第41話 目撃
転移魔法で教会施設へと戻された。少し見慣れてきたジャスミンとの共用部屋のベッドに腰掛ける。
「やりますね〜!お嬢さん」
「ここではカロリーナよ」
赤面しつつ答えると、オスカーに笑われた。
「じゃっ!俺は部屋に戻るんで!おやすみなさい〜」
「お、おやすみなさい…」
初めて会った時のオスカーとは別人のようだと呆気に取られている内に、転移魔法で彼は姿を消した。
長く息を吐いて、ベッドに横たわる。硬いマットレスは体が痛くなるが、これくらいで我儘を言っていてはいけない。布団に包まり、明日の朝、どうジャスミンに謝り、説得するか頭を抱える。そのことを考えていると、眠りにつけず、仕方なく身体を起こして窓から外を下すと、人影が見えた。
「あ…!」
しかも、黒いローブを被っている。それを目視した途端、嫌な予感が過ぎった。また、無差別殺傷事件が起きるのではーー。
居ても立っても居られず、部屋を飛び出す。幻術の魔術を使い、カロリーナの姿で外に出た。先程居た場所には、もうあの人物は見当たらない。隠れるようにして、辺りを詮索すると、すぐに該当の人物を見つけた。気づかれないように、そっと背後をつけて歩く。幸い、相手は気がついていない様だ。
その人物は、教会の門をよじ登り、外へ出た。暫くしてから、シャーロットも後を追う。門を降りる際、足が引っかかり、ガシャンと音を立ててしまった。慌てて物陰に隠れ、身を潜める。恐る恐る覗いてみると、目的の人物は気にした様子もなく、先を歩いていく。角を曲がったと同時に、シャーロットは物陰から飛び出した。急いで後を追い、ハッと気がつく。
( 夜勤に気づかれずに、外に出られる人物ってーー。)
「巡回ルートを知っていて、時刻も知っている人といったら、教育係、もしくは、その予定を組んでいる人よね」
ぽそりと呟いて、嫌な予感が胸をよぎる。走って黒いローブの人物を追いかけようとしたその時、パンッと乾いた音が響いた。音の方向へ足を進めると、ローブを着た人物の足元に羽の付いた魔物が横たわっているのが見えた。駆け出そうとして、歩みを止める。今姿を現すと危険だ。だが、今なら誰が犯人なのか突き止められる。葛藤をしつつ、様子を見ていると、物陰から同じローブを着た人物が数人現れた。
犯人は、一人じゃない。
それを知り驚くと共に、響いた声に驚愕した。
「もう辞めましょうよ、こんなこと…!」
ーーその声は、グレイシーだった。
だらんと下ろした手には銃が握られている。
「何を言っている。まだだ。まだ足りない」
「でも…!」
「俺に逆らうつもりか?」
この威圧感のある声は、ドウェインだった。その他の人物は目視でわかった。反共存派の権力者達だ。
「…いえ」
「そうだよな。アレ、ばら撒かれたくないもんな」
「それだけは…!」
「じゃあ大人しく狩りを続けるんだな」
そう言い、皆がこちらへ歩みを進めてくる。急いで教会へと戻るが、夜勤担当に見つかると不味い。様子を伺いながら門をよじ登り、今度は静かに着地した。物陰に隠れつつ、寮へ戻ろうとした時、誰かにぶつかる。冷や汗が背中伝ったが、その人物に勢いよく押された。
「何かあった?」
「いえ、躓いただけです」
ジャスミンの声だ。そのことに気づき、慌てて身を隠す。息を潜め、木の幹から覗いてみると、ジャスミンが教育係の人と歩いているのが見えた。ジャスミンはちらとこちらに視線を向け、左を指差す。この道は安全だと言っていることはわかった。頷いて返し、ジャスミン達がきた廊下を素早く走り抜ける。そこからは誰もおらず、無事部屋まで辿り着けた。
「ジャジーありがとう」
誰もいない部屋で呟く。あれだけ怒っていたのに、また助けてくれた。あとでちゃんと謝ろうと心に誓い、ベッドに腰掛ける。
「それはそうと、あの魔物を助けなきゃ。ルーカス」
「ミー」
黒猫のルーカスが、ベッドの上に現れた。
「ルーカス、魔王様に伝えて。魔物が弱っているの。教会の直ぐ側よ。お願い」
「ミー」
一つ返事をして、また影に消えていく。
どうか助かります様に。そう祈りながら、ベッドに横たわる。胸がドキドキして、落ち着かない。犯人は、複数犯。そして、そこにはグレイシーも含まれていたとは。
「脅されているのは間違いなかったわね。でも、保守派と反共存派が何故手を組んでいるの?それに目的は何?どうして魔物を襲うの?」
このまま、犯人をフェリクスに伝えればこの件は終わりになる。だが、それでは解決にならない。何か、なにか目的があるはずだ。その真相を突き止めるまで、報告はしない。
それに、それではグレイシーが救われない。
頭を回している内に、夜が明けていった。
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