんな演出をみせるか?
聖女候補生たちも注目する中、音楽が鳴り始める。みんな「おや?」と思うのは、これまで授業でつかった曲や、聖女がこれまで歌った曲をつかうのが一般的なのに、自作したオリジナル曲だったからだ。
しかも、音に合わせて光がぽうっと灯り、それがランダムに、ステージ上にまるでダンスでも踊るかのように光りつづける。
本人が登場することもなく、光のダンスだけで目を牽くので、みんなも引き込まれていく。
そしてその光の中に、彼女の姿が浮かび上がるところで、オープニングの演出は終わった。つまりこれからへの期待、余韻をのこしたまま……にしたのだ。
音だけにしたのは、詠唱列叙が目立たず、光だけにしたのも、余計な音を入れたくなかったから。とても考えられた演出だった。
みんなが夢のような時間に、思わず時間を忘れていたとき、急に爆発が起きた。
それがふたたび、学園を襲う狼煙、号砲となったのだった。
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