第50話 フェリシア
「困ると、私のところに来るんじゃない!」
アクセラがそう怒るけれど、オレも平謝りしつつ「頼れるのは、アクセラだけなんだよ」
同じ鬼族で、人族とほとんどかかわりをもたない鬼族だけれど、彼女は人族と交易するので、事情にも詳しい。
「ま……、いいけど。聖女選定委員会については、私も過去に調べたことがあるし」
「本当?」
「あそこはヤバい組織なのよ。聖女って、結局は利権の塊だからね。幼い少女たちを売り物にして、お金が稼ぐんだもの。コンサート、サイン会、企業のイメージ戦略にだって聖女はつかえる。そういう利権を、国に代わって一手に引き受けているのが、聖女選定委員会。
私が調べたのも、お金の匂いが強くするからよ」
「誰がかかわっているんだ?」
「お金持ち! それは自分の儲けだけじゃなく、貴族にもちゃんと利益を配分できるお金持ち……ね」
「じゃあ、貴族じゃないんだ?」
「貴族って忙しいし、誰かがこの時期欠けていると、目立つのよ。それは、聖女選定委員会の構成メンバーだと疑われるから……」
フリスタも同じようなことを言っていたと思い出す。
「そうなると、商人?」
「そういうこと。でも、私が調べたけど、メンバーは分からなかったわ。恐らく表向き、聖女で商いをしている企業とは違うところがかかわっているのでしょうね」
「それはどこ?」
「憶測でいいなら。セナートゥス――という組織があってね。ここは普段、議会に陳情をしたい人、組織と、それに協力してくれそうな議員を結びつける仕事をしているの。本来の仕事は議会の運営……私たちの知る世界でいえば、議会の事務局、みたいなものね」
「なるほど、表にでる組織ではなく、かつ政治と民間、両方に目配せする組織という意味では最適だ」
「そう! それで色々と調べたんだけど、本当に正体がよく分からなくて……」
その日は、聖女候補生たちが課題曲に、自らつくった衣装をきて、自ら考えたふりつけで歌う、という重要な日だった。
レイラはセフィーの助けも借り、何とか衣装を間に合わせた。セフィーは貴族の家をでよう……と決めたときから、自分で何でもできるように……と、準備をしていたそうだ。
レイラの衣装づくりが早くすすんでいたのも、セフィーの手伝いあってのこと。セフィーは自分が聖女になることを諦めている分、自分のものをそこそこに、レイラを手伝っていた。
それはきっと、他の子を手伝うと競い合っている分、肩入れとうけとられる。でもレイラなら、聖女になることはほぼ確実だし、何より友人であることも彼女をそうさせたはずだ。
聖女候補生たちは一人ずつ学園の講師、そして聖女選定委員会が居並ぶ前で、壇上に上がって歌い、踊る。
他の聖女候補生をみることはできない。そんな中で、自分の実力だけが試されるのである。
オレも見ていて、みんなの個性が感じられて、少し感動した。うまい、下手は勿論あるけれど、みんな頑張っている……と思えたのだ。
それでも、この中から半分以上が落ちて、一般人にもどる。もう一年近く、ずっと聖女をめざしてきて、その努力が無駄だった……となるのだ。
確かに、クラブ活動で頑張っても、勝ったり、賞をとったりするのはごく一部で、すべての人の努力が報われる……なんて理想に過ぎる。
でも、彼女たちが納得する結末を得られるようにするのが、講師の務めだと改めてオレも思った。
その日、オレはフェリシアの下を訪ねた。彼女はまだ衣装を着たまま、全力を出し尽くして、少し呆けたようにしている。
彼女は幼いころに母親を亡くし、議会に忙しい父親に代わって、領地経営をせざるを得なかった。 妹がそれを代替してくれるようになり、夢だった聖女になろうと決めたのは、暗黙とされる『聖女候補生は十五歳まで』の年齢を超えていた。
「何ですの?」
彼女は疲れ切っているばかりでなく、今は立ち上がる気力すらないようだ。
「キミに確認したいことがある。聖女選定委員会について、だ」
「どうして私に?」
「キミは年齢の壁を超えるとき、聖女選定委員会に頼った……と思うからだ」
「……ふ。先生は鋭いですわね」
「聖女選定委員会は、セナートゥスなのか?」
「……えぇ。セナートゥスは議員とも近いですから、お父様に頼んだのですわ。候補生になれないか? と……。お父様はあまり乗り気ではありませんでしたが、私が聖女になる……というより、聖女候補生として学園に通った……との経験により、箔がつく、と思ったのでしょう。積極的に働きかけていただきましたわ」
「そこは賄賂とか、そういうものが利くのか?」
「どうかしら……? 私の父は、そういうことはしていないと思いますわ。大貴族ですが、それほど家計は楽ではなかったですから……」
領地経営で、自ら財布をにぎっていたフェリシアのいうことなら、間違いなさそうだ。
「何で、レイラの衣装を切ったと思う?」
「私には……。でもきっと、聖女が確実視されるレイラさんだからこそ、試練を与えたのではないかしら?」
恐らく、みんなそう受け止めた。でも、オレはもう一つの可能性を考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます