第037話 ついに……!? ★


 執務室で決済の判を押していると、ノックの音が部屋に響く。


「入れ」


 許可を出すと、大臣が部屋に入ってきた。


「陛下、少しよろしいでしょうか?」

「何だ? 良い報告が来たか?」

「いえ、それはまだです」


 ハァ……使えぬ。


「では、何だ? 余は忙しい」

「これを」


 大臣がこちらにやってきて、デスクに1冊の本を置く。

 手に取って見てみると、旅行雑誌だった。


「何だ? どこかに旅行に行くのか? ランスに行くなら土産はチョコレートでいいぞ」


 疲れた頭を癒してくれるし。


「いえ、私は旅行など行きませぬ」

「では、余に行けと言っているのか? 仕事を全部お前に任せていいなら行ってこよう」

「それは陛下にしかできぬ仕事です」


 判を押すだけだろ。

 誰でもできるわ。


「では、これは何だ?」

「これはエルシィの家にあったものです」


 ふーん……


「別に不思議なことでもあるまい。一応はそこそこの給料をもらっているのだから旅行くらいは行きたいと思うだろうし」

「見ていただきたいのはこのページです」


 大臣が雑誌を開き、とあるページを見せてくる。

 そこはポード王都の観光地が紹介されているページだった。


「ポードだな。ウチとは何の関係もない国だ」

「はい。ここにです」


 大臣が指差したところは王都にあるイルミネーションが綺麗な並木道を紹介されている特集だった。

 そこにはペンで丸が描かれていた。


「女は庶民も貴族も変わらんな。本当にこういうのが好きだ。実にどうでもいい。光るから何だというのだ」

「それは私も同感ですが、ここで大事なのはエルシィがここに行きたがっていたという事実です」


 言いたいことはわかった。


「2人がここにいる可能性があると?」

「はい。逃亡のついでに観光でもしているのではないかと……」


 どこの世界に逃亡しているのに観光を楽しむバカがいるんだ?


「うーん、余は違うと思うな」

「実はもう1つ情報があります。ポードは不作だった小麦の輸入をランスに頼ったようです。それでゲイツが怒り、ゲイツは制裁としてポーションなどの薬の輸出をストップさせたようなのです」


 それは余も聞いている。

 ポードはバカだなーと思った記憶があるのだ。


「それが?」

「ポードは錬金術後進国です。この制裁によりポーションが高騰していると聞いております」


 なるほど。


「錬金術師にとっては儲けるチャンスか。それもエリクサーを作れるならばポードは国賓で迎えるだろうな」

「はい。もし、レスターがこの情報を掴んでいるのならばポードも十分にありえるかと」


 確かにその通りだ。


「ポードにも密偵を送るか」

「はい。ゲイツよりも可能性はあるかと」


 ポードはゲイツの隣国だ。

 ゲイツから密偵を送ればすぐにでも着く。


「よし、ゲイツからポードに密偵を送れ」

「はっ!」


 大臣は頷くと、足早に執務室を出ていった。


「ふう……」


 ようやく臣下から良い献策を聞けたな。

 ようやく悩みの種が1つ取れそうだ。




 ◆◇◆




 列車に揺られていると、12時すぎには王都に到着する。

 俺達は駅を出ると、相変わらず人は多い街中を歩いていき、定食屋で昼食を食べた。


「奢ってもらって悪いな」


 定食屋を出ると、イレナに礼を言う。


「経費よ。今日の宿は朝夕の食事付きだからそこで食べてね。外食の場合は払わないから」

「わかってるよ。それでこれから商会と交渉なんだよな?」

「ええ。1時にクムーラ商会でラック商会はその後ね」


 今は12時40分なのでもうすぐだ。


「ラック商会は何時からだ?」

「特に決まってない。向こうの商会長さんがこの日は商会にいるから何時でもいいってさ」


 こっちに合わせてくれたか。

 まあ、自分達が天秤にかけられていることも知っており、相手より後ならいつでもいいって感じか。


「ふーん……じゃあ、行くか」

「ええ。こっち」


 俺達はイレナの案内で町を歩いていく。

 そして、10分程度歩くと、とある店の前にやってきた。

 店は3階建てであり、広さもかなりある。


「大手だな」

「ええ。クムーラ商会は国の主要な都市に支店を持っている超大手よ」


 それはすごい。


「俺達はどうすればいい?」

「基本は私が話すからポーションのことを聞かれたら答えてちょうだい」

「先に聞く。本命はラック商会で良いな?」


 こういうのは後の方が本命だ。


「ええ。ここでも良いんだけど、ここの商会長さんは上にはへりくだり、下には高圧的な典型的な小物と評判だからあまり取引をしたくない相手なの」


 小物だなー。


「だったら最初からラック商会でいいのでは?」


 ウェンディがイレナに聞く。


「商売で比較は必須よ。ラック商会が本命だけど、ラック商会のちょうどいい対抗馬がここなの。それに悪いことを言ったけど、小物の商会長もお金に対する嗅覚は超が付くほどの一流よ。出す時は出すわ」


 出さない時は出さないわけだ。


「難しいですね」

「人形ちゃんはわからないかもね」


 そいつ、天使だもん。


「イレナ、行くか? 5分前だぞ」

「ええ。行きましょう」


 俺達はイレナを先頭に店に入る。

 店の1階は受付だけのようであり、受付には2人の若い女性が座っていた。

 受付の横には階段があり、そこから賑わっているような声が聞こえている。


「こんにちは。1時から商会長さんと会う約束をしているウラム商店のイレナよ」


 イレナが受付に行き、左の女性に声をかけた。


「イレナ様ですね。話は聞いております。失礼ですが、そちらの御二方は?」


 受付の女性が俺とエルシィを見る。


「今回の商談の協力者よ」

「わかりました。すぐに商会長を呼んできますのであちらの応接室でお待ちいただけますか?」


 受付の女性が左の方にある扉を指差した。


「わかったわ」


 俺達は左の方の部屋にある扉に向かい、中に入った。

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