第16話:土曜日。21時、水属性の彼女と入浴する。(前編)

「ねえ澄香すみかちゃん。本当にこれで入るのお……?」


 脱衣所。


 あたしの講じた策によって、水湊みなとちゃんは泣きそうな声で赤子のようにあたしの方に両腕を伸ばしている。


「うん、転ばないように、あたしの手を握ってて」


「それは嬉しいけど、こんなの生殺しだよお……」


「だって、普通に入ったら水湊みなとちゃんもう満足して真面目に勉強してくれなくなりそうだもん」


「そんなあー……」


 そう。


 水湊ちゃんには、タオルで目隠しをしてもらっている。


 リンパ節フェチの変態と一緒に全裸で入浴するのはあまりにも危険すぎると判断したあたしは、身体の隠れる水着——特にリンパ節が隠れるものがないかを尋ねた。


 そんな都合の良いものないだろうけど……という提案ではあったが、さすがに金持ちの五姉妹、水着だけであたしの私服の何倍もあった。なんで? 毎日プール入ってるの? まあ、あたしの私服が2着しかないからなんだけど。


 しかし、一番布面積の多いワンピース型の水着だとしても、サイズが合わないことが発覚。その話の時に触覚ちゃんがやけに目を見開いてあたしの胸元を見ていた気がするけど気のせいだと信じたい。


 次に、着衣で入るという案も出してみたが、これは提案しただけで水湊ちゃんが「ええ、そんなのいいの!?」と喜んだので却下。たしかに服が肌に張り付いてリンパ節が目立つような気がするし。着た方がいやらしくなるってことがあるんだね……本当に世知辛い。


 ということで、本体であり元凶である、水湊ちゃんの目の方を塞ぐことにしたのだ。


「じゃあ、とりあえずお風呂入ろう。転ばないでね?」


「わたしのおうちのお風呂だからそれは大丈夫だと思うけどお……」


 全裸に目隠しだけした水湊ちゃんの手をとって、お風呂に入っていく。

 

 いや、なんというか。よっぽどこっちの方がやらしいのでは……とは思わないでもないけど、目的は達成出来ている。水湊ちゃんがどんなにやらしくても別にいいのだ。


 お風呂は、さすがにユニットバスのあたしの家よりは全然広い。


 しかし、銭湯の大浴場みたいなものをちょっと想像していたあたしからすると、住宅展示場で見るお風呂より少し大きいくらいに見えた。


「住宅展示場……?」


「あたし、住宅展示場にいくのが趣味なんだよね」


「ふうん……?」


「無料だしね。『勉強がんばれない……』とか、『このお菓子買っちゃおうかな……』とか思った時には行っているんだ。あたし、将来、大企業の社畜になって一軒家を買うのが夢だからさ。住宅展示場に行くのが一番やる気が出るっていうか」


「そうなんだあ……」


「ごめんね、趣味まで貧乏くさくて……意味わかんないよね」


「ううん、澄香ちゃんのそういうのすっごく良いなって思うよ。目標に一生懸命に頑張るって、誰にでも出来ることじゃないもん」


 突然、存外にまっすぐな声音でそんなことを言うものだから、


「そ、そう……?」


 となんだかぎこちなくなってしまう。


「澄香ちゃんのそういうところ、すうっごく好き♡」


「あ、あっそ!」


 うん、人って照れ隠しをしようとするとツンデレになっちゃうものなんだね。


 


 あたしの介助の結果、どうにか2人でお風呂に入る。


 足は伸ばせないけど、二人とも体育座りすれば十分にスペースは確保できている。うちのお風呂に比べれば、快適快適……!


 しばらく人の家のお風呂を堪能していたのだけど。


「あれ、水湊ちゃん、お風呂入って無口になった?」


「……裸になった澄香ちゃんの鼠蹊部そけいぶを想像してる」


「そ、そう……」


 鼠蹊部っていうのは太ももの付け根のことらしい。澄香調べた。


「あああ……綺麗だねえ……澄香ちゃん……」


「想像力、すごいね……」


 むしろ想像の世界で何割増しにもなってる気がする。現実はそんなに良いものじゃないんだぜ?


「……パパッと体洗って出ようか」


 なんか勝手に虚しくなってしまい、


「うん……❤︎」


 あたしは水湊ちゃんの手を引いて、洗い場に上がり、座らせる。


「うわあ……」


 そして度肝を抜かれる。


 水もしたたるいい女というか、濡れていると水湊ちゃんの肌の瑞々みずみずしさというか、あらゆる彫刻にもまさる美しさ——いや、むしろ彫刻には表現できない柔らかさも含めた造形美に目を奪われる。


 あれ、ちょっと待って。


「これ、あたしが洗うんだよね……?」


<あとがき>

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