第047話 俺のイメージは子供天使


 俺達はずっと列車に揺られながら南に進んでいる。

 もうポードの王都を出発してから何日も経っており、すでにポードの国境を越え、ゲイツに到着したのだが、王都もスルーし、南部の方まで来ていた。


「暇だな」

「さすがにちょっと飽きてきましたね」


 俺とエルシィは窓に張り付いてずっと楽しそうにしているウェンディを見ながらぼやく。


「楽しいですよ。ほら、見てください。あそこに変な形をした岩があります」


 ウェンディが嬉しそうに窓の外を指差すが、指(手)の先にあるのは普通の岩にしか見えん。


「そう……」

「良かったな」


 まあ、ウェンディはずっと天上にいたわけだし、何を見ても楽しいんだろうな。


「先輩、錬金術の勉強でもしませんか?」

「そうするか」


 俺達は魔法のカバンから持ってきた材料の図鑑や錬金術の本を取り出した。


「真面目なご夫婦ですね……新婚旅行で勉強します?」

「やることないんだよ」

「勉強って言ったけど、錬金術は楽しいからね。新しい発見とかもあるし」


 そうそう。


「そうですか……まあ、それぞれの形があって良いと思いますよ」


 絶対に何日も外の風景を見るよりは楽しいだろと思いながらエルシィと勉強を始めた。


「先輩、エリクサーなんですけど、今、何個あるんですか?」


 一緒に勉強していると、エルシィが聞いてくる。


「あれから作ってないからお前に渡したやつを含めて4個だな」


 1個はイレナに使った。

 後悔はない。


「今後、自分達も含めてですけど、使う時は注意が必要ですね」

「そうだな。イレナに使った時に思ったが、非常に目立つ」


 あの虹色に輝く液体は誰しもの目を引いてしまう。


「イレナさんには使うべきだったと思いますし、今後、自分達に同じようなことが起きた時には使わないといけません」

「そうだな。実はあれからちょっと考えたんだ……」


 列車の中、暇だし。


「何でしょう?」

「目立つのは虹色に輝くことだろ? 知っている奴が見ればエリクサーっていうのが頭に浮かぶと思う」


 こっちの業界ではお世辞にも詳しいとは言えないあの部長ですら知っているくらいには有名なのだ。


「それはそうですね。外では本当に目立つなって思いました。幸い、白昼堂々とイレナさんが刺されたことで周りがパニックになっていたのでエリクサーについてはそこまで騒ぎになっていないんじゃないかなとは思います。虹色よりも赤色の血の方がインパクトがありましたし」


 どうだろ……それが一瞬で治ったからな……

 イレナがハイポーションと言い張ってくれればいいが。

 まあ、頷いていたし、あいつならちゃんと言い張ってくれるか。


「真っ赤だったからな……」


 かなりショッキングな光景だった。

 丸焦げゴブリンなんか目じゃない。


「イラドは私達を狙っています。次は先輩か私か……血に染まる先輩なんて見たくないですよ」


 それは俺もそうだ。

 血に染まるエルシィはもっとない。


「万が一、そうなってもどうにかできるのがエリクサーだ。ウェンディ、確認だが、エリクサーはどんな致命傷でも治せるんだよな?」


 窓の外を見ているウェンディに確認する。


「もちろんですよ。ただ、躊躇なく使ってくださいね。いくらエリクサーでも死者を甦らせることはできません。絶対に死ぬ前に使ってください。死ぬ前ならたとえ、首をはねられてもくっつきます」


 それはエリクサーを使う前に死にそうだけどな。


「わかっている。そのためにお前や神にもらった能力だからな。しかし、まあ、目立つ。そこで俺は考えたんだ」

「何でしょう?」

「どうするんですか?」


 ウェンディとエルシィが興味津々に聞いてくる。


「容器の瓶を塗ればいいんだ」

「おー……なるほどー」

「普通ですね」


 エルシィが感心したように頷いた。

 ウェンディは普通だ。


「目立つのは虹色に輝くことなんだから瓶を塗れば、ただの色付きの瓶に入ったポーションになるわけだ」

「先輩、すごーい! さすがは天才!」


 まあな。


「すごいのもさすがなのも太鼓持ちのあなたですよ……レスターさんがあなたをずっとそばに置いておいた理由がよくわかります」


 ウェンディ、うっさい。


「とにかく、そういうわけで塗るぞ」


 そう言って、備え付けのテーブルに4個のエリクサーを並べた。


「どうやって塗るんですか?」


 ウェンディが聞いてくる。


「絵具なんか持ってないし、余っている鉄鉱石と銀を錬成してコーティングする」


 ウェンディの食器を作った際の余りだ。


「なるほど。コーティングなら少量でいいですしね。ぱぱっとやってしまいましょう」

「そうだな」


 こんなもんはすぐだ。


「天才なのはそういうところだと思うんですけどね……お似合いな夫婦です」


 どうも。


「お前も超かっこいい機械人形に変えてやろうか? ロケットパンチが出るやつ」

「嫌ですよ。私はこのエルシィさん作の人形を気に入っているんです」


 ウェンディはそう言いながら両手を上げてアピールする。

 確かに可愛いと思う。


「ウェンディちゃんがカチカチの機械人形になったら一緒に寝られないし、重そうだから持って歩けないね。特に寝る時が怖い。ウェンディちゃん、たまに寝返りを打って顔に張り付いてくるもん」


 そりゃ危ないわ。


「私じゃなくて先輩の方が良かったですか?」

「もう! 大人をからかわない!」

「私、子供じゃないですけどね」


 ウェンディって何歳なんだろう?

 天使だから年齢の概念が俺達とは違いそうだし、何百年も生きているって言われても信じる。

 いや、そもそも生命体じゃないのかもしれないな。


「ウェンディ、天使って何だ?」

「天使は天使です。逆に聞きますが、人間って何ですか?」


 なるほど。

 わからん。


「それもそうだな。お前の本来の姿はその人形っぽいんだっけ?」

「そうですよ。一度見せてあげたいですね」


 それは別にいいや。

 イメージが崩れそうだし。


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