第061話 良い奴


 俺達はニーナ親子が戻ってくるまでの間に店に並んでいる商品を見ていく。


「先輩、ポーションがありましたよ」


 エルシィが手招きしてきたので見てみると、確かにポーションが並んでいた。


「通常の回復ポーションが2500ゼルか……」


 ランクはCだ。


「普通ですね」


 ニーナが言っていた通りだ。


「だな。まあ、ポードのようなことは滅多にないだろう」

「ですね。それにもし、そうなっていたとしてもニーナちゃんやカルロ先輩が大量に作るだけですよ」


 それもそうだ。

 あの2人だって俺達と同じところを卒業しているし、ポーションなんか楽に作れる。

 どこかに出かけたりせずに今頃、大儲けしているだろう。


「他のものも普通だな」

「ええ。特段、高騰しているものはなさそうですね」

「そうだな……しかし、ポーションの種類が多いな」


 回復ポーションやキュアポーションなんかもあるが、見たことがないポーションもいくつかある。


「栄養剤って書いてありますね」


 栄養剤?


「船に乗るからか?」

「どういうことです? 船酔いか何かですか?」

「いや、長いこと船に乗っていると、栄養が偏るんだ。それでビタミン不足になり、壊血病というヤバい病気にかかるんだよ。それの予防じゃないかな?」

「へー……先輩、物知りですね」


 全部、前世の知識だけどな。


「お待たせー。あれ? どうしたの?」


 ニーナが戻ってきた。

 親父さんの方も受付に戻っている。


「ポーションが多いなって話」

「ああ、港町だからね。長期航海すると、船乗り病っていう病気にかかっちゃうからそれ予防。他にも船酔いの薬もあるし、ご当地ならではのポーションだね。他の国にもその土地ならではのポーションがあると思うよ」


 へー……


「「おー……」」


 ニーナの説明を聞いたエルシィとウェンディが尊敬のまなざしで見てくる。


「何? またレスター先輩が説明したの? レスター先輩って本当に博識なんですね」


 現代日本ってネットとかもあったし、情報があふれているからなー……

 実はたいしたことじゃなかったりする。


「旅をするからには色々と知ってないとな」


 悪い気はしないし、乗っておこう。


「愛ですね」

「素晴らしいですね」

「えへへ……照れるなー」


 あれ? なんか思ってたのと違う……


「……まあいい。ニーナ、言っていた木材なんかは取り扱ってないのか?」


 この店にはそういったものは置いてない。


「あー、船のやつですか? そういうのは専門店ですね。ウチは浅く広く物を売っている町の総合店なんで取り扱ってないです。あとで知っているお店に案内しましょうか?」


 そういう仕事をするかはまだわからないが、紹介してもらえるのなら紹介してもらうか。

 話を聞いてから決めても良いしな。


「頼むわ」

「わかりました。それでは町を案内しましょう」


 ニーナがそう言って歩き出したので俺達もついていき、店を出た。

 そして、来た道を引き返していき、坂になっている大通りまで戻ってくる。


「またここを上り下りか?」

「まあ、そういう町ですから……最小限になるようにしますね。えーっと、まずはこっちです」


 ニーナが坂をスルーしてそのまままっすぐ歩いていったのでついていく。


「どこから見ても眺めが良いな」


 やはり一面の海だ。


「そういう町ですからね……さて、まずはここです」


 ニーナが立ち止まったのは剣が交差した看板が建物の前だ。


「冒険者ギルドか?」


 この町にもあるんだな。


「はい。まずはここの案内ですね」

「なんでここなんだ? 何かあるのか?」

「え? なんでって……新婚旅行という名の旅をされているんですよね?」


 その枕詞いるかな?


「それが? すまん、まったくわからないんだが、冒険者ギルドが何か関係するのか?」

「えーっと……これまでどこに行ってきたんですか?」

「ランス、ポードだな。それから列車でここに来た」


 長旅だった。


「あー、なるほど……それならわかります」


 よくわからないが、納得したっぽい。


「どういうことだ?」

「えーっとですね、冒険者は何でも屋なんですけど、昔から多くの国で認めている立派な仕事なんです」

「まあ、わからないでもない」


 魔物退治も傭兵も仕事だ。


「冒険者ギルドはそんな冒険者達を管理し、その地位を保証しているんです。だから旅をするなら冒険者になっておいた方が良いですよ。例えばですけど、レスター先輩達はイラド出身じゃないですか? これ、ゲイツに行ったら敵国の人間ということで監視対象になりますよ。もちろん、黙っていればバレませんが、もし、バレた時になんで隠したんだっていうことで投獄コースです。イラドもですけど、ゲイツなんかの国はそういう審査が厳しいですからね」


 イラドとゲイツは仲が悪いし、敵国だからな。

 そういう密偵もいるだろうし、警戒しているのだ。


「ここに来るまでにゲイツを通ったが、駅で弁当を買うくらいで町には入ってないからな……」

「はい。平時であれば通過する列車はスルーでしょう。でも、町に入るには審査が必要です」


 ランスとポードはそもそもそういう審査がなかった。


「ゲイツやイラドの他にもそういう国はあるのか?」

「いくつかはありますよ。それに今は大丈夫でも滞在中に他国と緊張状態になるってこともありえます。そんな時に役に立つのがギルドです。ギルドが身分を保証してくれますので安心です。もちろん、本物の密偵だったらギルドもかばいませんけどね」


 そりゃそうだ。

 ギルドだって国同士のごたごたに巻き込まれたくないだろう。


「お前も持っているのか?」

「はい。私も兄さんもイラドへの留学の際に登録しました。国から出ている許可証もありましたけど、念のためですね。先輩達も持っておいて損はないですよ」


 なるほどな……

 確かにその通りだと思う。

 問題は俺達がイラドのお尋ね者なことだ。


「登録の際に何かいるのか?」

「住民票とかいりますね。もしくは、保証人」


 ないな。


「俺達は孤児だし、保証してくれる人間はいない。それにもうイラドに帰るつもりもないから住民票なんてものはない」

「あー……そうでしたね。では、私が保証人になりましょう」

「いいのか?」


 迷惑がかかってしまうかもしれない。


「たいしたことじゃないです。そもそも冒険者の資格はそこまでシビアじゃないですから。こう言ったら何ですけど、その辺の人にお金を払って保証人を頼む人もいます。住民票だって、大きな町にはありますけど、田舎の農村なんかにはないですしね。ギルド的にもちゃんと管理しているポーズにすぎません。あ、これをギルドで言わないでくださいね」


 詳しいな。


「そんなものか?」

「ええ。ここのギルド職員の友達が飲んだ時にぶっちゃけてました」


 あ、なるほど。


「じゃあ、頼むわ」

「はい。では、さっそく登録に行きましょう。すぐに終わりますので」


 ニーナがそう言ってギルドに入っていったので俺達も続いた。

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