私にとっては大きな秘密(2)
小学校が違った瑞紀とは、中学二年のときに初めて同じクラスになった。
クラスの男子たちが、美少女がいると言って騒いでいたのをよく覚えている。
カズはそんな中でも最初は全く興味なさげだったくせに、同じ委員会というだけでその美少女と急速に仲良くなっていた。しかも、どう見ても武藤瑞紀のことを意識している様子で。
当時の私はそれを見てすごく焦った。
だから、幼なじみをたぶらかす悪女を牽制してやる……ぐらいの気持ちで、私は瑞紀に声を掛けたのだ。
「そしたら瑞紀、めちゃくちゃ面白い子だし、何だか波長が合っていつの間にか大好きになってた。きっかけがどうであれそれは本当。──でも正直、それは瑞紀がカズのこと全く恋愛対象として見てなかったから仲良くなれたって部分もあったかもしれない」
これを言ったのは初めてだった。
昨日、一つ上のお兄ちゃんに「誰にだって知られたくないことぐらいあるから、何でもかんでも知りたがるのはよくない」と注意されて、私はすぐにこのことが頭に浮かんだ。
瑞紀が隠していた秘密とは比べ物にならないぐらい、しょぼくて薄汚くて格好悪い秘密だ。
それでも、私にとっては隠しておきたかった大きな秘密。
私は、憧れの先輩の真似をして、明るく人懐っこい人間みたいに振る舞っている。
だけど本当は、ただの性格の悪い打算的な人間なのだ。
「瑞紀が天羽恭のこと好きだってはっきり言ってくれて……カズが失恋して、本当は安心してる。形だけでもカズのこと応援したらそのうち気持ちが消えるかもとか思ってたけど、全然だめだったのっ!」
「真緒……」
カズの言葉が怖くてぎゅっと目を瞑る。
あーあ。
勇気を出して昔のことを話してくれた瑞紀に触発されて、全部言っちゃったな。
「お前それ、……オレのこと、幼なじみとか友達としてじゃなくて、男として好きだって言ってるように聞こえんだけど」
「だからさっきからそう言ってるじゃん馬鹿!!」
「だ、だよな……。いや、予想外すぎて……」
本当に全く気付かれてなかったんだな。
なんか……悔しい。
「っ!」
私はぐいっとカズの腕を引っ張った。
カズは結構背が高い。私が小柄だから余計に身長差がある。
だからこうして屈ませて、頬っぺたにキスをした。
「なっ! 真緒!?」
「ただの幼なじみはこんなことしないと思うけど!」
カズの顔がみるみるうちに真っ赤になっていく。
そうだよこれだよ。私はカズにこういう顔をさせたかったんだ、ずっと。
「ランドセル背負って一緒に登校してたときから、私にとってカズは特別な男の子だったんだよ?」
「あ、ああ……」
「さすがにもう、本気なんだってわかったでしょ?」
いひひ……と笑えば、カズはこの空気に耐えかねたように目をそらした。
それからボソッと言う。
「さすがにこのタイミングでお前と付き合うってのは……すぐには考えられねえけど……」
「うん」
「ちゃんと、茶化さず本気で向き合うって、約束する……ってことでいいか?」
「へへ、わかった。それでいーよ!」
こんなに長いこと、意識されずにいたんだ。
それを思えば、カズが気持ちを整理する時間なんてほんの一瞬だ。
「……ま、本当のこと言えば、ここであっさり私と付き合うとか言いだしたら今の告白は取り消すつもりだったけどね!」
「は?」
「だってそうじゃん。私が好きなのは、どれだけ相手にされなくても一途に瑞紀を想ってるようなカズであって、付き合えそうならさっさと他の女に乗り換えるような軽い男じゃないもん」
「……お前、面倒くさいな」
おっしゃる通り。
実は私、性格悪くて子どもっぽくて面倒くさい。
でも……。
「それが高森真緒だって知ってるでしょ、幼なじみの清水数馬くん」
「ああ。めちゃくちゃよく知ってるよ」
満足のいく答えに、私はにこりと満面の笑みを浮かべる。
日が傾きかけて長くなった影を眺めながら、私たちはまた家の方へ歩き始めた。
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