あくまでてんし

星々世々

第一話 日常

第一印象は、絹のような天使ひと



「…様。…年間、お疲れ様でした。天界より、お迎えにあがりました」



マニュアルの言葉なはずなのに、柔らかい含みを持った綺麗な響き。


透き通るような艶のある髪と、少し濡れた長いまつ毛。


そして、光を放っているかのような神々しい翼。


制服も、肌も、爪の先まで、透き通るような美しい白。



見目だけではない。所作や言葉遣い、死者たびびとへの配慮。

人生を終えた魂を、誰よりも丁寧に導く姿。


俺がこの職に就くのを決めた、憧れのひと







…だったはずなのに






毎朝必ず、入室前に受付で確認をする。




「おはようございます。あいつ、もう来てます?」


「おはよー、セヴァくん。ルーカスくんはまだだよー


セヴァくん今日もキマってんねー、

どうせ制服に着替えるのにいつもおしゃれだよねー」



遠回しのイヤミなのか、尊敬なのか。



苦笑しながらアクセサリーを外していく。


勤務開始ですぐ制服に着替えるので、先に外して預けておくのだ。


「新しいピアスー?かわいいじゃん」

「ありがとうございます」


多分尊敬だな。


トレイに並べたアクセサリーを俺用のミニロッカーに入れてくれる。

気だるいギャル、事務員のユルさん。伸ばし棒が多い、気さくないいひと。


「あ、やば。

ルーカスくんに「最初に僕が気づきたかった!攻撃」されちゃうじゃーん。

黙っといてね。」


「…はい。」





駅から徒歩10分。都心離れた広い街にしては、そこそこ好立地。

だだっ広い庭園。「現代」を隠すための神殿と噴水を抜けた先。

高さが出せないから、二階建てでドーナツ型の、変な建物。

「天界省 案内課 日本支部」



俺の職場。




2階について、エレベーターの扉の先。今日も今日とて見慣れたカオス。

「おはようございます」


「おはよう♡(セクシーヴォイス)」

「あぅー(赤子)」

「おはよ!(ロリボイス)」

「おう(治安悪め)」

「おはようございます(爽やかイケボ)」

(その他無言の夜勤上がりの皆さん。会釈してくれる。)


部署ごとの部屋より手前に、カフェテリアがある。


「現在勤務中のものは、次の案件のための発声練習がてらそのキャラっぽく挨拶をする」


そんなやべぇ義務がある。よってこのカオスを毎日浴びる。


「正統派組」

の扉を開けて、近隣の席の皆さんに挨拶をする。



「おはようございます、ソルト、レナ先輩。」


「おはよう、朝からげっそりしてるね。これからもっとすることになるのに」


「先輩、普通あんなあいさつ浴びたらそうなるもんすよ。な?セヴァ。」


「うん。うちの部署は落ち着いて居られます。

配属先が「コスプレ組」じゃなくてほんとよかった。」


「まあまあ、そんな言ってやんなよ。

あの人らがいないと困るのこっちだし。

ね、先輩、 ってうわっめっちゃニヤニヤしてる」



「セヴァくん。平穏クラッシャーのお出ましだよ」


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