14 奇妙な果実

 __ガーランド祭り。


 元々は地元神社を中心に子孫繁栄/商売繁盛を祈願する祭りであり、男性性器を連想させる造形物を神輿で担ぎ街を練り歩く「奇祭」、観光客を呼ぶ「ゆるい祭」でしかなかった。


 だが、観光客が増えていくにつれ祭りは「性的マイノリティが主張する場」として世界的に認識されていき、この数年はジェンダリズムを訴えるデモの場という面が強くなっていった。


 そして3年前、祭りの最中にそれは起った。LGBTの権利を認めないと主張するとある政治団体構成員が2人、3tトラックで祭りの中心部に突っ込み、神を担いでいた人々に向け「銃」を乱射するというテロ事件が発生した。


 死者9名、重軽傷者50名以上という日本の犯罪史上でも最悪な事件の一つとなり世界的ブレイキングニュースとなったそれは、犯行にロシア製ライフル銃が使用されたこともあり様々な反ジェンダー運動組織の関与が疑われた。だが、、



 __結果的には小さな極右的政治団体が潰れただけで、その背景、特に銃の輸入ルートは未だに分からないままでしたね。」


 レコードを棚に仕舞う女性が続ける。宗教的原理主義団体、右翼ポピュリスト団体、それ以外にも幾つかの組織が捜査上に上がったが、全てが藪の中であると。


「今年も実行委員会へ銃弾が複数送り付けられてるし、祭りに反対する暴徒も多数逮捕されてる。藪の中ってレベルじゃない『嫌がらせ』が『テンコ盛り』よ、」

「だからこそ『事前打合せ』が必要なんですよ、」

「そうなんだけど、、どうしても理解できないわ、、


 __LGBTの何がそんなに気に入らないのかしら。」


 自分で性別を選択するのが可能な社会、同性婚を認める社会、それの何が悪いのか?それで子供が激減し社会が崩壊するなんてありえない。寧ろ、性の多様性を認めることで人類は更なる進化を得られるかもしれないのに、、どうして、、


 __どうして、LGBTってだけで神に逆らう存在になるの?」


 愚痴をこぼす江沼は洗面所で化粧落としの作業に入る。男性向け高級化粧ブランドのクレンジングクリームを塗りながら、呟く。


「『巳針名様の桃源郷』、、その幻想に縋る連中が増えるのも仕方ないかもね。」


 皮肉をこぼす江沼は洗顔し、保湿剤を塗っていく。その背を横目に、女性が話す。その『桃源郷』の周辺で色々起こっているようですね、と。


「そうね、、初めは『駆け込み寺』的な場所で世間も寛容的だったけど、最近は周囲に『奇妙な果実』がよくぶら下がってるらしいしわ、」

「アメリカ南部、黒人虐殺が日常的にあった時代の曲ですね、」

「反ジェンダー組織と関連ある団体からの直接的なデモや襲撃もあるらしいわよ、」


 でもそれが却って「イエローエリア」の人口増加を促進していると、ソファに身を沈めた江沼は顔をタオルで隠しながら嘆いた。


「あそこの存在を良く思ってないのは、反ジェンダー組織だけではないのでは?」


 どこか意地悪そうな表情ではあるが、冷淡に子供を咎める母親のような視線で問う。寧ろ、江沼があそこを探っている目的はそっちですよね、と。


 だが、、江沼はタオルの下で無言を貫き、軽く手を振るだけだった。



    ****



「え?今回は撤収っすか?」


 暗闇の中、武装した男が意外そうに話す。ヤロスさんなら絶対突入すると思ってました、と。


「今のままでは危険。全滅するかもよ、」


 答える男は携帯画面のエログロ映像から視線を動かすことなく、頤だけで別な男に説明するよう告げた。


「入口の鉄扉を爆破は可能だと思うっす。ですが、その先が分からないんっす、」

「おい、アンディ、お得意のポジトロン・レーダーはどうした?」


 これで地下も可視化可能。3D映像化できると豪語してただろ?と。


「試しやした。ですが、あの地の殆どが把握できなかったっす。」

「電磁波や素粒子を阻害することなんて、可能なのか?」


 自分の知る限りでは、、と言葉を濁した男はそれだけじゃないと続ける。


「ハシンさん。あの河川を渡るの、相当難しいかもしれないっす、」

「おいおい、対岸まで500mほどだろ?水深も然程だ。一気に走って渡れるだろ?」

「いえ。入口付近50mだけは水深10mほどあるっす。」

「悪戯な落とし穴ってレベルじゃなさそうだな。」

「更にですが、、この河川上流のダム、そこから不自然なほどに巨大な水道管が複数、あの場所に向けて走ってるっす。」

「仮にドアを爆破し通路に入っても大量の水に襲われるってことか、」

「もっとここの防壁情報や突撃ルートを再構築してからじゃないと、、


 __全滅する、か。」


 説明する男の背後、全裸で縛られていた『そいつ』を木の枝からぶら下げ『奇妙な果実』を拵えた男が呟く。そして苛立ちをぶつけるように、出番のなかったサバイバルナイフで果実の股間にあるものを切り落とした。


 滴り落ちる黒い液体を見据え、使えない奴だったな、と呟く。


「ま、今日は無能なホ●野郎を吊るしただけで納得するか、」


 血を雑草で拭った男はホルダーにナイフを仕舞ながら車に向かう。そして、他の男達も続け車へと足を進める。だが一人、この群れの頭、ヤロスだけが、暗闇を蠢く河川と橋にアーチを眺め続けた。


「どうしたんっすか、ヤロスさん。」


 仕事の時以外でエログロ映像から視線を外すなんて珍しいっすね、と。


「・・なんか、似てるんだよ、」

「何がっすか?」

「俺の育ったエネルホダルの臭いに、、ここの空気は似てるんだよ、」

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