第20話 厳重なセキュリティの先
宿を出て、いつものルートを通って、稀人保護機構に着いた。中へ入ってからは、見知らぬ通路を歩いていく。具体的には地下へと向かう階段を二階分おり、とある扉の前まで来た。この建物、地下もあったのか。
扉を開けると、細い通路が奥へと続いている。奥を見ると、頑丈そうな金網で囲まれた場所に扉があり、金網の向こう側に一人の男が座っていた。金髪の中年男性だが、欠伸をしていて暇そうだ。
そちらへ向かって歩いていく。
「ヒルガー、稀人様をお連れした」
「ご苦労様ですな、ハイノ様。まずは証明書類をお願いします」
「うむ、こちらだ」
ハイノが指示すると、ラウホが手に持っていた書類の束から数枚を、金網の向こう側に座っているヒルガーと呼ばれた男に手渡した。こうして見ると海外の映画で出てくる、警察とか軍隊で武器を保管している部署みたいな感じだな。
ヒルガーは先ほどまでかったるい感じとは打って変わって、受け取った書類を机に置き、一枚一枚ゆっくりと確認している。時折俺やヤエの顔を見ているのは、何かの照合だろうか?
「……確かに書類は間違いが無いようですな。では、星晃パターンの照合をさせてもらいます」
「星晃パターン???」
よく分からない単語が出てきたぞ。
「ん? 稀人様とそちらのヤエーヒィリ様の星晃パターンは既に確認済みで、この書類にも記載されているが」
「申し訳ない、ヒラガ様には説明しておりませんでしたな。この世界に済む者は多かれ少なかれ星晃の影響を受けております。星晃の影響を受けると、生物は独自の波長を出すらしいのです。それを星晃感波紙にて記録した物、それが星晃パターンになります」
いつの間にそんなものを記録してたんだ?
「それは人によってパターンが千差万別という事ですか?」
「いかにも。同じ物は無いとされております」
「何度もすみません、その星晃というのは何なのでしょうか?」
「この世界の地下深くより噴き出すエネルギーの事です。このエネルギーの微粒子が空気中に漂っているわけですな。ちなみに町の街灯や鉄道、その他の機械はこの星晃エネルギーで動いているのですよ」
なんだそれは?? 石油みたいな物なのだろうか? それとも某ゲームのライ〇ストリー〇みたいな物か?
「微粒子で影響を受けるという事は、そのエネルギーに近づいたりすると?」
「ええ、精神や肉体がおかしくなります。とは言え、星晃エネルギーが噴き出す所は、基本的に採取場となっていて、国の管理下な上、厳重に警備されておりますので容易に近づくことは出来ませんがね。ただ、あまり人が入らぬ場所には星晃エネルギーが滞留するたまり場のような場所があったりするのでご注意ください」
よく分からないが、便利でもありながら危ない物でもあるらしい。人はともかくとして、そんな場所に野生の獣がいたりしたら、変異とかしそうものだが……。
「こっちの世界に来たての私にも星晃パターンというやつがあるのですか?」
「もちろんですよ、そちらの紙に添付してあるのがそうですな」
ハイノがそう言ってヒルガーに向かって頷くと、ヒルガーがこちらに向かってとある二枚の紙を見せてきた、十五センチ角の正方形だ、サイズとしては折り紙ぐらいか。
よく見てみると、一枚は正方形の紙の辺の真ん中を角にした九十度傾いた正方形が描かれ(◇)、その内側に同じような感じで九十度傾いた正方形、さらにその内側……と無限に四角が内側に続いている。
もう一枚は大きな丸が一つだけだ、線にブレはなく、円も奇麗な真円に見える。
「そちらの四角が多いのがヒラガ様の星晃パターンですな、丸一つだけなのがヤエーヒィリ様です。どちらも非常に珍しい星晃パターンですなあ」
「そうなのですか?」
「ええ、普通は規則性のないグシャグシャの線である事が多いです。このように規則的な絵になる事は極めて稀です」
何かを示唆しているのだろうか? ヒルガーが紙を手元へ戻し、俺たちに話しかけてくる。
「すみません、稀人様とその護衛者様。星晃パターンを取りたいので、近くまでお越し頂けますか?」
そう言われたので、俺とヤエが歩いて近づくと、金網の向こう側から平べったい箱を取り出してきた。
「その箱を自分で開けてください」
ん、この箱なら見た事があるな。説明を受け、稀人の本人確認用として使うとして紙にサインした時、ペンが入っていた箱だ。あの時に星晃パターンとやらを確認していたのか。サインする紙の方を疑ってかかっていたが……こっちが本命だったのか。なるほど、これはやられたな。
箱を開けると、中に無地の紙が入っていて、じわじわと模様が浮かび出してきた。模様はさっき見た物と全く同じ物だ。
「はい、結構です。稀人様とその護衛者様である事が確認できました」
箱のふたを閉じて、ヒルガーに返した。ヒルガーが向こう側から扉の鍵を開ける。
「こちらへどうぞ」
俺とヤエーヒィリが扉の方へ歩いていくが、ハイノとラウホは動かないままだ。
「あれ?」
俺が疑問を呈すると、ハイノがそれに答えた。
「そちらへは我々でも入る事が出来ないのですよ。武器の管理者は特別な資格を持つ者のみで、ここメルスー支部ではそこのヒルガーだけです」
そんなヤバい武器なのだろうか?
「そういう事です。ささ、稀人様、護衛者様どうぞ奥へ」
俺とヤエーヒィリが扉を通ると、ヒルガーがすぐに扉を閉め鍵をかけた。その少し奥にもう一つ扉がある。金属製のかなり頑丈そうな扉だ。
ヒルガーがズボンとチェーンで繋がった鍵をポケットから取り出し、そちらの扉のカギ穴に差し込む。鍵は三か所もある。三か所の鍵を開け、ヒルガーが重そうに扉を奥へ押し込むと、ギギギィという音と共に扉が開く。
「さあ、どうぞ。お進みください」
……こっち行っても本当に大丈夫か?
「旦那様、心配無用です。何があろうと私がおりますので」
こうなるとヤエがメチャクチャ頼もしく見えるな。ゆっくりと扉の奥へと歩き出すと、その後ろをヤエ、ヒルガーがついてくる。三人が通り抜けると、ヒルガーが扉を閉めて鍵をかけた。
その先は、また石で出来た狭い通路だ、少し先にドアが見える。
「そのドアには鍵がかかっていません、どうぞ開けてください」
ヒルガーがそう言うので、ドアまで進み扉を開ける。確かに鍵はかかっておらず、なんなく開いた。その先にあったのは…………
「……もしかして射撃場??」
「おお、流石は稀人様ですな。射撃場をご存知でしたか」
「という事は?」
「ええ、お察しの通り。稀人様とその護衛者様に渡す特別な装備と言うのは『銃』ですよ」
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