第6話 蓮くん
”カララーン”
「ちわーっ」
お店入り口の自動ドアが開き、黒髪短髪の男の子が入ってくる。
彼は先日の仕事先で偶然出会ったお寺さん子だが、度々、遊びにやってくるようになったのだ。
「手土産」を持って。
「ミツリさーん、いるー?」
声で彼だと分かったので、特に急ぐことも無いかと、私は手元の魔導具をいじる手を休めない。
「この仕組みだったら、せめて肩から掛けないと、持ち運びが不便だよね‥」
私が手にしているのは、ウエストベルトに下げる小型の収納用魔導具だ。
ユーリに頼んで高値で買い取ってもらったのに、如何せん不良品だった。
小さく収納出来るのに重さは変化しないので、入れた分だけドンドン重たくなってしまう。
「そもそも収納庫の筈なのに、沢山入れること前提で作ってないとか有り得ないでしょ‥」
手の平サイズの魔導具を、四方八方から眺めて独り言を呟いてしまう。
「ミーツーリーさんっ。だから、俺来たって!」
元気な中学生男子は声がデカい。
いつの間にか私の隣に来ていた蓮くんが、私の耳元でがなり立てる。
キーンとする耳を押さえながら、蓮くんに「収納魔導具」を差し出す。
「あ、丁度良かったっ!これ、ベルトに吊り下げると結構重たくない?下手したらズボンも下がっちゃうよね‥」
蓮くんが制服を着ていたので、ウエストベルトに魔導具を付けてみる。
よろけるように一歩後退した蓮くんは、焦った表情で、「な、な、」と言い、次の言葉をすぐには繋げずにいる。
「何すんだよ、急に‥」
真顔で、急に声のトーンを落として話す蓮くんは、明らかに恥ずかしがっている。
私だって年齢は15歳だが、同年代の中で育っていないせいか、感覚的に良く分からない。
蓮くんみたいな思春期っぷりは、私の目には新鮮にさえ映る。
ちなみに、蓮くんには、私の本当の年齢は伝えていない。勝手に少し年上くらいに思ってくれているみたいだ。
「ミツリ、蓮くんに絡むのはやめなさい」
いつもは、ウナギの寝床のように長い店舗の1番奥で、長い足を組んで優雅に座っているはずのユーリがやってきた。
「あ、ユーリさんっ!あのさ、すんげーもんあったから、持ってきた!」
日本育ちなのに、日本語力の怪しい蓮くんが、尻尾を振る犬のようにユーリを見て目を輝かせる。
「あのさぁ、これ、この中に入ってる物から、何か出てるんだよ!」
蓮くんは、どうやら念的な力を感じられるらしく、普通の人には見えない物も見えたりするらしい。
そもそも、ユーリの持つ魔力に気づかれてしまったり、隠形魔術を見破られてしまったのが蓮くんという変わった能力を持つ少年を知ったきっかけだしね。
「あー、確かにこれは、魔力を溜め込む物だね」
ユーリは布に包まれた物を取り出し、目線の高さに持ち上げて眺めると、そう言って手の平に乗せた。
「これは、護身具、かな。持っていると攻撃を受けてもダメージが少ない」
ユーリの広い手の平に乗っているのは、薄い青色の宝石をトップに使った、ペンダントだった。
「おそらく、高貴な身分の女性に贈られたものだろうね。この魔石は多くの魔力を溜め込める高価な物だから、これを送った人物は余程の心配性か、独占欲の強い人物だったのだろう」
ユーリが呆れたような顔をしながらペンダントの分析をしていく。
「独占欲が強いと、効果の強い護身具を贈るものなの?」
護身具と独占欲の繋がる意味が分からない。
「あぁ、アクセサリーを付けている人物を強化するからね。圧が強くなって、気の弱い男は簡単にこれを身に付けた女性には近づけなくなるよ。あと、実力行使しようとも、男は弾かれる」
「実力行使?」
「ミツリさん!何んで繰り返してるんですか!もー、ユーリさんも、一応ミツリさん女性なんですから、そういう話はちょっと気まずいですって」
いや、私は全く気まずくは無いのだが、何だろう?このソワソワした感じは。
「思春期だなっ」
私はポンッと手を打ち鳴らし、納得する。
「え?ちょっ、やめてくださいよぉ、恥ずっ」
「ミツリ、しばらく黙ってなさい」
蓮くんが来ると、何かソワソワした感じが楽しいな。
◇ ◇ ◇
「それじゃ、これは私たちがもらってしまって良いのね」
「あぁ、元々の持ち主がさ、『恋愛が上手くいかないのは、この石のせいだ』とか占い師に言われたらしくて。捨てるのも怖いから、どうにかして欲しいって、うちの寺に置いていった奴だから」
蓮くんは「やっぱユーリさんはすごい!当たってた!」とか言いながら、目をキラキラさせている。
ユーリもまんざらではなさそうに、長い銀髪を後ろでくくっているのに、前髪だけ掻き上げて少し照れている。
何だろう?兄貴!みたいな?師弟関係みたいなのが芽生えているのだろうか?
モヤモヤするけど、まぁ、どうでも良いかと思う。
ユーリの不機嫌顔が崩れて、知的なアイスブルーの瞳が輝くのをみるのは好きだ。冷たいのに柔らかくて、見ているとほんわかする。
「あ、このペンダントの石の色って、ユーリさんの目の色にそっくりじゃ無いっすか?」
蓮くんが俺、良いこと気がついたとばかりに叫ぶ。
「あぁ、確かにそうだね。私の瞳の色だ」
ユーリの瞳が怪しく輝くと、持っていたペンダントを私の首元に合わせた。
「ミツリは危険な事ばっかりするから、このペンダントを付けていたらどうだ?」
そう言って、ユーリは私の首元にサッとペンダントを取り付けた。
「えーっ、これって、私、モテなくなるんでしょ?恋愛とかどうでも良いけど、出会いのチャンスも無くなるとか残念過ぎるんだけど」
引っ張って、チェーンを引きちぎろうとする手をユーリが止めにくる。
「石は、ミツリが使っても大丈夫なように、私の魔力を少し流して補充しておいた。夜に出歩くと変な奴らに絡まれるって、文句を言っていただろう」
私が何気なく言った事を覚えていてくれる、ユーリの気配りがムズムズする。
それにユーリの魔力を流したユーリの瞳の色のペンダントとか‥、
「何か、ちょっと気持ち悪っ」
思わず、結論だけが口から出る。
ユーリの綺麗な顔が固まり、いつもは綺麗に上がった口角が恐ろしげに歪む。
「気持ち悪いとか、人に言っちゃ駄目だよ。」
蓮くんの発言はいつも正しいのだ。
◇ ◇ ◇
「ごめん、ユーリっ!そのペンダントを私にくださいっ。大事に使わせていただきますっ」
蓮くん指導のもと、人としての正しさを取り戻した私は珍しくユーリに誤っている。
それで無くとも腐っても王族。
私がぞんざいに扱って良い人ではなかったのだ。
ユーリは気難しいが優しい人だから、今までの無礼は許されてきたと言っても過言ではない。
「ユーリ様っっ!」
「ええいっ、気持ち悪い!今まで通りユーリと呼べ!」
ユーリからも「気持ち悪い」の言葉が飛び出してくる。
「気持ち悪いとか、人に言っちゃダメなんですよ、ユーリ」
ニヤッと笑い、蓮くん受け売りの言葉を使う。
ユーリは再び表情を固まらせ、数秒固まった後に、ニタっと笑った。
今までこんな笑い方をしたユーリを見たことはない。
私は何か地雷を踏んでしまったのだろうか?
ゾクっと背筋が寒くなった時、背後で蓮くんがつぶやいた。
「いい大人がみっともないです。2人とも子供っすか?」
ユーリの怒りを止めてくれたのは、やっぱり正しい蓮くんだった。
◇
蓮くんがユーリの歯止めになってくれている。
彼を仲間にしようと言ったユーリの決断は確かに正しく、私は今、それに救われている。
「さっきは、ミツリに店のトイレ掃除1年間を言い渡そうと思っていた。ミツリが嫌いな仕事だという事は、よく知っているからな」
「それはずるいっ!ユーリだったら清浄魔法で数秒なのに、私がやったら地味に面倒くさいんだよ。分かる?この魔術を使えないもどかしさ。あ、でも魔導具で常に綺麗な状態を保てれば良い、のか?!」
さっきから商談用のソファーに座り、私たちの会話をどうでも良さそうに聞いていた蓮くんが、
「それじゃ俺、帰りますんで。塾の宿題やらないと」
中3の受験生らしく、忙しそうに店を後にする。
「蓮くんっ、今日はありがとう!」
店の入り口まで見送ると、「また来るんでっ」と爽やかに去っていった。
◇
こうやって度々、『がらんどう』にやってくるようになった蓮くんだが、初めに来た時は、制服のジャケットの裏にびっしり「魔除けの札」を貼り付けてやってきた。
「万が一、やばい奴だったら逃げて帰ろうと思ってたんで」
青白い顔をしながらも、ご丁寧にユーリの革靴を紙袋に入れて、シワシワになった『がらんどう』のショップカードを握りしめて立っていた。
丁度、お店にはユーリも居たので、話はあっという間に付いてしまった。
ユーリの予想通り、彼は容易く私たちの協力者になったのだ。
異世界のイシュタニア国の話や、魔術や魔力の事を話すと驚きは隠さなかったが、否定する事はなく、「へー、そうなんすか!凄いっすね」とシンプルな反応だ。
「ーー小さい頃から、生きている人以外が見えたり、周りの人と違うものが見えたから、もしかしたら、こういうことも起こるかもって、ちょっと待ってたんです」
いつもの元気な蓮くんの姿とは違う、複雑な思いを聞いてしまい、今になってユーリが声をかけた理由に気がつく。
「それじゃ、ユーリさんは異世界の魔術師の中の魔術師で、ミツリさんは魔導具のプロ中のプロって訳ですね。そんな人達と出会えるなんて、そういうの俺、ずっと夢でした!」
彼の解釈の単純さも語彙力の無さも、細かいことを考えないところも、全てひっくるめて、きっと才能なのだろう、な。
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