神の加護スキル同士が友情コンボを起こして無限ループに突入した件

D野佐浦錠

光と闇の夢幻神争《ラグナロク》 第∞話

 魔獣ベヒーモスとの決戦の地は、ガディウス王国首都の城門からは幾分離れた平原だった。

 勇者アルファは国王から託された聖剣エヴァーハイトを携えている。相棒バディとして同道するのは、白魔道士レイナであった。

「必ず、無事で帰りましょう。魔獣ベヒーモスがいかに強大な敵であったとしても」

 とレイナは決意を込めてアルファに告げる。

「ああ、勿論だ。俺たちは必ず、自らの意志で未来を掴み取ってみせる。神の戦争遊戯の勝手な都合で運命を決められたりなんてしない。⋯⋯生まれてくるお腹の子のためにも、な」

「勇者様⋯⋯」


 夢幻神争ラグナロク

 地上を夜に染め上げて支配せんと眷属を送り続ける闇の神と、人間に加護を与えてそれを止めようとする光の神の戦いである。どれほどの昔から続く戦いなのか、定命の存在に知る者はない。

 神々は、人の身には計り知れないことわりによってか、直接に力を振るうことをせず、眷属の魔物と人間の勇者に加護を与え、互いに闘わせることをもってこの戦いを続けてきた。勇者アルファと魔獣ベヒーモスの決戦は、いわば光の神と闇の神の代理戦争であった。


 平原に、夜そのものを纏ったような巨躯が姿を現す。

 虚ろな瞳に、巨大でありながら靭やかな体躯。底の見えない獰猛さを思わせる唸り声は弔鐘のようだった。


決戦の火蓋が切って落とされた。

魔獣ベヒーモスが、天を裂くような雄叫びを上げた。それに合わせて、魔獣の体躯からおぞましい闇のオーラが噴出し、辺り一面を闇で覆い尽くさんと広がっていく。


「⋯⋯勇者様!」

「ああ、わかっている」

 呼応するように、勇者アルファは聖剣エヴァーハイトを構えた。眩く白い光が、その刀身から迸る。

「国王陛下より賜った聖剣の恩寵、とくと見るが良い!」


 魔獣に備わった闇の神の加護のことは国王より既に聞いていた。雄叫びとともに夜の闇をその身より広げ、その内なる領域ではあらゆる物理的攻撃が無力と化すという。


 これに対抗するために、国王が勇者アルファに授けた伝説の武器こそが、聖剣エヴァーハイトであった。エヴァーハイトは闇の支配を決して許さない。その刀身に編み込まれた光の加護は、闇の訪れを捉えたとき、自ら光を放ってそれを払うのだ。


 加えて、白魔道士レイナの光の神の加護、‘’戦乙女ヴァルキリー‘’が光の力を増幅させていた。ベヒーモスの振り撒いた闇のオーラは、たちまち光の中へと霧散したのである。


 聖剣エヴァーハイトの加護の発動に際し、勇者アルファは人間の持つ限りある魂の力である聖力アニマを消費していた。

 だが、ここで勇者アルファに与えられた光の神の加護が顕現する。‘’聖者の亢進エンカレッジメント‘’。闇の眷属やその一部を討ち果たすたび、聖力アニマを回復する加護である。そしてこの効果も、レイナの‘’戦乙女ヴァルキリー‘’により増幅されていた。勇者アルファの聖力アニマは既に万全の状態にまで回復している。


「今だ、攻めるぞ——」


 そう言いかけた刹那、魔獣ベヒーモスの瞳が赤く輝き、闇の神の第二の加護が解き放たれた。

 ‘’滅儀怒メギド‘’————


「勇者様! これでは!」

「怯むなレイナ! そう来るなら、何度でも消し去ってみせるまで!」

 再び、聖剣エヴァーハイトが光を放ち、闇のオーラを霧散させる。勇者アルファは聖力アニマを回復し、その回復に反応したベヒーモスが更なる闇のオーラを噴出、それに反応した聖剣エヴァーハイトがまた光を放ち——


「ゆ、勇者様、何か様子がおかしいです!」

「これは⋯⋯何が起こっているんだ——」

 光と闇の激突が、幾度となく同じ道筋を循環して繰り返されている。勇者と魔獣は、剣と肉体をもって戦うこともままならず、聖なる光と闇のオーラが放たれては消えていくのをただ眺めることしかできなかった——


 どれほどの時間が経ったことだろうか。繰り返される光と闇の生成と消滅で、今が昼なのか夜なのかもわからない有り様だった。聖剣エヴァーハイトは尽きることのない聖力アニマで何度でも聖なる光を迸らせ、魔獣ベヒーモスは虚空より来たる闇の力で何度払われようとも闇のオーラを放ち続ける。


 魔獣ベヒーモスもまた、事の顛末に混乱しているようで、赤い瞳を潤ませながら、ときどき勇者の方を懇願するように見つめては「クーン、クーン」と子犬のような声を漏らしていた。

「お、お前⋯⋯そんな目で俺を見るんじゃないっ!」


 この循環が永劫に続くかと思われたそのとき、天からの声が響き渡った。




「ジャッジー」




 それは紛れもなく神の声であった。

 しかし、神性に満ちた荘厳さというよりは、どこか間の抜けた——


「か、神の声⋯⋯? これが、私たちの光の神の声だと仰るのですか⋯⋯?」


 地上の困惑など意に介さず、神の声は続ける。



「これ、盤面がこういう状況なんですけど、誘発スキルの効果がループに入っちゃってるみたいでぇ⋯⋯、この場合ってどうすれば良いですかね?」



 暫時あって、天から別の声が告げた。



「これはプレイヤーに選択権のなく、停止不可能な無限ループですね。このゲームは引き分けとして処理し、次のゲームにて決着をつけてください」



 続けて、更に別の声が重なる。



「そういうことですかー。仕方ないですね。じゃ、次のゲーム行きましょうか」



 尚も光と闇が狂騒的に交錯し続ける地上で、勇者アルファ、白魔道士レイナ、魔獣ベヒーモスは事態の理解が追い付かず茫然としていた。

「な、な、何を⋯⋯神は一体、何を仰っていたのですか⋯⋯。ひ、引き分けとして『処理』とは⋯⋯? それが、私たちの信じた神の裁きであると⋯⋯そんな!」

「ゲーム⋯⋯俺たちが命を懸けたこの戦いは、神の戦争遊戯⋯⋯『次のゲーム』だと⋯⋯⋯⋯ふざけるな!」

 勇者アルファは、全身を震わせながら叫んだ。それは怒りであったか、慟哭であったか。

「じゃあ俺たちは、これからこの世界でどうやって生きていけば良いんだ!」


 光と闇は互いに生成と消滅を繰り返し続け、勇者の叫びに天からの声が応えることは二度となかった。





 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■

裁定:【聖剣エヴァーハイト】を装備した【勇者アルファ】が【白魔道士レイナ】を相棒バディとした状態で【魔獣ベヒーモス】との戦闘に入った場合、プレイヤーに選択権のなく停止不可能な無限ループが発生します。この場合、当該ゲームを引き分けとして処理し、次のゲームに進んでください。


これからも、トレーディング・カード・ゲーム「光と闇の夢幻神争ラグナロク」をよろしくお願いいたします。


光と闇の夢幻神争ラグナロク 運営局

□■□■□■□■□■□■□■□■□■




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る