第19話 専用の武器の調達へ

 なんとなく目が覚めた、どうやらもう朝らしい……。


 昨晩は、隣にやらしい下着姿で長身のナイスバディ美人が寝ていると思うと、あまりよく眠れなかった。後ろから抱き着いてきたりしたらヤバかったな、こっちは三十一歳の魔法使い(でも魔法は使えない)だぞ! ……学生の頃に何人かと付き合いはしたけど、そこまで行かなかったんだよなあ。


 そう言えば、妙にベッドがきしむ音が聞こえたけど、ヤエってもしかして凄く重いんだろうか? デブを余裕で持ち上げてたしな。ただ、見た目はスーパーモデルって感じなので、二メートルを越えていたとて体重はしれてるはずなんだが。


 昨日、下着姿になったヤエを見る限りでは、着ぶくれしているというわけはなさそうだった。出るところはしっかり出て、引っ込むところはしっかり引っ込む。おいおい、ワ〇ピースの女性キャラかよってレベルだった。


 寝起きであまり回らない頭で色々考えながら、上半身を起こすと隣にヤエはおらず、既に着替えてベッドの脇に立っていた。いつからそこにいたんだろう。俺が寝ているのを見守っていたのだろうか?


「おはようございます、旦那様」


 今日もビシッとヴィクトリアンメイド姿が決まっている。昨日、一緒にこっちに来る時革製のトランクのような物を持ってきていた。そこには着替えなどの必要な物が入っているそうだ。同じメイド服を数着持っているらしい。


「おはよう、ヤエさん」


 ベッドから出てリビングに向かい、ソファへと腰かける。それと同時に、ヤエが水を差しだしてきた。


「お喉がお渇きではありませんか?」


「ありがとうございます」


 差し出されたコップに注がれた水をグッと飲みほす。美味い。こっちの水って飲んで大丈夫だろうかと心配だったが、こちらに来てからまだ腹は壊していないので、浄化された水であればとりあえずは大丈夫だったらしい。


「さて、と。今日は特殊な武器が貰えるんだったか」


「左様でございます」


「それまでは部屋でゆっくりするか」


 スマホを取り出そうとして、動きを止める。スマホやソーラー充電器はこっちの人間にあまり知られたくないな。取り上げられると困るからだ。


 そう思っていると、ヤエが話しかけてきた。


「ご安心ください、旦那様。旦那様の秘密は稀人保護機構や他に漏らすつもりは毛頭ございません。あくまで旦那様にのみ仕えるのが私という存在でございます」


 またもや俺が思っている事を言い当ててきた、やはりエスパー?なわけないか。


 しかし、こちらとしては本当にありがたいけど、そこまでして俺に尽くしてくれるのはなんでだろう? 稀人保護機構からの給料が良いにしても、そこまでやるかって感じなんだが。何か別の理由でもあるのか……。


 顔を見ると嘘をついているようには見えないが……。まあ、こうなってしまっては信用するしかないか。俺はスマホを取り出し、暇をつぶしだした。



 昼過ぎになってドアをノックする音が聞こえた。


「はい」


「ハイノでございます」


 昨日の約束通り、ハイノが来たようだ。俺が何かをする前に、ヤエが部屋のドアを開けた。


「こんにちは、ヒラガ様」


 お馴染みのハイノと秘書のラウホが訪ねてきた。


「専属護衛者のヤエーヒィリさんはいかがでしょうか?」


「申し分ないぐらいに献身的です」


 一緒に風呂に入ろうとしたり、夜伽を申し出たりまでするから、とは流石に言えなかった。


「過分な評価、ありがとうございます。今後も尽くさせていただきます」


「あの、ヤエさんは非常に専属護衛者として非常に良く動いてくれているのですが、他もこんなもんなんですか?」


「どうでしょう? 私が稀人様の応対をするのは初めてですので。ただ、護衛者と稀人様がねんごろになるというのは過去にもいくつか例はありますね」


 ハイノはそう答えた。確かに、色んな場面で世話を焼いてもらい、身を守ってもらう事で情が生まれても不思議はないか。ヤエはいつも通り、うっすら微笑んだままでいる。何を考えているのかは分からない。


「さて、ヒラガ様。武器の譲渡の前に、こちらの契約書をご確認ください。内容については稀人選別会議の通りで、変な特記事項も無く問題ございませんでした」


 ああ、一昨日に言っていたクタラギ商会との雇用契約書か。


「これは署名をすれば良いのですか?」


「はい、念のため署名の前に内容をご確認ください。あと、署名は地球の言語で問題ございません」


 そう言われたので、中身をざっと読み進む。……細かい字が多いなあ。とりあえず問題は無さそうだ。サインするかと思った時、ヤエが話しかけてきた。


「署名の前に、護衛者の私にも確認させていただいていもよろしいでしょうか?」


「ああ、お願いします」


 ヤエが契約書を取り、じっと眺めている。少しして机の上に契約書を戻した。


「問題ございません」


「じゃあ、サインしますね」


 署名欄に漢字で平賀浩司と記入した。それを確認したハイノが契約書を取り、ラウホに手渡した。


「こちらはクタラギ商会の方へ渡しておきます。では準備がよろしければ、昨日説明いたしました武器の譲渡場所へと移動したいのですが」


「分かりました」


 昼飯を食べた後に、昨日貰った服と靴に着替えているのでこのまま外へ出られる。同じ服を五着もらったので、しばらくは買わないで済みそうだ。


 リュックを担ごうしたところで、ヤエに止められた。


「お荷物は私にお任せください、旦那様」


 ソーラー充電器とか大事なものが入ってるからな……、どうするか。


「いやでも……」


「これも私の仕事でございます。お任せください」


 そう言うと、ヤエはリュックを担いだ。四角いリュックを担ぐ長身のメイドか……、少しミスマッチだな。


「そこまで仰るならお願いしますね」


 持ち逃げされたら困るから、今後スマホと財布ぐらいは自分のポケットに入れておいた方が良いかもしれない。ここまでの動きを見るに、ヤエは信用して良さそうだとは思うが。


「では、向かいますね」


 貰える武器ってどんな物なんだろう? 自慢じゃないが、俺には武道の心得は無い。つまり剣や槍や盾を渡されたところで、まともに扱えるわけがないし、成りあがる事も出来ないのだ。


 異世界なんだし、魔法が使える杖なんかが貰えると助かるが、ここまで生活する上で魔法の話は聞いた事が無いので、少なくともこの国にそういう概念は無さそうだ。俺が実はとんでもない魔力を持っていて、杖を貰うとともに無双する……というのは、やはり物語の中だけの事だろう。


 ヤエならどんな武器でも使いこなしそうではあるが……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る