第40話:灰の回廊にて
――人は、何度でも“刃”になれる。
でも、あなたは“それ以外”を知っているはずだ。
《灰の回廊》――それは王都アリュゼルの旧貴族街にある、忘れられた回廊。
かつて魔導貴族が密議を交わしていたとされる場所で、今は訪れる者も少ない。
冷たい石壁の中、ミレイユはひとり歩いていた。
イレーヌの同行を断ったが、彼女は言った。
「“従者”としては引き下がります。
でも“友人”としては、勝手についていきますよ」
……結果、すぐ後ろにいる。
ミレイユは内心、少しだけ救われていた。
回廊の中央広間。
魔導式の噴水が崩れ、かつての装飾が灰と埃に塗れている。
そこで、ラセルは待っていた。
「……傷は癒えたか」
「おかげさまで」
ミレイユがそう応じた瞬間、ラセルは刃を抜いた。
だが、振り下ろすのではなく――地に突き立てる。
「戦うつもりはない。
だが、“殺されるつもりもない”。
貴女が選ぶなら、今ここで決着をつけよう」
ミレイユは静かに息を吐く。
「わたくしは……あのとき、貴方を見捨てました。
“効率的でない”という、ただの理由で」
「でも、今のわたくしは、
“効率”より、“後悔しない選択”をしたい」
ラセルの手が刃に触れる。
だが、ミレイユは一歩前に出て、手を差し出した。
「貴方は、“人を殺す技術”だけを教えられた。
でも、わたくしは今、こうして生きて、
“人を守る手段”もあると知った」
「……それを、貴方にも知ってほしい」
ラセルの表情が、わずかに揺れる。
「今さら……そんな道があると思うのか?」
そこで――背後から、イレーヌの声が届く。
「ありますよ。
それは、“一緒に生きてくれる人”がいる限り、何度でも」
ミレイユが振り向くと、イレーヌは歩み寄り、ラセルの前に立った。
「あなたがかつて、どれほどの罪を重ねたとしても――
わたしは、ミレイユが信じる人を信じます」
「だから、どうか“選んで”ください。
人として、生きる道を」
ラセルは黙って、ミレイユとイレーヌを見比べた。
しばらくして、彼は刃を拾い、静かに鞘へ戻した。
「……そんな顔をされてまで、生き残るのは……
正直、性に合わない」
「でも、もしこの手にまだ何かできるなら……
“誰かの刃”ではなく、“誰かの盾”であってもいいかもしれない」
ラセルはその場に跪き、頭を垂れた。
「……仮面を捨てた貴女の“弟子”として、
もう一度、最初から学び直させてください」
ミレイユの瞳に、初めて涙が滲む。
「ようやく……“一人”ではなくなりました」
その後――
ラセルは身元を偽ってエルフリーデ側の協力者として任命され、
形式上は“外交随伴護衛官”という肩書でイレーヌ一行に加わる。
表向きは政治、
だが裏では、かつての仮面を知る“最後の影”が、
ようやく“未来”のために動き出した。
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