第八節「偽物の街、紛いの人間」

足立区竹ノ塚――正午前。


夏の陽射しがジリジリと照りつける中、駅前ロータリーには人々のざわめきがあった。

だがその喧騒の裏で、すでに“静かな侵略”は始まっていた。


「白神、行くぞ!」


一翔の《氷剣アイスブレイド》が空を裂くように閃いた。

対する“擬態者”たちは、明らかに人間とは異なる動きで跳躍し、避けた。


(やはり、反応が早すぎる……あれは人間の筋肉構造じゃない)


紗夜は後方で手をかざし、《封結結界》の初動を詠唱していた。

彼女が言っていた「国家の監査機関」の力は伊達ではない。


「【認識遮断・展開】――一般人にこの戦闘を認識させません」


結界が展開された途端、周囲の通行人の視線がふっと逸れる。

この場に“何もない”かのように、空間が認識外に置かれた。


(これが政府の“秘匿処理”……)


だが感心している暇はなかった。


一体の“擬態者”が猛スピードで突進してくる。

その両腕が、瞬時に刀状へと変形した。


「《氷の盾アイスシールド》!」


瞬間的に展開した氷の障壁が、ジャキンと音を立てて破られる。

だが、その破片すら利用して一翔は跳び下がり、すかさず反撃の体勢に入る。


「《冷却アイシング》、《氷の矢アイスアロー》!」


連射された氷の矢が擬態体の脚部を貫いた。


「ッ……!? 分離して再構築……再生するのか、こいつ!」


「――“影の擬態体(シャドウ・ドッペル)”。高度な同化スキルと再構築能力を持つ魔物。ギルド分類では【特級危険種】よ!」


紗夜の叫びとともに、彼女も手の甲に刻まれた印章を光らせる。


「《神聖結界・断罪の鎖(ジャッジメント・バインド)》!」


純白の鎖が影のごとく伸び、擬態体の動きを封じた。


「今よ、朝比奈さん!」


「――もらったッ!」


《氷剣》が音を立てて、擬態体の首元を裂いた。


スパァンと音を立てて、首が飛んだ。

が、それでも擬態体は止まらない。


(おかしい……こいつ、脳も心臓も関係ない?)


直後、擬態体の体が“靄”のように崩れて消滅した。


残ったのは、黒く染まった“魔石”――だが、普通の魔物とは異なり、

それはどこか人工的な“加工痕”が見えた。


「これは……工業用の魔石か?」


「ええ。“擬態体”は自然発生じゃない。“誰か”が作って、放っている」


「誰が、何のために……?」


「――あなたを試すため、です」


その言葉と同時に、頭上から“落ちてきた”影があった。


「まさか……!」


着地したのは、黒い軍服のようなコートを着た青年。

顔の半分にバイザーをかけ、片手には“刀剣”と呼ぶにはあまりにも異質な、金属の武具。


「初めまして、朝比奈一翔。俺は“ギルド連合・特務部”の狩野拓巳」


その名に、一翔の眉がわずかに動いた。


「……狩野?」


「へえ、聞いたことあるか。光栄だな。――君が“次のキー個体”かもしれないって噂でね。上から“スカウト”しろって命令が来てる」


「スカウト、ね……」


「だがな、俺は“脅してから誘う”主義なんだ。そっちの方が楽しい」


次の瞬間、狩野は地面を裂いて一翔に斬りかかってきた。


「ちょっと待て、なんでいきなり――」


「ギルドは“戦ってみないと評価できない”んだよ! 力のないやつを仲間に入れる気はない!」


彼の一撃は、まるで“魔力を帯びた機械”そのものだった。

まっすぐに、一翔の《氷剣》を押し返す。


(まずい、威力も、剣速も桁違いだ……!)


狩野は嗤った。


「いい目だ。――スキルランクC以上。しかも氷魔法を使いこなす。情報通りだな」


「本気で殺す気かよ……!」


「逆だよ。――君がこの程度で死ぬようなら、そもそも俺の敵にもならないってことだ」


斬撃、斬撃、斬撃。

狩野の剣は“風のように流れ、雷のように鋭い”。


それでも――


(逃げない。逃げられない。これは、今後を決める戦いだ)


一翔は、覚悟を決めて言った。


「だったら、俺の方から言ってやるよ――“お前が敵かどうか、ここで見極める”!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る