第8話 今ではなく未来
どれだけの本を読んだだろう。月日がたち
桜の花びらがヒラヒラと落ちては地面を綺麗なピンク色のじゅうたんが出来ていた。
私は本好きの中学生になった。
いつも通う図書館の職員さんに光さんと私と仲良しのタキエさんというおばあちゃんがいつもいる。
タキエさんは光さんから私の家の状況を聞いているみたいで私を気にかけてくれていた。
光さんがタキエさんを紹介してくれた。
「美音、私がこの図書館でよくしてもらっているタキエさん。
私がいない時に、なにか困った事があったら、タキエさんに相談するといいわよ。」
タキエさんは私の身長に背を合わせ
「美音ちゃん、なんでも図書館の事なら私に
聞いてね。」
とニコリと笑ってくれた。
私は光さんと聡さん以外はまだまだ誰にも、心を許せないでいた。
私はぺこりとお辞儀をしたが、一文字の口になり言葉が出てこなかった。
そんな私にタキエさんは何度も笑顔で笑いかけてくれた。
タキエさんは私と話したそうだが、図書館はあまり話せないのでなかなか私とタキエさんの距離はちじまらない日が何日も続いた。
タキエさんが本の整理をしていた時、私も本を探していた。
タキエさんが
「今日も来てくれたのね。ありがとう。」
と笑って言ってくれたので、私もニコリと笑い返したその時、私のお腹が
「グー」
となった。私はタキエさんに聞こえたかな?
タキエさんの顔を覗き込んだ。
タキエさんは
「ちょっと待っててってね。」
と図書館の奥に行った。
私は訳が分からなかったけど、その場で待っていた。すると、タキエさんが私のポケットに何かをいれてくれた。私はポケットを見ると、
袋に入った小さなクッキーと飴玉が入っていた。
「図書館は飲食禁止だから、家に帰ってから食べてね。」
と小声で言われた。私は
「ありがとう。」
とお礼を言うと、タキエさんは
「はじめて私に喋ってくれたね。こちらこそありがとう。」
なぜか、私の方がお礼を言われた。
その日から私とタキエさんの距離は少し近くなった。
食べ物でなびいてしまうなんで
私もかんたんな人だと思った。
でも、それだけではない何かがタキエさんにはあった。
私がタキエさんの前に引いていた、
壁が一気になくなったのを感じだ。
少しのきっかけで、他人との距離が近くなるんだと思った。
あの時お腹が鳴って、恥ずかしかったが、あの、お腹の音のおかげでタキエさんと仲良くなれたので、私のお腹に今は感謝している。
タキエさんは私のポケットにお菓子を入れてくれるようになった。
タキエさんも私がお菓子をもらって、喜んだのがとても嬉しかったようだ。
でも、この前、光さんに見つかりタキエさんはお菓子ばかりあげないでと注意されていた、私は胃袋が小さくあまり多くの量を食べきれない。お菓子を食べたら、ごはんの量があまり入らなくなるのだ。でも、タキエさんはお構いなしに
「光さんに内緒だよ。」
と、こっそりポッケにお菓子を入れてくれる。
私達はいつもお菓子の受け渡しの時、犯罪者の様にニヤッと笑い合う。
図書館で毎日、勉強や本を読んでいたおかけで私は学年で常にトップにいた。
家にご飯がある日は、学校に行くのが、ばからしくなっていた。
学校で勉強するのではなく図書館で勉強している方が効率がよかった。
でも学校へ行きたくない理由はもう一つあった。
いつも一人で過ごしていたのに、一人でいる私も気にいらないのか、私の悪口を聞こえるように言ってくるクラスの女の子達がいるからだ。
私の家はテレビがない。テレビは百歩ゆずっていいがスマホを皆が持ち始めている時に持っていないし、ママはスマホを私に絶対に見せてはくれない、周りの人がユーチューブの話をしていると私には宇宙語に聞こえた。
一人の女の子が私に話しかけてきた。
「あなたの家って貧乏なんでしょ?あなたのお母さんもいつも遊び周ってばかりで、近所の人も迷惑しているって!
しかもあなた、スマホもテレビもないんでしょ。クラスで暗い顔していられても迷惑なだけなんですけど!」
とわざと皆に聞こえるように言われてからクラスで浮いた存在になった。
私のアパートの人の知り合いからうちの家の噂を聞いたみたいだ。
クラスの人にはなにも迷惑かけていないのに私が居ることが迷惑になるのかと、その日は下を向いて過ごした。
そして私は学校に行くのを辞めた。
ママは学校に行かない私を責めたりはしない、
「ママも学校をよくサボってた。懐かしいなぁ!
あんなとこ行きたくなかったら、行かなくていい
私も仕事行きたくないなぁ!行かなくてもお金もらえたらいいのに!」
と愚痴をいいながら、仕事に行った。
ママから学校に行かない事を怒られる事はないので、
私は自由だと思った。
私がいつものように学校に行かないで図書館で勉強していると、
恐い顔をした
光さんが仁王立ちで立っていた。
私は青ざめた。
なぜかと言うと、光さんは私にも厳しくなっていた。
はじめは優しい光さんだったが、仲良くなるにつれて親子の様に私が悪い事をしていたらそれは間違っていると長い理論づけたお説教を聞かされる。
なぜ、それをしたらいけないのか、今後どのようにすればいいのか、それを長々と聞かされて、美音はどうしたいのかを言わされるのだ。
なので、光さんだけには、ばれたくなかった。なぜかと言うと、私はいまだに、自分の意見を言うのが苦手だからだ。
いつも、私の学校が終わる時間に合わせて図書館におにぎりを持って来てくれるから、こんな時間に光さんが来るとは思ってもいなかった。なんでわかったのだろうと不思議に思ったが、タキエさんの仕業だとすぐに分かった。
光さんもタキエさんとつながっている事を私は忘れていた。
タキエさんに細めで睨んだがタキエさんはゆっくり顔をそむけて
私はなにも言っていない
とうい様子で仕事をしだした。
光さんから
「ちょっとキナ。」
とまるで不良の人が呼び出しでもするような
恐い声で図書館から連れ出され、いつものベンチでゆっくり話すことになった。
光さんには勝てる気がしないので私はすぐに、
「ごめんなさい。」
私はベンチから立って頭を下げて謝っり
心で白旗を振った。
「訳をきこうじゃないか。」
不良のリーダーが情けをかけてくれている様な気がして、ここは全てを正直に話さないと大変な事になると思った。
私は学校の授業を受けるより自主勉強したい事、
学校で私の存在が迷惑な事、
学校であった出来事を包み隠さず話した。
光さんは今度は私ではなく、言いがかりをつけてきた女の子達の事をまた湯気をだしながら、怒りだした。
そして、深呼吸すると、
優しい光さんに戻り
「美音の気持ちも知らないで怒ってごめんなさい。」
今度は光さんがベンチから立って頭を下げた。
ペンギンがかわいくお辞儀をしているように見えた。
さっきとは一変、少し私が有利になった。
光さんはベンチに座り、今度は私の目をみて話し出した。
「でもね。美音、学校はね。勉強する為だけに行く所ではないのよ。
学校はいろいろな事を教えてくれる場所なの。
家族や支えてくれている人ではない人と、どう向き合うかも学ばなくてはいけない大切な事なの。
嫌な事があったとき逃げる事は簡単だけど、それじゃ、出会った日と変わらない、
私ならそんな事言われたら百倍返しするけど、美音は優しいからそれじゃなくて・・・。
そうだなぁ・・・。」
光さんは言葉を考えて言った。
「私も学生の頃勉強ばかりしているからクラスで浮いていた事があるの。
でも私には夢があったからそのためには勉強が必要だった。
母親も友達と遊ぶのを嫌うし、友達なんていらない、いたほうが勉強のじゃまだと思っていたの。
でもね。そんなある日、隣の席になった子が私に話しかけてきてね。
話しているうちに、私と一緒でその子も夢を持っていてね。お互いその夢を実現しようってなって、自然と仲良くなってね。
その子といるとね。一人より二人の方がこんなに頑張れるんだってその時に分かったの。
美音、クラスの皆が美音の存在を迷惑って思っているって言うけど、ほんとにそう。よく目を開けてみたら美音の考えを聞いてくれる子や先生が一人でも見つけられるかもよ。
慌てないであなた自身が心を開いて歩んでいくといいかもよ。
だってあなたが心を閉じているとほかの人が入りにくいじゃない。
逃げたり待ったりしないで何事も立ち向かっていかないと。」
私はうなずいて聞いていたが、心では私は光さんみたいに強くはないし、
人から好かれるタイプでもない。
光さんと一緒にしないで、
と思った。
こんなことを言っても光さんに論破されるだけたから
この事だけは言えなかった。
私は一文字に口を閉じだ。
私は悪くない!自分の家の事、学校、友達、学習内容、いろいろな事が恵まれている皆とは違う!
私は心の中で自分を正当化した。
「美音はこれからどうしたいの?」
と案の定光さんが聞いてきた。
私はどうしたかではなく言い訳をする為に口を開いた。
「最初はね。一日だけ休もうと思ったの・・・。」
私は悪くない。そう心に言い聞かせた。
光さんは優しく言った。
「学校に行かないって決めた最初の日はなんだか、迷ったり、申し訳ない気持ちになるでしょ。でも一回が二回に、三回に・・・。と続けて行くと、行かない事になれてしまって、あの罪悪感がだんだん薄れて行く事ってあると思うの、
でもふとしたきっかけで、学校行くと違う環境が待っていると思うのね。
学校に期待するのではなくて、美音自身が大人になるために行くって決めてみるのも一つの考えだと思うの、無理に行きなさいとはいわないけど、
今日話した事がきっけになって、美音の学校に行く一歩の手伝いになれたら、それは私にとって嬉しい事だから。」
光さんの気持ちが私の為に言葉を選んで言ってくれていることが私には分かった。
光さんは強い人ではなく、強くなるために、
頑張ってきた人なんだと思った。
私は光さんの質問に
「私、学校に行ってみようかな?」
私の心は少しゆらゆらしていた。
光さんは
「人生に勇気を出して一歩を踏み出せた時の一歩は未来の糧になるからね。」
未来か・・・。未来という言葉が私にもあるのだろうか?考えもしなかった。未来と言う言葉を私はかみしめていた。
私も奥底に閉まったいた
言葉が自然と出てきた。
「光さん。私学校に行きたい。
ほんとはね。私ずっと、学校に行きたかった。」
光さんの目には薄ら涙が滲んでいた。
「美音の本当の気持ちを言ってくれてありがとう。美音!自分に負けるな!」
私の目にも薄ら涙が滲んでいた。
光は聡に今日の美音の出来事を聡に話した。
「仕事となるとずっと、考えて、考えて、答えを出すから、自信もってこうだと言い切れるけど、美音の事になると、自分の答えが正解だっただろうかと、迷ってしまう。あの子の力になりたいのに、これじゃ、私の親と変わらない。」
光は珍しく落ち込んでいた。
「それは、僕も同じだよ。美音ちゃんに、苦労させたくない、幸せになって欲しいって、思えば思うほど、自分の答えが正解だったのか、言った後に悩む事があるよ。」
「本当の母親なら、気兼ねなしにもっと、話せたのかな?」
「世間の親も僕たちも変わらないよ。きっと
親も子供と一緒で子育ては初心者で、正解は子供が一生を終えた時、
この世界は幸せだったなぁと思えたかどうかだと思う。
そんなこと今は分からないから、一緒に悩んで、考えて、寄り添う事が一番大切なのだと思う。
僕たちなりの美音ちゃんの幸せを考えて行こう。
だから、今日光さんは、美音ちゃんの為に愛情を持って話したのなら、それは正解なんだよ。」
「ありがとう。なんだか、元気出てきた。
明日は美音を呼んで美味しいものを食べさせてあげようっと!」
「じゃ、僕も美音ちゃんに会えるね。」
聡は微笑んだ。
次の日は休みだったので、光さんが家に遊びにおいでと誘われた。
私は光さんの家に行く事にした。
光さんは煌びやかな箱から小さなチョコレートを取り出し、お皿に盛りつけた。
昨日までの毎日が嘘の様に、チョコレートはキラキラ輝いていた。
そして、一口食べると、素敵な時間を運んでくれた。光さんいわく、甘いものは嫌な事も、すこしは和らぐらしい。
確かに、私は納得した。口の中にチョコレートをいれるとすぐに溶けるので、もったいない気がしたが、ひとつのチョコレートで嫌な事が溶けて行くような気がした。私はそのチョコレートをかみしめて食べた。
私達は昨日の話はせずに、楽しくチョコレートを食べた。私がとても、美味しそうに食べるのでまた、光さんと聡さんは、喜んでいた。
聡さんも光さんから昨日の事を聞いたらしく、聡さんと二人になった時
聡さんは申し訳なさそうに口を開いた。
「光さんってホントに頑張り屋で、僕も挫けそうになった時、いつも、光さんに励まされて前に進めたんだ。
光さんの頑張れって、押し付けじゃなくて、いろんな経験をしている分、
そこに愛のある頑張れなんだ。
美音ちゃんはどう思う?」
「私は、ママに期待されていないから、光さんの言葉ってとても、
私にとっては嬉しい言葉なの。
でも、ふと光さんの様にはなれないって少し思ってしますことがある。」
「べつに、美音ちゃんは光さんにならなくてもいいんだよ。美音ちゃんのやり方で、美音ちゃんらしくいればいいんだよ。光さんと僕だって、いつも言ってる事がちかったりもしないかい?
でも光さんも僕も美音ちゃんが大好きだって事は同じことなんだからね。」
聡さんの言葉はほんとに魔法だ。なんだか、さっきまで入っていた力がすっと抜けていった。
「そんなおじさんから、もう一つ。
美音ちゃん、人の考え方の正義ってとても難しいんだよ。
自分が正義って思っても、相手が不合理で間違った事をしていても、その人が自分の中で正義だって思ったら、それはその人のなかで正義になる。
白黒はっきりしたいときは僕がしてるような裁判になるんだけど、そんな第三者が間に入ってくれる事は、裁判を起こさないとなかないからね。」
聡さんの話は難しく理解するのに少し時間がかかったが、そっか、私を嫌いな人は相手が主役で私が悪役になるのだと思った。
いろんな方向から人の心をよもうとすると、
いろんな事が見えてくるのかもしれない。
「美音ちゃん、学校に行ってどうしても、うまくいかないなって、心が感じたら、
光さんや僕に話してね。
今の環境に合ってなくて、他の環境に変えたら人生が楽しくなる事って結構あるからね。
美音ちゃんが逃げたくなったら、
僕が船になって美音ちゃんをよそに運んであげるから。」
聡さんはいつでも、皆の事を考えていて、私の心を中心にはなしてくれる。
心にまたそよ風がふいた。
ほんとに、二人に迷惑をかけている自分が恥ずかしかった。
でも、これからは恥ずかしい事でも、一人で悩まないで、光さんと聡さんに相談しようと思った。
私は二人の話を聞いてこんな私の為に考えてくれている人がいると思うと、いつもとは違う胸の痛さがチクットした。
期待される不安より、期待される嬉しさを改めて実感した。
私は学校に行く事を決心した。
一歩を踏み出さないと!
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