第2話

 

「なんでこんなところで死んでるんだよ!」

 口火を切ったのは、三木だった。

 普段、虫も殺さないような穏やかな教師として認知されている古典教師、46歳。 


 三木の訴えに、時計まわりに三木の横に立つ女子が叫んだ。

「やだ! やだ!」


 D組の伊瀬奈々乃いせななの

 アイドルタレント並みの容姿をした、美少女だ。

 ちょっと低めの鼻に愛嬌があるが、揃えられた前髪から覗く不自然なほど大きな目が、思いのほか鋭い。


「死んでる?」

 次に声を上げたのは、奈々乃の隣に立ちすくむ、B組の駒田冬弥こまだとうや

 奈々乃より、頭二つぶん背が高い。

 サッカー部の練習のたび、キャアキャア騒ぐ女の子たちの王子様。生まれつきの茶髪が、端正な顔によく似合っている。


「どういうことですかね?」

 冷静に言ってのけたのは、冬弥とうやの次に立つ、A組の藤原基ふじわらもとい

 立っているというのに、つま先で器用に貧乏ゆすりをしている、学校始まって以来と言われる秀才だ。


 そしてもといの隣には、彼らを体育館に呼び出した田浦香里奈たうらかりな遠野川奏人とおのがわかなとがいる。

 ちなみに、香里奈かりな奏人かなともD組だ。


 どの顔にも汗が滲んでいた。

 終業式が終わったのは、昨日の午後2時。

 冷房が消されて、およそ29時間が経つ。

 電気が消された体育館は、表の薄闇よりも暗さが増し、三木が手にした懐中電灯が、死体を浮かび上がらせている。


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