2章 喪失の影

ジメジメとした蒸し暑さに目が覚めた。時間は朝の6時50分だった。

「今日で……」

あまり柊弥と関わっては居なかったが、何故か寂しさが残る。


カーテンを開けるといつもと変わらぬ風景が目に映る。違うのはものモヤモヤとした心と今日が葬式だってことだろう。

学校に行かないのに制服に袖を通すのは、不思議な気がした。

「宗弥大丈夫かな?」

葬式は、親族だけだと言っていたが宗弥の親が「是非、英太郎くんも参加して欲しいわ」と泣きながら言われたのだ。

柊弥ともあまり仲が良くなかったから、断れたら良かったのだが泣いてる手前断れなかった。

8時に宗弥の家に行く約束だ、朝ごはんでも食べて少しテレビでも見よう。


葬式が始まり、お坊さんがお経を読んでる間、「もう少しで……」と宗弥が呟いた気がした。

後半は何を言ってるのか聞き取れず、聞き違いなのかもしれないと思い深くは気にもとめないでいた。

それよりも、俺がここに居ていいのかが気になっていた。でもこれで柊弥と縁が切れたと思って少しホッとした気持ちがあり、とても複雑な気持ちになってしまった。


小さな葬式だからなのか、思ったより早く終わってしまった。

宗弥も「今日は1人にして欲しい」と言いすぐに2階に行ってしまった。

宗弥の両親に「わざわざ来てくれてありがとう」と言われ、一礼をし俺は家に帰っていった。


家に帰り一息ついていた頃に一通メールが来ていた。

送り主は宗弥だった。『明日、18時30分頃いつもの場所で待ってる』と来ていた。

いつもの場所とは、子供の頃よく遊んだ土手の事だ。

子供の頃よく宗弥と柊弥の3人で遊んだ記憶がある。小さなカニが居たりと意外と綺麗な川だ。

しばらくそこには行ってないが、何があるのだろうか?俺しか言えない大事な話だったり?

まぁ、行けば分かるだろう。


約束の日、18時27分頃土手に着いた。宗弥どこにいるんだろ?

少し遠いところに誰かいるような気がする…。

ーなんだ煙?

俺は嫌な予感がして小走りでその何かに近いた。

そこには燃え耐える何かがいた。皮膚はドロドロに溶けていて、目玉が飛び出ていた。

対処的に風は静かに俺の頬を撫でた。

吐き気が込み上げてきた。匂いも酷く皮膚の焦げたニオイが鼻にこびりつく。今まで嗅いだことのないニオイが脳までに回ってきたかのようで、これは現実なんだとわかってしまった。

「…ぅおぇ…。」


急いで救急車と警察に連絡をし、不意に辺りを見渡した時に俺はこの燃えてる人物の持ち物だと思われる鞄を見つけた。

ー俺と同じ高校の鞄?…まさか!!

鞄をひっくり返し生徒手帳を見つけた、そこには宗弥の写真が貼っていた。

手帳の間にメモが入っていた、そこには「母さん、父さん、英太郎ごめん、」と書かれていた。

ー待てよ理解が追いつかない。

燃えている人物も動かなくなった。火はまだ燃えていた…。

「そ…宗弥?嘘だろ?なぁ!おい!!!」

涙が溢れてきた。何故宗弥が死なないといけないんだ?!

「なんでだよぉぉぉ!!!」


俺が泣きじゃくっているとようやく警察が到着した。事情を説明し宗弥の遺書も見せた。

事件性よりも自殺の可能性が高いとの事だった。

俺にとって大切な友達がいなくなってしまった。葬式で宗弥が呟いていたのは聞き間違いじゃあ無くって、本当に呟いていたのだと言うことに今更気がついた。

何故もっと宗弥の気持ちに気づけなかったのだろうか?何故聞いた時に宗弥に何があったのか聞かなかったのか。

俺はなんて間違いを起こしたんだ…。

ーあっ、宗弥の生徒手帳持ってきちゃった。

涙で視界がおぼろげだったが、1つ引っかかるメモを見つけた。

「おいおい、これって……」


……。

部屋で1人で写真を見ていた時に一枚の写真が、私の足元に落ちた。そこには5人の子供の写真…。

英太郎、私、B音、宗弥、柊弥の5人。でも宗弥は今と違って天使のような笑顔だった。それに引替え柊弥は今の宗弥みたいに表情が無かった。

「あれ……?」

そういえば、昔宗弥くんから聞いた記憶がある。『僕としゅうくんの見分け方はね、ホクロだよ』って…。

柊弥くんにはホクロあって、宗弥くんにも同じところにホクロがあった気がする…。

「まさか…ね…」

そう言って、過去のアルバムを見返していた。

そのタイミングで電話が鳴った。

「はいもしもし」

「C菜ちゃん?私宗弥の母ですが…宗弥が…宗弥がぁ!!」

そう言って泣き出してしまった。30分くらい泣き落ち着いて話を聞いた。

「え?宗弥くんが焼身自殺をした…?」

頭が徐々に真っ白になっていくのが分かった。

ー私、宗弥くんに聞きたかったのに…。貴方は本当に宗弥くん?って…。


涙が溢れてきた。

それが宗弥くんだとしても柊弥くんだとしても、私の幼なじみで友達だったから。

私の泣く声とひぐらしの声がうるさく部屋に鳴り響いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る