第076話 攻撃魔法


 森までやってきた俺達は昨日と同様にエアカッターを使い、木を伐採する。

 そして、ミニカッターで枝を落とし、水魔法で乾燥させると、木材の加工に入る。


「以前のポーションは特殊なケースでしたけど、錬金術師って儲かりますねー。こんなに簡単に何十万ゼルもゲットです」


 ウェンディがふよふよと浮きながら感心している。


「すごいだろ」

「すごいです。でも、他の人はやらないんですかね?」

「普通、どっかで働いているからな」

「うーん、フリーの方が儲かりません?」


 儲かってるな。


「そういうものだ。魔術師にしてもどっかで働くより、フリーの方が儲かる」

「そんなものですか……」

「それとこの木材加工の作業はかなりの魔力を使う。エルシィもニーナも錬金術師としては上位の方だ。それでも一つで魔力が付きそうになるくらいだから普通の錬金術師は難しいだろう」


 というか、難しいから高いのだ。

 簡単だったら皆がやるから需要が減って安くなる。


「確かにニーナさんの魔力もそこそこありましたね」

「遠い地に留学してくるくらいだからな。それほど優秀なんだろう」


 カルロもそうだ。


「せんぱーい、1個できましたー」


 エルシィは昨日と同じ小さい方の部材を作り終えたようだ。


「まだいけるか?」

「無理でーす」


 エルシィがギブアップのようなのでエリクサーを渡す。


「やっぱり目立ちませんね」


 エリクサーが入った容器は鉄や銀でコーティングされているので中身がわからない。


「これなら街中でも飲めるな」

「そうですね。いただきまーす」


 エルシィが栓を抜き、エリクサーを飲んだ。


「どうだ?」

「おー! 魔力が完全回復です。それどころか歩いた疲れなんかも消えました。絶好調です!」


 エルシィが拳を握る。


「じゃあ、じゃんじゃんやっていこう」

「はーい」


 俺達はその後も作業を続けていき、木材を加工していく。

 そして、昼になったので昼食を食べ、午後からは森の中の街道に入り、木を切って、ひたすら木材を加工していった。

 俺も途中でエリクサーを飲んだし、エルシィも一つ作るごとに飲んでいく。


「すごい贅沢な使い方だよな」


 本日、何本目かのエリクサーを飲んでいるエルシィを見ながらちょっと呆れる。


「ホントですよね。木材を加工するためにエリクサーを飲んでますって他の人に言ったら怒られそうです」


 実際は大騒ぎになってそれどころじゃないがな。


「レスターさん、エリクサーはあと何本あります?」


 ウェンディが聞いてくる。


「列車の中で結構作ったからな……保険用を合わせると、6本か?」


 エルシィに1本渡しているのだ。

 さすがにそれは飲めない。


「ふむふむ。作っておいたオイルや防腐剤がそろそろ切れそうですし、あと1本ってところですかね?」


 そんなところだろうな。


「だな。時間は……15時か。じゃあ、ラス一やって帰ろう」

「おー!」


 もうひと頑張りだと思い、近くにあった木をエアカッターで切り落とす。

 すると、どしんという大きな音を立てた。


「次は枝か……」


 もう慣れたものだなと思っていると、ウェンディが森の奥の方を見る。


「どうした?」

「魔力を感じます。これは……あ、ウルフですね」


 森から灰色の毛をした狼が街道に出てきた。

 距離は数十メートルと離れているが、俺達のことを見ている。


「あ、ホントだ。あれはウルフですね。狼とほぼ変わりませんが、魔力を持った魔物です」


 魔物か獣かの差は魔力を持っているかどうかだ。

 だからとんでもなくでかい猪も魔力を持ってなかったら分類的には獣なのだ。

 ただそれだけなのだが、何故かはわからないが、魔力を持った魔物はあまり美味しくないらしい。


「こっちを見ているな?」

「多分、木を切り倒した音にびっくりして出てきたんでしょう。どうしましょう? 逃げられる相手ではないので戦う一択ですけど」


 エルシィがそう言って、ウルフに向かって手を掲げた。

 正直、この落ち着き様と度胸はすごいと思う。

 俺なんて前世でも犬が怖かったレベルなのに。


「ウルフの特徴は?」

「狼と一緒です。足が速く、噛みついてきます」


 危ないな。


「エルシィ、ウルフの右の方にぎりぎり当たるか当たらないかくらいで火魔法を放ってくれ」

「わかりました。合図をお願いします」


 エルシィが頷いたのでウルフに向かって手を掲げる。

 すると、ウルフがこちらに向かって駆け出してきた。


「来ましたよー」


 ウェンディがのんきに言う。


「ちょっと待て…………エルシィ!」

「えいっ!」


 エルシィが火魔法を放つと、ワンテンポ遅れて俺もエアカッターを放った。

 すると、火の玉が先にウルフに向かって飛んでいったのだが、ウルフが走りながら左にステップし、簡単に躱してしまう。

 しかし、それは俺の狙い通りであり、直後、左にステップしたウルフが両断され、肉と血の塊になった。


「おみごと!」

「先輩、すごーい!」


 ウェンディとエルシィが拍手をしてくれる。


「エアカッターって本当にすごいな……」


 ウルフが原型を留めていない。

 本当に人に向かって使ってはいけないやつだ。


「まあ、攻撃魔法ですからね。今度、防御魔法も教えましょう」

「頼むわ」


 敵に使われたら怖い。


「先輩、木を収納して、森から離れて作業を始めましょう。ウルフの血の匂いで他の魔物なんかも来るかもしれません」


 確かにその可能性があるな。


「そうするか」


 俺達は倒れている木を借りている魔法のカバンに収納すると、森から距離を取る。

 そして、ある程度距離を取ると、作業を始め、16時すぎには木材の加工を終えたので帰ることにした。

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