第6話 ホットドッグと優しい光
辺りはすっかり暗くなり、乳白色の街灯がぽつぽつと照らす道を、台車がゆっくり進んでいく。
気付けば景色は、街中へと変わっていた。
大きな通りに入っていくと、黒ずんだコンクリートのような外壁の建物が、左右に立ち並ぶ。
建物の窓枠や壁に、色とりどりの植木鉢やリースが飾られ、華やかな雰囲気が漂っている。
よく見ると、花の花弁が四角い。他の植物も見たことのないものばかりで、やはりここは異世界なのだと、改めて実感する。
「(何かお祭りでもあるのかな?)」
そう想像をしながら、周りをキョロキョロと見渡す。
遠くには、背の高いビル群や、銀色のドーム型の建物が見える。黒い空には衝突防止の赤いランプが点滅していて、ここはどうやら、都心の端っこ、といったところだろうか。
ほどなくして、薄汚れた赤と白のひさしの下で、台車は停止した。壁にはカウンターのようなものがある。その左側には、知らない文字が大きく書いてあり、意味も読み方も全く分からなかった。
しかし、文字の上に見慣れたもののイラストが目にとまる。
細長い茶色のパン。そしてパンの上には赤と黄色の波打った線がかかっている。
「(もしかして……これ、ホットドッグ!?)」
姿形も、今までで十分見慣れたホットドッグと、驚くほど似ていた。
この世界でも、まさか知っている食べ物があるなんて!
「ギュルルル……。」
静かだった通りに、不意に大きなお腹の音が響く。
この辺り一帯に聞こえたのでは!?と焦るほどの音量だった。ハッとお腹を抑えて、恥ずかしさで思わずうつむく。
「(お腹の虫が!そういえば、カップ麺食べ損なったし、今日は何も食べてないや……。)」
小さくため息をついていると、後ろから明るい笑い声が聞こえた。
「あらあら。アンドロイドさんも、お腹がなるのねぇ?家に入ったら、すぐに充電してあげますからね。」
「(できれば、食べられるものが欲しいかな…。)」
そう言いながら、おばあちゃんが腕を伸ばしているので、慌てて両手で押し返す。
「大丈夫です。もう自分で歩けます。」
そう、はっきりお断りした。またあんな乱暴に頭をぶつけたくない。
「あら?そうなの?元気になったみたいでよかったわぁ。あなた、結構重かったのよぉ。」
おばあちゃんは手を戻し、ゆっくりと背を向ける。そして壁に取り付けられている、アーチ型のドアを手前に引いた。
リンリン、とドアの上に取り付けられたベルが、明るい音色を響かせた。
開かれたドアの隙間が広がるにつれて、柔らかな光が、暗く無機質な灰色のレンガの道を、照らしていく。
こんな暖かい光を、長い間見ていなかったような気がする。
ぽっと心の中にも、明るい光がともった気がした。台車から立ち上がり、光に向かって歩みを進める。
「お邪魔します。」
そっと会釈をしてドアをくぐる。
老女はしわくちゃな笑顔でまた笑っている。
「あら、律儀なアンドロイドさんねぇ。まるで人間みたい!」
「(私……人間なんですけどねっ!)」
ぎこちなく笑い返して、居間へと通された。
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